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連載2

対決18

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 ユーリアの言うことが正しいのなら、初代聖女であるセーラは私と同じ魂を持つ、私とよく似た女性だったのだろう。
 けれどそう言われた所で、私はセーラの記憶を少しも思い出せないし、仮に思い出したところで変わらない。
 
 私は、ディアナだ。それ以外の何ものでもない。

 アシュリナの記憶があってなお、自分がアシュリナでないと認識している私にとって、セーラは完全に別人だ。

 私はセーラではないし、セーラになるつもりもない。

 初代【災厄の魔女】が、セーラにどんな感情を寄せていたとしても、私には関係ないし興味もない。


「……こんなこと、あなたに言っても理解してくれないだろうけど」

 魂が同じならば、同じ人間だと主張するユーリアには私の考えは理解できないだろう。
 けれど、それでもいい。 
 私と彼女がこの先もずっと相容れないことさえ、伝えることができたなら。

 ユーリアから目を逸らして、その場に座り込む。
 いい加減、【厄】がもたらす苦痛で、立っているのも限界だった。
 次から次へと溢れ出る脂汗を拭いながら、荒い息を吐く。

 ここまで結晶化が進んだ以上、ユーリアを元の状態に戻すのは不可能だろう。
 たとえトリアスの加護があったとしても、聖女の力は打ち消せない。打ち消せたとしたら、これほど長い期間【災厄の魔女】と聖女が対等に戦い続けることはできなかったはずだ。
 唯一打ち消せる可能性があるならば、聖女に力を与えたらしいルトーか、予言者が言っていた【人を作った神】だろうけど……その可能性は考えなくてもいいだろう。
 ルトーがユーリアを支援する理由はないし、【人を作った神】は常に傍観者の立ち位置を崩さない。予言で茶々を入れたりして、かき回すくらいがせいぜいだ。

 【人を作った神】は、聖女と【災厄の魔女】ーーさらに言うなら、ルトーとトリアスのどちらが勝とうがどうだっていいのだ。ただ、その戦いを楽しんでいるだけで。

「だから……これでもう、私の聖女としての役割は終わり……」

 聖女の使命は【災厄の魔女】を打ち倒すこと。
 その使命を果たした今、私がここに留まる理由はない。
 何とかこの空間を脱出し、兄様と合流し、父様達と連携をとってシャルル王子を救出して、ルシトリアに帰国する。
 まだまだやるべきことはたくさんあるけど、それでも目的時代は果たした。

 もう、私は聖女でなくていい。
 ただのディアナに、戻っていいんだ。  


「ーーやっぱり、お前が勝ったか。聖女」

 「彼」がそれをまだ許してくれないだろうと、わかってはいても。



 
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