上 下
175 / 224
連載2

ある騎士の渇望2

しおりを挟む
 父さんのかつての部下だったマイクという男が、セーヌヴェットを亡命し、【災厄の魔女の呪い】の解呪を頼みにやって来たことは、後から父さんに聞いていた。 
 かつて父さんが隊長としてまとめていた隊が、父さんの亡命後、ルイス王の圧力によってすっかり様変わりしてしまったことも。
 だとしたら、今俺を襲ってきた奴らは、かつて父さんが所属していた隊の騎士だということになる。
 だからといって殲滅したことに対して微塵も後悔はわかないが、わざわざその隊を指名して俺を襲わせるルイス王の趣味の悪さに、思わず舌打ちが漏れる。

「……何が目的でルイス王とユーリアはディアナをさらった? 二人の居場所の心当たりは?」

「だから俺は何も知らないんだよお! ただ聖女が消えるのを待って、護衛騎士を襲うようにルイス陛下から直々に命令されただけで!」

 ……思った以上に使えない。
 何の有益な情報も持っていなかった。

 【黎明】を持つ手に自然と力が入る。
 男は子どものように鼻水を垂らして泣きながら、俺に悲痛な眼差しを向けた。

「俺はもう、あんたに何もしないよ! き、騎士もやめる! 騎士をやめて家族と一緒にこの国を出るから……だからどうか殺さないでくれ! こ、婚約者がいるんだ! 来年には結婚するつもりだった!」

 男を生かすメリットはなく、逆にデメリットは大きい。
 隙を見て襲ってくるかもしれないし、いったん逃げたふりをして、新たな仲間を連れて来る可能性もある。
 向こうだって殺すつもりで俺に剣を向けたのだから、返り討ちにあって殺されたとしても自業自得だろう。
 婚約者云々の話は同情するが、襲いかかって来た敵一人一人の事情を慮っていたらきりがない。そもそもその話自体が、同情を誘う為の嘘かもしれない。
 
 泣きじゃくる男を、まっすぐに見返す。
 時間がない。さっさと決着をつけよう。

 もしかしたら、この男を斬ることで、【黎明】が俺を主として認めてくれるかもしれない。
 主に深い忠誠を誓い、主の為なら情に流されたりせず躊躇いなく剣を振るってこそ騎士だ。それを行動で示すことが、【黎明】に主として認められる為に必要なのかもしれない。

 そうだ。これはきっと【黎明】に認められる為の試験なんだ。

 間違ってはいけない。騎士として正しい行動をしなければ。

 俺は【黎明】の先を男の首元から離すとーーそのまま【黎明】を鞘に収めた。

「……見逃してやるから、さっさと行け。俺の気が変わらないうちに」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

街角のパン屋さん

SF / 完結 24h.ポイント:2,257pt お気に入り:2

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:36,695pt お気に入り:2,385

人類最強は農家だ。異世界へ行って嫁さんを見つけよう。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:217

石女と呼ばれますが......

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,651pt お気に入り:47

ある国の王の後悔

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,891pt お気に入り:102

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,261pt お気に入り:6,132

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:135,265pt お気に入り:8,236

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。