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アルク・ティムシーというドエム
アルク・ティムシーというドエム9
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もし、自分に好意を寄せている相手が、さしてよく知らない他の生徒なら、普段のルクレアを演じて「私のパートナーになろうなんて100年早いですわ」と鼻で笑い飛ばせた。
もしマシェルが少し前の、私を嫌っているマシェルなら、「あら、貴方もしかて、私に好意を抱いていらっしゃるんじゃないの?」?と、挑発することが出来た。
だけど、今のマシェルは、私の中では親しい、好意的な分類に入ってしまっていて。
そして、挑発して冗談に片づけてしまうには、向けるマシェルの瞳が真剣過ぎて。
正直、どう返すべきなのか、全く分からない。
頭の中は完全にパニック状態だ。
どうすればいい?
どう返事すれば、将来的に一番最善なのだ?
どうすれば―どうすれば、一番、マシェルを傷つけなくて済むのだろう?
たかが、学園行事のパートナーだ。ここで渡りに船とばかりに飛びついて、マシェルと踊ったところで、実際的な学園及び、貴族社会における私の立ち位置としては全く問題ない。
マシェルはメネガ家の分家筋だが、それでもなお学園に置いてはかなりの高位の家柄だ。ボレア家直系の私と並んだところで、格段に見劣りするわけではない。容姿にも才能にも優れたマシェルは、パートナーとしてはなかなかの相手なのである。
マシェルにとっても、本家筋であるにも関わらず、メネガ家よりも上位貴族であるボレア家の人間と親しく交流をしていることを表だって示すことは、益になる。
マシェルよりも才覚が劣る本家の人間にされているであろう嫌がらせ(これはゲーム内での情報である為、実際マシェルがそんな嫌がらせを受けているかは分からないけど。……まぁ、耳にする情報を考えると、何となく実際にそうなんじゃないかという感じはするのだけど)も、ボレア家と親しいことが広まれば、縮小するだろう。
私は、パートナーが見つかって嬉しい。マシェルは、ボレア家直系の私と特別親しいことを学園で示せて嬉しい。まさにウィンウィンの関係。客観的に判断するならば、私はせっかくのマシェルの申し出を受けるべきなのだろうと思う。
頭ではそう想うのだけど。だけど同時に、もしマシェルの申し出を受けてしまったら、戻れなくなってしまうような気がする自分もいるのだ。
今よりも、もっともっと、取り返しがつかないことになってしまうような、そんな予感がするのだ。
……それが良いことなのか、悪いことなのか、それすらも分からないのだけど。
「ルクレア」
名前を呼ばれて、どきんと心臓が跳ねる。
「私が他の娘とパートナーになったところで、私がその生徒を好きになることは、ありえん。……もう私の心は殆ど、決まってしまっているのだから」
何を? 何が決まっているの?
……なんて、とても言えなかった。
聞いてはいけない。聞いたら、もうその時点で、もう戻れなくなってしまうだろうから。
湧き上がって来た唾を、小さく嚥下し、視線を彷徨わせる。
言葉が、全く出てこない。
そんな動揺を隠しきれていない私の様子を見て、マシェルは小さく笑った。
「――何を真剣に悩んでいるんだ。私は『お前が当日までパートナーが見つからなかったら』と、そう言ったのだぞ。別に、お前にパートナーになってくれと申し込んでいるわけじゃない」
「……あ、そ、そうよね」
「私は今回の舞踏会では、誰ともパートナーの約束をするつもりはないからな。パートナーが見つからなくて困ったら、いつでも言ってくるといい。協力してやる」
そう言ってマシェルは何でもないことのように肩を竦めて、再びアイスを口に運び始めた。
逃がしてくれたのだと、そう思った。私が困っているから、そんな何でもないことのように言うことで、マシェルは私の逃げ場を作ってくれたのだ。
そう思ったら、ぎゅうっと胸が締め付けられた。
「……マシェル……えと、その……」
いくら考えても相変わらず言うべき言葉は、見つからず、ようやく出てきたのはこれだけだった。
「――ありがとう。気を使ってくれて、うれしいわ」
「……ああ」
真っ直ぐにマシェルの目を見て微笑むと、マシェルもまた、微笑み返してくれた。胸の奥がじんわりと温かくなった。
マシェルのこういう優しさが、とても好ましいと思う。
先入観を捨てて客観的に見て見れば、本当良い男だ。マシェルが女子にモテるのも分かる。
だけど。
だけど、私がマシェルに向ける好意は、きっと――……。
「――なんという友想いなんだ。マシェル・メネガ卿。私は君の美しい友情に、とても感動しているよ。君の友に対する献身的姿勢を賛辞すると共に、私からも感謝の言葉を言わせてもらおう」
しかし、沈みかけた思考は、突然背後から聞こえて来た声によってかき消された。
驚いて振り向いた私の目に、飛び込んで来たものは。
「だけど、マシェル卿。ルクレア嬢が当日までパートナーを作れないということは、まずありえないよ。だって、皆、ただ私に遠慮しているだけなのだから。私が一番最初にルクレア嬢に、パートナーになってくれと申し込めるようにね」
――お前は舞台役者か! と脳内突っ込みをしたくなるような、きざったらしい芝居がかったポーズで微笑む、オージン・メトオグの姿だった。
もしマシェルが少し前の、私を嫌っているマシェルなら、「あら、貴方もしかて、私に好意を抱いていらっしゃるんじゃないの?」?と、挑発することが出来た。
だけど、今のマシェルは、私の中では親しい、好意的な分類に入ってしまっていて。
そして、挑発して冗談に片づけてしまうには、向けるマシェルの瞳が真剣過ぎて。
正直、どう返すべきなのか、全く分からない。
頭の中は完全にパニック状態だ。
どうすればいい?
どう返事すれば、将来的に一番最善なのだ?
どうすれば―どうすれば、一番、マシェルを傷つけなくて済むのだろう?
たかが、学園行事のパートナーだ。ここで渡りに船とばかりに飛びついて、マシェルと踊ったところで、実際的な学園及び、貴族社会における私の立ち位置としては全く問題ない。
マシェルはメネガ家の分家筋だが、それでもなお学園に置いてはかなりの高位の家柄だ。ボレア家直系の私と並んだところで、格段に見劣りするわけではない。容姿にも才能にも優れたマシェルは、パートナーとしてはなかなかの相手なのである。
マシェルにとっても、本家筋であるにも関わらず、メネガ家よりも上位貴族であるボレア家の人間と親しく交流をしていることを表だって示すことは、益になる。
マシェルよりも才覚が劣る本家の人間にされているであろう嫌がらせ(これはゲーム内での情報である為、実際マシェルがそんな嫌がらせを受けているかは分からないけど。……まぁ、耳にする情報を考えると、何となく実際にそうなんじゃないかという感じはするのだけど)も、ボレア家と親しいことが広まれば、縮小するだろう。
私は、パートナーが見つかって嬉しい。マシェルは、ボレア家直系の私と特別親しいことを学園で示せて嬉しい。まさにウィンウィンの関係。客観的に判断するならば、私はせっかくのマシェルの申し出を受けるべきなのだろうと思う。
頭ではそう想うのだけど。だけど同時に、もしマシェルの申し出を受けてしまったら、戻れなくなってしまうような気がする自分もいるのだ。
今よりも、もっともっと、取り返しがつかないことになってしまうような、そんな予感がするのだ。
……それが良いことなのか、悪いことなのか、それすらも分からないのだけど。
「ルクレア」
名前を呼ばれて、どきんと心臓が跳ねる。
「私が他の娘とパートナーになったところで、私がその生徒を好きになることは、ありえん。……もう私の心は殆ど、決まってしまっているのだから」
何を? 何が決まっているの?
……なんて、とても言えなかった。
聞いてはいけない。聞いたら、もうその時点で、もう戻れなくなってしまうだろうから。
湧き上がって来た唾を、小さく嚥下し、視線を彷徨わせる。
言葉が、全く出てこない。
そんな動揺を隠しきれていない私の様子を見て、マシェルは小さく笑った。
「――何を真剣に悩んでいるんだ。私は『お前が当日までパートナーが見つからなかったら』と、そう言ったのだぞ。別に、お前にパートナーになってくれと申し込んでいるわけじゃない」
「……あ、そ、そうよね」
「私は今回の舞踏会では、誰ともパートナーの約束をするつもりはないからな。パートナーが見つからなくて困ったら、いつでも言ってくるといい。協力してやる」
そう言ってマシェルは何でもないことのように肩を竦めて、再びアイスを口に運び始めた。
逃がしてくれたのだと、そう思った。私が困っているから、そんな何でもないことのように言うことで、マシェルは私の逃げ場を作ってくれたのだ。
そう思ったら、ぎゅうっと胸が締め付けられた。
「……マシェル……えと、その……」
いくら考えても相変わらず言うべき言葉は、見つからず、ようやく出てきたのはこれだけだった。
「――ありがとう。気を使ってくれて、うれしいわ」
「……ああ」
真っ直ぐにマシェルの目を見て微笑むと、マシェルもまた、微笑み返してくれた。胸の奥がじんわりと温かくなった。
マシェルのこういう優しさが、とても好ましいと思う。
先入観を捨てて客観的に見て見れば、本当良い男だ。マシェルが女子にモテるのも分かる。
だけど。
だけど、私がマシェルに向ける好意は、きっと――……。
「――なんという友想いなんだ。マシェル・メネガ卿。私は君の美しい友情に、とても感動しているよ。君の友に対する献身的姿勢を賛辞すると共に、私からも感謝の言葉を言わせてもらおう」
しかし、沈みかけた思考は、突然背後から聞こえて来た声によってかき消された。
驚いて振り向いた私の目に、飛び込んで来たものは。
「だけど、マシェル卿。ルクレア嬢が当日までパートナーを作れないということは、まずありえないよ。だって、皆、ただ私に遠慮しているだけなのだから。私が一番最初にルクレア嬢に、パートナーになってくれと申し込めるようにね」
――お前は舞台役者か! と脳内突っ込みをしたくなるような、きざったらしい芝居がかったポーズで微笑む、オージン・メトオグの姿だった。
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