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アルク・ティムシーというドエム
アルク・ティムシーというドエム10
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「……お久しぶりですわね、オージン殿下」
作り笑いを浮かべながら、挨拶を口にした途端、オージンの顔が溢れんばかりの喜悦に輝いた(ように見えた。というか、オージンのことだから敢えてそういう風に見えるようにしているはず)
「ああ、愛しいルクレア嬢! 本当に久方ぶりだ……! 君に会えない日々が、私にとっていかに長かったことか……! こうしてまた、ちゃんと話す機会が得られて本当に嬉しいよ……!」
オージンは大げさに感動しながら、私の手をそっと取って、甲に口づけを落とした。
……嘘こけ。ふつ-にデイビッドと直接連絡取っても問題なさそうな状況になったから、中間媒体である私を省いていただけの癖に。利用価値が無ければ、わざわざ私に会う気なんかさらさらないんだろう、お前。
てか、すっかり忘れてたけど、こいつ自分の惚気話を気兼ねなく語る為に、私の名前勝手に使ってんだよな? うわ、思い出したら、改めて腹が立って来た。
ねぇ、ここ思いっきり公衆の面前だけど、殴っていい? そのお綺麗な顔が、二目と見られなくなるまで、ぼこぼこにしてしまっていい?
そう考えたら思わず、作り笑いが引きつった。……駄目だ、私耐えろ。相手は腐っても皇太子。一先ず我慢だ、我慢。
そんな私の反応を、完全無視して(まず間違いなく、私の心中を察したうえで無視しているのであろうと断言できる。本当に、こいつは腹の中が真っ黒だ)オージンはにこやかに笑みを浮かべる。
「ここ暫く、残念ながら貴女と会うことが出来なかった。……だからこそ、特別なイベントの日くらいは貴方と過ごしたいと、そう思ったんだ」
そういって目を細めるオージンは、まるで恋に戸惑う初心な少年のよう。
だが、私には分かる。その動作は、細部に至るまで、自分が一体どのように見えるかを完全に計算して作られたものであることを。
その動作に意図的に滲ませた感情は、ほとんど全て偽りであることを。
オージンは、先日のアルクのように恭しくその場に片膝をついて、熱っぽい目で私を見上げた。
「ルクレア嬢――私のパートナーになって頂けませんか?」
途端、カフェテリアのあちこちから、押し殺したような歓声が聞こえて来た。
……うん、そうだろうと思ってたけど、やっぱりカフェテリア中の生徒、私たちのこと見てるね!
うん、今さらだけどさ!
高位貴族が、公の場で対等以下の相手に対して、下位の貴族の礼を行うことは、最大限の誠意の証明だと言った。
それが適応されるのは、何も謝罪だけではない。……そう、求愛にだって適応されるのだ。
下位の礼が求愛の際に用いられる時……すなわちそれは【私は貴方の愛の奴隷です】と、そういう表現していることに他ならない。
この世界におけるフィクションの世界――特に恋愛物語では、定番となっているこの行為。
だが、普通の上位貴族は、結婚式以外ではまずやらない。
やったとしても、密かに恋人と二人きりの時に、行うようなそんな行為だ。
そう、敢えて例えるならば、群衆の面前で、「世界で一番、君を愛している! 君がいない世界なんて、僕が生きる意味がないんだ! どうか、毎日僕の味噌汁を作って、そして死ぬときは僕の家の墓に入って欲しいんだ!」と、踊りながら告白するようなものだ。……相当の羞恥を伴う。
言う方も……そして言われる方も。
「……素敵」
「流石、オージン様……まるで物語の一幕のようですわ」
「ああ、本物の王子様に、あんな風に愛を囁かれるなんて、なんて羨ましい。……でもお相手がルクレア様なら納得ですわ。……とても、敵いませんもの」
ほう、と感嘆の溜め息を吐きながら、うっとりと頬を染めて口々にそんなことを言い合う周辺女子生徒達。
彼女たちの声を聴きながら。油断すればとんでもないことになりそうな顔を、必死で取り繕う。
――そう思うなら、どうかお願いですから、ポジション変わってください。誰でもいいから。
この立場、ものすんごく恥ずかしい。
作り笑いを浮かべながら、挨拶を口にした途端、オージンの顔が溢れんばかりの喜悦に輝いた(ように見えた。というか、オージンのことだから敢えてそういう風に見えるようにしているはず)
「ああ、愛しいルクレア嬢! 本当に久方ぶりだ……! 君に会えない日々が、私にとっていかに長かったことか……! こうしてまた、ちゃんと話す機会が得られて本当に嬉しいよ……!」
オージンは大げさに感動しながら、私の手をそっと取って、甲に口づけを落とした。
……嘘こけ。ふつ-にデイビッドと直接連絡取っても問題なさそうな状況になったから、中間媒体である私を省いていただけの癖に。利用価値が無ければ、わざわざ私に会う気なんかさらさらないんだろう、お前。
てか、すっかり忘れてたけど、こいつ自分の惚気話を気兼ねなく語る為に、私の名前勝手に使ってんだよな? うわ、思い出したら、改めて腹が立って来た。
ねぇ、ここ思いっきり公衆の面前だけど、殴っていい? そのお綺麗な顔が、二目と見られなくなるまで、ぼこぼこにしてしまっていい?
そう考えたら思わず、作り笑いが引きつった。……駄目だ、私耐えろ。相手は腐っても皇太子。一先ず我慢だ、我慢。
そんな私の反応を、完全無視して(まず間違いなく、私の心中を察したうえで無視しているのであろうと断言できる。本当に、こいつは腹の中が真っ黒だ)オージンはにこやかに笑みを浮かべる。
「ここ暫く、残念ながら貴女と会うことが出来なかった。……だからこそ、特別なイベントの日くらいは貴方と過ごしたいと、そう思ったんだ」
そういって目を細めるオージンは、まるで恋に戸惑う初心な少年のよう。
だが、私には分かる。その動作は、細部に至るまで、自分が一体どのように見えるかを完全に計算して作られたものであることを。
その動作に意図的に滲ませた感情は、ほとんど全て偽りであることを。
オージンは、先日のアルクのように恭しくその場に片膝をついて、熱っぽい目で私を見上げた。
「ルクレア嬢――私のパートナーになって頂けませんか?」
途端、カフェテリアのあちこちから、押し殺したような歓声が聞こえて来た。
……うん、そうだろうと思ってたけど、やっぱりカフェテリア中の生徒、私たちのこと見てるね!
うん、今さらだけどさ!
高位貴族が、公の場で対等以下の相手に対して、下位の貴族の礼を行うことは、最大限の誠意の証明だと言った。
それが適応されるのは、何も謝罪だけではない。……そう、求愛にだって適応されるのだ。
下位の礼が求愛の際に用いられる時……すなわちそれは【私は貴方の愛の奴隷です】と、そういう表現していることに他ならない。
この世界におけるフィクションの世界――特に恋愛物語では、定番となっているこの行為。
だが、普通の上位貴族は、結婚式以外ではまずやらない。
やったとしても、密かに恋人と二人きりの時に、行うようなそんな行為だ。
そう、敢えて例えるならば、群衆の面前で、「世界で一番、君を愛している! 君がいない世界なんて、僕が生きる意味がないんだ! どうか、毎日僕の味噌汁を作って、そして死ぬときは僕の家の墓に入って欲しいんだ!」と、踊りながら告白するようなものだ。……相当の羞恥を伴う。
言う方も……そして言われる方も。
「……素敵」
「流石、オージン様……まるで物語の一幕のようですわ」
「ああ、本物の王子様に、あんな風に愛を囁かれるなんて、なんて羨ましい。……でもお相手がルクレア様なら納得ですわ。……とても、敵いませんもの」
ほう、と感嘆の溜め息を吐きながら、うっとりと頬を染めて口々にそんなことを言い合う周辺女子生徒達。
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