乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
170 / 191
アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム43

しおりを挟む
「現段階で俺が隷属魔法を使っているのは、こいつだけだ。つまりお前は唯一の被害者も望まない状況で、ただのおせっかいな正義感故に騒ぎ立てるということになるな。その為に、ボレア家である、こいつを敵に回して。……馬鹿馬鹿しい話だと思わねぇか?」

「っ……」

「状況を理解したなら、引っ込んでろ。優男」

 完全に打ちのめされているマシェルを嘲笑いながら、デイビッドが私に向かって手を差し出す。

「――来い、ルクレア」

 ――悪魔だ、悪魔がいる……っ!

 私に自ら手を取るように仕向けるとか、デイビッドどんだけマシェルを追い詰める気なの!?
 私が言うのもあれだけど、やめて、やめてあげて……! マシェルのライフはもう0よ……! ついでに私の罪悪感もMaxでゲージ振り切れそうよ……!

 思わず固まってしまった私に、機嫌が急降下したデイビッドが舌打ちをする。


「……そろそろこの辺りまで来てるはずだから、さっさとしろ」

 ……あ、そうか。デイビッド、鬼ごっこの最中だ。アルクを撒いて、ここまで来たわけか。
 このまま迷っていたら、アルクが追い付いて、デイビッドが捕まってしまう。
 そうなったらデイビッドは、アルクのパートナーになる。……それは嫌だ。

「……ごめん、マシェル」

 私はマシェルから離れて、デイビッドの手を取った。
 にんまりと満足そうに口端を吊り上げるデイビッドと、絶望に顔を染めるマシェル。


 やめて、やめて

 そんな、顔をしないで

 お願いだから、マシェル。傷つかないで

 私のせいで、傷つかないで


「よし、走るぞ、ルクレア。ついて来い」

「………」


 オージンにパートナーを申し込まれた時と、脳内で情景がリンクした。
 連れ去ってくれる誰かに身を任せて、マシェルを傷つけたまま、逃げ去る私。

 ――良いのか? 本当に、これで


 逃げて、誤魔化して、見ないふりをして、傷つけて

 本当に、それで良いのか? 私

 胸を張って、自分は正しいと、それによって生じた全てを潔く受け止めることができると、そう思えるのか?

 デイビッドが足を向けるも動かし始めた。考える時間は、ない。
 立ち竦むマシェルの脇を横切りながら、叫ぶ。

「――明日の、放課後! ここで、さっきの話の続きを、しよう!」

 弾かれたように私の方を向いたマシェルに、今の私のできる精一杯の微笑みを向ける。
 気品とか優雅さとかにはほど遠い、情けないまでに引きつった笑みを。

「マシェルの言いたいこと、全部聞くよ! 話せることは、全部話す! だから、明日放課後ここに来て!」

 マシェルを傷つけなくて済む選択肢なんて、思い付かない。どうやっても、私はマシェルを傷つけるだろう。

 ならばせめて、覚悟を持ってちゃんと向き合おう。傷つける現実がどんなに怖くても、逃げずにマシェルと話そう。

 それが私がマシェルに示せる、精一杯の誠意だから。


「――ああ、必ず」

 驚いたように目を見開いていたマシェルは、ややあって泣き笑いのような、そんな複雑な笑みを浮かべて私を見た。

「必ず、明日ここに来る。――約束だ」

 向けられたその声は、悲しそうでもあり、それでいてどこか嬉しそうでもあった。


 デイビッドの足は速い。それについていけば、瞬く間にマシェルの姿は遠くなる。

 だけど、物陰に隠れて姿が見えなくなったであろうその瞬間まで、焦がすような熱い視線が向けられていることを、背中で確かに感じていた。




「――エンジェ嬢……! ……どこだ……どこにいるんだ……!」

「……ちっ、あのドエム野郎! 追い付いて来やがった……!」

「………てか、ちゃんと男の格好してんのに、正体バレてるとか……あ、そうか。男装としか思われなかったのか」

「うっせぇ……! この格好見ても男だと思わねぇ、あの野郎の目が節穴なんだよ……!」


 鬼ごっこ いん だーくほれすと なう

 ……あれ、そういえば私、何で今デイビッドと一緒に逃げる羽目になっているんだろう?

 なんで、アルクとデイビッドの鬼ごっこに、私まで巻き込まれてるんだ?

 ……あれ?
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】ゲーム序盤に殺されるモブに転生したのに、黒幕と契約結婚することになりました〜ここまで愛が重いのは聞いていない〜

紅城えりす☆VTuber
恋愛
激甘、重すぎる溺愛ストーリー! 主人公は推理ゲームの序盤に殺される悪徳令嬢シータに転生してしまうが――。 「黒幕の侯爵は悪徳貴族しか狙わないじゃない。つまり、清く正しく生きていれば殺されないでしょ!」  本人は全く気にしていなかった。  そのままシータは、前世知識を駆使しながら令嬢ライフをエンジョイすることを決意。  しかし、主人公を待っていたのは、シータを政略結婚の道具としか考えていない両親と暮らす地獄と呼ぶべき生活だった。  ある日シータは舞踏会にて、黒幕であるセシル侯爵と遭遇。 「一つゲームをしましょう。もし、貴方が勝てばご褒美をあげます」  さらに、その『ご褒美』とは彼と『契約結婚』をすることで――。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ もし「続きが読みたい!」「スカッとした」「面白い!」と思って頂けたエピソードがありましたら、♥コメントで反応していただけると嬉しいです。 読者様から頂いた反応は、今後の執筆活動にて参考にさせていただきます。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

処理中です...