乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

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それぞれの恋の行方

それぞれの恋の行方7

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「――あれー、見つからないねぇ。いないのかな」

「イナイノカモシレマセンネ。昨日モ、見ツカラナカッタノデスヨネ?」  

「…………」

「うん、そう。もしかしたら、何か事情があって訓練休んでいるのかもね―。仕方ないからこの差し入れ、みんなで食べちゃおうか」

「イインデスカ!? コノ【パフェ】トイウ食ベ物トテモ美味シイノデ、トテモ嬉シイデス」

「……………」

「……もうっ、シルフィってば、いつまで拗ねてるの!」

 私はピクニックセットを広げながら、さっきからふてくされたままのシルフィを、叱りつける。
 シルフィは私の言葉にぷぅとほっぺを膨らませてソッポを向いた。

「……ダッテ、マスター今日、私一人ヲ呼ンデクレナカッタ」

 ……う、可愛い。
 可愛いが、ここで甘やかしたら、ひいきになってしまう。ただでさえ拗ねている他の精霊達(特にサーラム)が、ますます拗ねる。
 心を鬼にして、きっとシルフィを睨み付ける。

「……昨日はちゃんと約束通り、一日シルフィだけといたでしょう。特別扱いは、終わりですっ」

 先日の舞踏会の時にシルフィに約束したご褒美ーーそれは、【他の精霊を召喚しない状態で、私一人で一日マスターといたい】という何とも可愛いものだった。
 もう可愛い過ぎて可愛い過ぎて、鼻血を吹きそうになるのを耐えながら、お望み通りに昨日一日ご奉仕させていただいたわけですが、このお嬢様は一日では不足だったようだ。

 まあそんな愛らしい我が儘に少しでも応えてあげようと、今日はシルフィと一番仲が良いディーネを二人で呼んだわけだけど、それでもまだ拗ねてるのでいい加減怒ることにする。

 ……明日さらに拗ねてるサーラムとノムルのご機嫌とりをしなきゃならない、ご主人様の幸せな心労も少しは考えてくれよぉ。

「いつまでも聞き分けがない、悪いこにパフェはあげません。……ディーネ、シルフィの分も食べていーよ」

「エ……」

「……ッ!」

 そう言って、二つ分のパフェを差し出す私に、ディーネは困惑の表情を浮かべ、シルフィは泣きそうに顔を歪める。

 ……ふふふ、こんなこと言ったら、またシルフィが「マスターはディーネの方が好きで私のことなんかどうでもいーんだ!」っていうと思うでしょう? 大丈夫。なんの問題もない。

 ディーネは差し出したパフェとシルフィを交互にちらちらと眺めて、悲しげに眉を垂らせた。

「……シルフィガ食べナイノニ、私ダケ貰ウワケニハイキマセン」

「……ッ!」

 驚愕の表情を浮かべるディーネに、シルフィは近寄って言って、どこかせつなげに微笑みながら頭を下げて。

「……ゴメンナサイ、シルフィ。マスタートノ時間、邪魔シチャッテ」

 ……ああ、ディーネ、マジ天使。

 そんなディーネの様子にシルフィはわたわた狼狽してたが、やがてそっと肩を落として溜め息を吐き出した。

「……アー、モウ。ディーネガ良イコ過ギテ、ワガママ言ッテル私ガ馬鹿ミタイジャナイ」

「ゴ、ゴメンナサイ……」

「ウウン。……謝ルノハ私ノ方ダヨ」

 シルフィもまた眉を垂らして笑いながら、ディーネに頭を下げた。

「邪魔ニシチャッテ、ゴメンネ。ディーネ。……マスターモ、ワガママ言ッテゴメンナサイ。私モ一緒二パフェ食ベテイイ?」

 ……いや、ディーネだけじゃない!素直に謝るシルフィもまた天使! てかうちのこ、皆オール天使! 
 背中に翼が見えるのは、エンジェちゃんじゃなく、このこらだ……!

「もちろん! みんなで一緒に食べよう」 


 それぞれパフェを用意して、三人でおやつにする。
 顔をきらきらさせて美味しそうにパフェを頬張る二人がとても可愛い。

「……モー、ディーネッタラ、頬ッペタニ、クリームツイテルヨ。取ッテアゲル」

「アリガトウゴザイマス」

 ディーネの頬についた生クリームを、しょうがないなあとでも言うように拭うシルフィの姿に生ぬるい気持ちになる。

 ……内気で大人しいからシルフィもサーラムも、ディーネを妹扱いしている節があるけど、実際精霊達の中で一番精神年齢高いのってディーネだよね。その分一歩引いて我慢しちゃうから、よけい注意して構ってあげないといけないけど。

 敢えて順番をつけるなら、長女:ディーネ、次女:シルフィ、長男(三番目):サーラム、末っ子:ノムルって感じ? ……シルフィもサーラムも言ったら拗ねるから、敢えて口には出さんけど。

 まあ、なんにせよ、微笑ましい。

 そんな疑似姉弟関係に想いを馳せながら、パフェを口に運ぶ。……さすが、ボレア家料理人。この試作品、かなりカフェテリアに近いわ。よくもまあ口頭アドバイスだけでここまで近づけたものだわ。

 ……デイビッドにも、これ食べさせてあげたかったんだけどなあ。

 昨日、今日と差し入れを持って森の中を散策しているのに、何故だかデイビッドと出会えずじまいである。……まあこんな広い森の中で今まですんなり会えてた方が、すごいのかもしれない。
 大分日も短くなってきた。真っ暗になる前に帰ろう。

 ……仕方ないから、また明日森に来てみるか。

 そう思ってパフェを食べ終わるなり、ディーネとシルフィを伴って家路についた。

 ――しかし

「マスター、マスター! シルフィバッカリ、ズルイ! 贔屓ダ! 贔屓!」

「……だから、サーラム。今日はちゃんとサーラムだけ呼んでるでない」

「シルフィ一日一緒ダッタッテ聞イタゾ! 俺モ放課後ダケジャナクテ一日!」

「……くそっ……可愛い……サーラムが今度、何かご褒美あげるようなことしてくれたらね」

「絶対ダゾ!」

 次の日もまた、森でデイビッドに会うことは出来なかった。

「……グウ」

「……おーい。ノムルさんや。人の頭の上で眠って、それ護衛の意味あるのかい?」

「……グウグウ……」

「……そんなに眠たいなら、精霊界帰る? 他の子ら呼ぶ?」

「……ヤダ」

「(起きてた……!?)」

「マスターノ体温、一番好キ。……一番、気持チヨク、寝レル。……俺ダケ、一人占メ出来ナイ、ズルイ。……チャント、何カアレバ、スグ起キル……」

「……っく、そこで髪にしがみつくデレを出すなんて……ズルいぞ、ノムル。……超あざと可愛い……」

 次の日も、見つからなかった。

 次の次の日も、そのまた次の日も、森の中でデイビッドに出くわすことは無かった。
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