夢のような日々

てくたいと

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蛍袋を鳴らすため

首輪4

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「とりあえず、ようこそコロニーへ。一先ずは歓迎するよ」
 少女は大仰に腕を広げると、口角を釣り上げて満足気に笑って見せた。自信に満ちた笑顔は引き込まれる魅力を持っており、思わず口を閉じてしまう。
 最初と同じようで、似ている何か。明らかに雰囲気を変えているのに関わらず、それを不自然とも思えない。
「とはいえ、手荒い出迎えになった事は先に謝らないとね。キン」
 違和感に思考を鈍らせていると、不意にキンが名指しされてそちらを見る。彼女は何やら不機嫌そうに顔をそらしており、虎さん達は我関せずとお互いに自分の定位置へと歩き出していた。
「謝ることなんて無いだろう」
「害意の無い相手に刃物を振り回しておいて?」
 少女は肩をすくめると、何かを待つようにキンを見つめ続ける。彼女達の関係は少しばかり複雑なのだろう。飴を巡って説教されていたのが、嘘のような景色だ。
 そうすること数分。そろそろ居たたまれなくなる頃合いになって、ようやくキンが口を開けた。
「……悪かった」
 根負けしたのはキンで、それだけ言うと部屋を出て行ってしまう。見た目に不釣り合いな子供っぽい言動で、少女を含めてバラバラな布を縫い合わせたようにちぐはぐだ。
「気を悪くしないでやって欲しい。アレで反省はしてると思うよ」
 少女は肩をすくめて見せ、こちらもそうした。
「それはいいんだが、えーっと君がリーダーって事でいいかな?」
「あぁ、紹介が遅れたね。私はここの副リーダーって所かな。クロって呼んで欲しい」
 クロは思い出したように立ち上がり、スカートの裾を指で持ち上げると可愛らしくお辞儀をする。
 まるで絵本から出てきたような仕草で、現実のそれとはあまりにも乖離して見えた。
「それじゃ、クロさん。コロニーっていうのはどういう集団なんだ?」
 色々と聞きたい事はあるが、まずは相手を知らないと何を言われても判断できない。
「私たちはただ身の安全を保障されたいんだ。生き残った人が身を寄せて守り合う。それだけの組織さ」
 クロは愛おしそうにぬいぐるみを抱き寄せると、包むように抱きしめて見せる。
 大袈裟な言動がよほど好きらしく、その後はやはりにんまりと笑っていた。
「守り合うだけで、そんなに手に入るのか?」
 棚に並べられた大量の飴玉を指刺し、ただ疑問を口に出す。
 自分で言うのもなんだが、昔から正義感だけは人一倍だった。イジメを見たら助けるし、ボランティアにも参加する。思い返せば、自衛隊に入ったのもそんな動機だった。
 クロは質問の意味を正しく受け取ったらしく、顎に手を添えると少し考え始めた。
「私達のルールは相互協力だから、それ以上の事には干渉しないんだ。何をして得た物かは、所有者に聞いて欲しい」
 返事は曖昧なものではなく、ハッキリと事実を伝える。入手元については、キンに直接聞くほか無さそうだ。
「まさか、未だに法律なんてのに拘ってるのか?」
 どうしたものかと頭をひねっていると、虎さんと呼ばれていた男が声をかけてくる。顔を向けると、彼はいかがわしい本を見たままこちらを見ず、ただ言葉を繋げた。
「人を殺してはいけません。物を盗んだり奪ったりしてはいけません。そいつぁ聞こえのいい話さな」
 彼はそれで話をやめたが、十分に言いたい事は分かる。いまだに正義を物差しにしてるとは、自分でも馬鹿らしい。
 しかし、生まれつきの性分は変えられなかった。正当防衛とはいえ、最初の殺しをした時には自己嫌悪に数日潰す羽目になっている。
「まぁ、気持ちの問題としてそれを嫌がるのは分かるよ?」
 沈黙を見たクロは、虎さんの代わりに口を開いた。
「ただ、考え方を変えて欲しい」
 どうにも、心を読まれているようで落ち着かない。子供のような見た目をしているのに、掴み所のない雲のような存在。
 この居どころの分からない不快感も、クロの魔具が関係しているのかと邪推してしまう。
「戦える人が居なくなれば、私たちが死ぬ。君やキンが死ぬ事は、私たちのライフラインが無くなるに等しいんだ」
 訝しむこちらに考える余地を与えるために、クロはそれ以上を口にしない。
 言っている事はもっともだ。戦える人が居ればこそ探索に行けるし、交渉を行える。もし誰かを見逃して徒党を組まれでもしたら、無事では済まない。
 わざわざ自分達を引き合いに出した辺り、こちらの事をよく理解しているようだ。
「お前達を守るために、その他の全員はやってしまえ、と?」
「少なくとも、相手はそのつもりだよ。子供を見逃したら背中を刺された男が居てね。良い教訓になったよ」
 頭ではそれが最善だと理解できる。資源が有限になった今、部外者は減れば減っただけ得をする。
 ただ、それでも頷けない。
「……じゃあ分かった。君は君のやり方でいいよ。ただし、君には常に誰かを随伴させる。背中を刺されでもしたら痛いだろう?」
 ついに折れたのは、クロの方だった。こちらに折れる気は無いのだから非常に助かる。
 しかし、何かが腑に落ちない。騙されているのとは違う、見落としているような違和感だ。
「分かった。それでいいよ」
 しかし、こういった問答をしていれば多からず出てしまう物だろう。深く考えるのはやめて、簡単に返事を返した。
「話は済んだね。キーからの伝達で、南西に生体反応。距離は1キロ半らしいけど、どこぞのお兄さんを追ってきたのかな?」
 すると、それを待っていたかのようにバンダナの男が口を開く。
 俺が連れてこられてからおよそ一時間。それでもなお1キロ以上離れているなら、足が不自由な可能性もある。そうでないなら無関係か、あるいは仲間を呼んできたのか。
「待て待て待て、勝手に動かれたら困る」
 虎さんに手首を掴まれてから、ようやく自分が歩き出していた事に気付いた。しかし、こちらもそれに従う気はなく、振り払うとそのまま外へと出て行く。
「ありゃ、嫌われちゃったかね? 若いってのは良くも悪くも羨ましいよ」
「まぁ、好きにしていいって言っちゃったから仕方ないよ。それよりセキ、キンに……」
 何やら話を始めていたが、それに聞き耳を立てる気はない。ただ、エレベーターに着いて上を見上げると、予想以上の高さに少しだけ辟易してしまった。
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