龍の力を持つ冒険者、理想が合わなくなったパーティーを抜けて自由に活動していきます

Corlas

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第十五話 裏技

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「最近由衣の調子はどうだ?」
「相変わらずです。素直でいい子ではあるんですけど、ちょっと疲れちゃいます」
「そうか、まあ元気そうならなによりだ」

 由衣の一件から数日。彼女の調査に進展は見られなかったが、日常に落ち着きは取り戻して二人は依頼に行けるようになった。
 当初はかなり彼女の扱いには戸惑ったものだ。とにかく由衣はれんから離れようとしないのだ。おかげでギルドの受付嬢見習いとしての仕事を教えるのも苦労し、れんも付き添って何とか出来たらしい。
 今日もれんが依頼に行く時に「やっぱり一緒にいきたい」と言い張り説得に数十分を要していた。
 姉妹のように思っていたが、あそこまでいったら親子のようなものだ。年齢差はあまりないが、精神的な部分でみるならその表現で全く違和感がない。

「しかも採取依頼しか無いだなんてな」
「・・・でも、ちょっと安心してます。やっぱりモンスターと戦うのは怖いですから」

 受付見習いの由衣の仕事は大きく二つ、一つはれんが留守の間、ギルドで雑用をすること。
 もう一つは諒とれんが依頼を受ける際、代わりに莉彩から二人用の依頼を受け取ってそれを紹介することだ。
 ギルド以外で依頼を受けるなんて随分と新鮮だったが、問題だったのは由衣が「お姉ちゃんに危険なことしてほしくない」と討伐依頼を全てギルドに置いてきてしまったことだ。
 あれはおそらくしばらくは変わらないだろう。現状依頼を受けるのは彼女を通してなので、討伐依頼でも大丈夫だと思わせられるよう気長にやるしかない。

「そうか、ならちょっと悪いことをしたかもな」
「・・・え?」

 そんな中受けた依頼は「薬膳茸」の採取、場所は央都から東の山道だ。
 この茸は様々な薬の調合素材になるもので、そのまま食べても回復力を高める効果がある。
 効果の有用さゆえ人気も高く、成長した頃合いを見計らってこうして依頼が来る。
 といった特段何の変哲もない依頼なのだが、この依頼は一種の裏技的な部分があった。

「・・・っ!」
「やっぱりいるみたいだな」

 薬膳茸はモンスターに対しても効果がある。
 そのため薬膳茸の群生地はほぼ確実にモンスターが巣くうエリアにもなっている。
 本来冒険者は依頼されたモンスター意外との戦闘は許可されていないが、依頼に支障が出る場合はその限りではない。
 特に依頼地がモンスターの巣になっている場合はそのモンスターを追い払うことは当然許可もされている。
 数の少ないEランクの討伐依頼だが、こうした採取とともにほぼ確実にモンスターとも戦える依頼は裏技的なものとして冒険者に知られている。

「数はそれなりだが相手はEランク。落ち着いてやれば大丈夫だ」
「・・・わかりました」

 ここを住みかにしているのは「プレイウルフ」、集団で標的を襲う狼形のモンスターで、Eランクの中ではかなり強敵の部類に入る。
 二人は武器を抜き背中合わせになって周囲を警戒する。
 薬膳茸の群生地はもう目と鼻の先、同時にウルフ達ももうすぐそばにいるだろう。

「・・・あそこです!」

 れんが先にその存在に気づく。諒から四時の方向にウルフの姿が見えた。
 二人に気づかれたことで奇襲を諦めたか、ウルフが鳴き声を上げたと思うと四方八方から次々と姿を現した。

「かなり多いな。下手に接近するより、固まって迎撃するぞ」
「わかりました」

 れんは緊張の面持ちで答えると弓を弾き絞る。ウルフ達は警戒しているのかすぐには襲ってこない。
 そこに先手必勝とばかりにれんは一体に向かって矢を撃ちこむ。

ギャアア!!

 狙い通り矢はウルフの眉間を打ち抜く。狙いが良かったのかその一撃でまず一体を仕留めた。
 いきなりやられたことで残ったウルフ達は怒りの目で諒達に襲い掛かる。

「れん、伏せろ。鞭尾『草薙』!」

 ウルフの接近に合わせて諒は剣を振るう。一対多数の状況で使える剣技はいくつかあるが、こういった状況ならこの技は強力だ。
 今回もそれはいかんなく発揮される。身をかがめるれんの上を諒の刀が閃き、突撃してきたウルフ達をまとめて吹き飛ばした。

「えい!」

 諒の強烈な一撃でさしものウルフ達も落ち着きを取り戻したようだ。残った五体は再度距離を取って様子を伺う。
 しかしそれでもウルフ達が安全なわけではない。距離が空いたのを好機と見てれんは矢をつがえて再びウルフ達に放つ。
 向こうも警戒態勢だったためか今回は当たらなかったが、それでもウルフ達の動きを誘発できた。
 諒は再び襲ってきた三体をまとめて迎撃し、さらにどう動くべきか悩んでいる様子の残った二体も一気に距離を詰めて切り伏せた。

「そうは言っても動きは大分よくなってるじゃないか」
「・・・必死なだけです」

 ウルフ達を全滅させ、二人は武器を収める。諒の言葉にれんは素っ気なく返すがそれに反して表情は嬉しそうだ。
 
「さて、それじゃあさっさと採取を済ませて帰るぞ」
「あ・・・」
「お前、まさかもう帰るつもりだったのか?」
「・・・ごめんなさい」

 一仕事終えて油断していたのか、れんは当初の目的を忘れていたようだ。
 ウルフ達も掃討したので、後は安全に薬膳茸を採取するだけだが、気を抜きすぎるのも考えものだ。

「・・・まだあまり育っていないようだな」
「そうみたいですね」

 薬膳茸の群生地はあまり多くない。そのため育った頃を見計らって定期的に依頼が出されるのだが、今回は少し時期が早かったらしい。
 これならすぐに終わるだろう。手分けして採取できそうな薬膳茸を集めていく。

「よし、取り敢えずこんなものだろう」

 諒の手際はさすがにいい。あまり量がないのもあるが、自分の担当分は速攻で集め終わる。れんの方はまだ採取しているようだ。しゃがみこんで慣れない手つきで慎重に採取を進めていく。
 彼女を手伝おうと立ち上がった瞬間、突如れんの後ろの茂みが動いた。

「れん!気をつけろ!」
「・・へ?・・・きゃあ!」

 諒はとっさに叫ぶが遅かった。
 茂みから飛び出たウルフがれんに襲い掛かる。さっきまで採取に集中していた彼女は反応が遅れた。急いで弓を取り出そうとするが間に合わず、ウルフの爪にはじかれてそのまま押し倒される。

「くそ!」

 諒は急いで駆け寄るが、ウルフはそれをあざ笑うかのように鋭い歯をのぞかせる。
 れんはなんとか抜け出そうともがくが、冷静さを欠いた状態ではどうにもならなかった。

「いや・・いや!」

 間に合わない、そう歯噛みした瞬間奇妙なことが起きた。
 ウルフの牙がれんに届く寸前に、ウルフの動きが一瞬止まったのだ。
 一瞬の出来事で気のせいかと疑ったが、しかし事実そのおかげで諒の刃が先にウルフに届いた。
 その一撃でウルフを光に変える。間一髪だったがれんに特に怪我はないようだった。

「悪かったな、もっと気にしておくべきだった」
「いえ、私の不注意です。ごめんなさい」

 周りを警戒するがもう何かが隠れている気配はない。もしいたとしてもこの状態で襲ってくることはないだろう。
 そう判断して諒は刀を収めてれんに手を伸ばす。

「・・・冷て!」

 しかし、れんの手を握った瞬間訪れた冷気に思わず諒は手を離してしまった。
 れんはそのせいで腰から地面に倒れると、痛そうにぶつけた所をさすっていた。

「諒さん?」
「・・・ああ、すまない。大丈夫か?」

 再び握ったれんの手からは先ほど感じたはずの冷気はどこかに消えてしまっていた。

(どういうことだ?)

 気のせいだったのだろうか。れんの手の温もりを感じながらも、その奥には確かな冷たさが残り続けていた。
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