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聖なる夜は②
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カチャカチャと音のなるキッチンを、知花はリビングの入口からひょっこり頭を出して観察していた。
バスルームの方からは、上機嫌で歌を歌うソフィアの声が聞こえる。
知花は小さな声で気合を入れると、洗い物中のヒューズへと近寄り声を掛けた。
「…ヒューズさん?今いいですか??」
「何だ?」
泡の付いた手を水で流すと、ヒューズは知花の話を聞くために濡れた手をタオルで拭う。
「その…今日、ヒューズさんのお誕生日ですよね?」
その言葉に目を見開いたヒューズは、壁に掛けられたカレンダーを確認する。
「…………あぁっ!」
「…今、完全に忘れてましたね????」
几帳面な私生活を送っているのに、本当にそういう部分は無頓着過ぎて、色々と心配になってくる。
予想はしていたけれど、あまりの酷さに知花が言葉を失っていると、ばつの悪い顔の表情をしたヒューズが言う。
「…この歳になると、祝う必要もないから…」
「…それ以前も特に気にも留めていないような気もしますけど、あえて聞きません」
聞かなくても分かってしまうほどに彼の表情は正直で、思わず知花は吹き出した。
「ふふ。だろうなと思ったので、こっそりと用意しました!」
「え?」
「お誕生日おめでとうございます」
今度は知花の手と同じ位の大きさの、黒の包装紙にゴールドのリボンでラッピングされた箱を差し出した。
「ま、待ってくれ…!さっきもプレゼントは貰った!」
「あれはクリスマスプレゼント。これは誕生日プレゼントです!!」
困った表情のままのヒューズに、更に付け加える。
「大丈夫。これは買った物じゃないので、私のお財布の中身は減ってません!」
「…しかし」
「…それとも、本当に私の方が良かったです??」
「……は????」
久しぶりに聞いたヒューズの素の声に、また知花は吹き出した。
「ソフィアちゃんに、プレゼントの相談したら『知花をプレゼントしたらいい』って言われたんですよ。流石に騎士様のお嫁さんは荷が重いので、こっちにしたんですけど…ふふ、お嫁さんになる方がよかったですか?」
こう言えばヒューズならば、大人しく受け取るだろうと思ったのだが、彼は黙ったまま下を向いていた。
そんなヒューズの耳の上はほんのりと赤みを帯びている。
「……本当に…俺と…」
「ん?」
「…い、いや、ありがとう…ありがたく受け取らせて貰う」
「へへ、どうぞ」
知花は箱を手渡すと、中を見るようにリボンをちょんちょんとつついた。
ヒューズのすらりと伸びた指が、ゴールド色のリボンを解く。
「懐中…時計?」
ゆっくりと開けられた箱の中に入っていたのは、蓋に繊細な透かし彫りが入った、金色の懐中時計だ。
「その…きっと、ヒューズさんの方がいいやつを、持っているんだろうなって思ったんですが、お仕事中も使えるのって考えたら、それ位しか思いつかなくて…。私の祖父が集めてたアンティークの物なんですけど、時計屋さんに見て貰ったら、使われた様子がないって言われたから…。あ、向こうの懐中時計って動力って魔術です?」
ヒューズは知花をじっと見つめたまま頷いた。
「…そっか。電池式は無いだろうなと思ったから、手巻きにしたんですけど…やっぱり不便でしたかね…」
「…いや。使う」
知花が顔をあげると、彼はそのエメラルドグリーンの瞳を細める。
「…いいんですか?」
「あぁ。ありがとう…大切にする」
知花の胸は受け取って貰えた嬉しさでいっぱいだ。
「…だが、貰ってばかりだな…」
「え。いや、ただ、私があげたかっただけですし、それに、普段ヒューズさん、家事の殆どしてくれている御礼みたいなものなので、気にしないでください!!」
案の定気にするだろうなとは思っていたが、すんなりと受け取れないのが彼の性格なのだろう。
すると何か思い立ったヒューズは、自身の部屋の前へと歩き出した。
「少し待っててくれ」
「え?」
一度自室へと入り、戻って来たヒューズの手には何かが握られている。
「これを君に…」
そっと知花の手を引き寄せ、その掌に乗せたのは小さなバッジだ。
金色の繊細な枠に嵌められている大粒の宝石は、ヒューズと同じ瞳の色――エメラルドだ。
「え、ちょっと待ってください?これ、エメラルドですよね?」
「……王に賜ったものだ」
何か見覚えがあると思えば、そういえば騎士服の襟元についていた物だ。
「そ、そんな大事な物、受け取れません!!」
高価なだけじゃない。
恐らく騎士服に身につける程なのだから、お金でどうにかなる代物では無いはずだ。
「受け取って欲しい」
「駄目です!プレゼントのことは黙ってて申し訳なかったですけど、ここまで気を使われるのは……!それに…規則でプレゼントはさっき駄目だって…!」
「しっ!」
声が大きくなりだした知花の唇を、ヒューズの人差し指がそっと止める。
同時に知花の心臓まで止まってしまったかのような感覚に陥った。
「…気を使っているのではない。俺が知花に贈りたいんだ。姫にはバレぬように隠してくれ」
その言葉に知花は赤面した。むしろするなという方が無理だ。
(今、素になった?俺って言った??え?えぇ…!?ヒューズさんって、素になると俺って言うの!!??)
「本当は、ちゃんと知花のために…時間をかけて選びたかったが…」
追討ちを掛ける台詞に、知花の心は跳ね上がる。
先程とは打って変わって、激しく脈動を始めた心臓に、知花は戸惑った。
(こ、これ以上はイケメンの摂取許容量をオーバーする!!!!)
「あ、あああああ、ありがとうございます!!家宝にいたしますっ!!」
ヒューズの色気にあてられた知花は、上がった呼吸を落ち着かせるのも忘れ、大声で礼を伝えるとそのまま部屋へと駆け戻っていった。
その様子を黙って見ていたヒューズは、懐中時計をもう一度箱から取り出す。
「……知花…俺は君が…」
その先は決して口には出せない。
その代わりとして、手の中で鈍く光る懐中時計にキスを落とした。
バスルームの方からは、上機嫌で歌を歌うソフィアの声が聞こえる。
知花は小さな声で気合を入れると、洗い物中のヒューズへと近寄り声を掛けた。
「…ヒューズさん?今いいですか??」
「何だ?」
泡の付いた手を水で流すと、ヒューズは知花の話を聞くために濡れた手をタオルで拭う。
「その…今日、ヒューズさんのお誕生日ですよね?」
その言葉に目を見開いたヒューズは、壁に掛けられたカレンダーを確認する。
「…………あぁっ!」
「…今、完全に忘れてましたね????」
几帳面な私生活を送っているのに、本当にそういう部分は無頓着過ぎて、色々と心配になってくる。
予想はしていたけれど、あまりの酷さに知花が言葉を失っていると、ばつの悪い顔の表情をしたヒューズが言う。
「…この歳になると、祝う必要もないから…」
「…それ以前も特に気にも留めていないような気もしますけど、あえて聞きません」
聞かなくても分かってしまうほどに彼の表情は正直で、思わず知花は吹き出した。
「ふふ。だろうなと思ったので、こっそりと用意しました!」
「え?」
「お誕生日おめでとうございます」
今度は知花の手と同じ位の大きさの、黒の包装紙にゴールドのリボンでラッピングされた箱を差し出した。
「ま、待ってくれ…!さっきもプレゼントは貰った!」
「あれはクリスマスプレゼント。これは誕生日プレゼントです!!」
困った表情のままのヒューズに、更に付け加える。
「大丈夫。これは買った物じゃないので、私のお財布の中身は減ってません!」
「…しかし」
「…それとも、本当に私の方が良かったです??」
「……は????」
久しぶりに聞いたヒューズの素の声に、また知花は吹き出した。
「ソフィアちゃんに、プレゼントの相談したら『知花をプレゼントしたらいい』って言われたんですよ。流石に騎士様のお嫁さんは荷が重いので、こっちにしたんですけど…ふふ、お嫁さんになる方がよかったですか?」
こう言えばヒューズならば、大人しく受け取るだろうと思ったのだが、彼は黙ったまま下を向いていた。
そんなヒューズの耳の上はほんのりと赤みを帯びている。
「……本当に…俺と…」
「ん?」
「…い、いや、ありがとう…ありがたく受け取らせて貰う」
「へへ、どうぞ」
知花は箱を手渡すと、中を見るようにリボンをちょんちょんとつついた。
ヒューズのすらりと伸びた指が、ゴールド色のリボンを解く。
「懐中…時計?」
ゆっくりと開けられた箱の中に入っていたのは、蓋に繊細な透かし彫りが入った、金色の懐中時計だ。
「その…きっと、ヒューズさんの方がいいやつを、持っているんだろうなって思ったんですが、お仕事中も使えるのって考えたら、それ位しか思いつかなくて…。私の祖父が集めてたアンティークの物なんですけど、時計屋さんに見て貰ったら、使われた様子がないって言われたから…。あ、向こうの懐中時計って動力って魔術です?」
ヒューズは知花をじっと見つめたまま頷いた。
「…そっか。電池式は無いだろうなと思ったから、手巻きにしたんですけど…やっぱり不便でしたかね…」
「…いや。使う」
知花が顔をあげると、彼はそのエメラルドグリーンの瞳を細める。
「…いいんですか?」
「あぁ。ありがとう…大切にする」
知花の胸は受け取って貰えた嬉しさでいっぱいだ。
「…だが、貰ってばかりだな…」
「え。いや、ただ、私があげたかっただけですし、それに、普段ヒューズさん、家事の殆どしてくれている御礼みたいなものなので、気にしないでください!!」
案の定気にするだろうなとは思っていたが、すんなりと受け取れないのが彼の性格なのだろう。
すると何か思い立ったヒューズは、自身の部屋の前へと歩き出した。
「少し待っててくれ」
「え?」
一度自室へと入り、戻って来たヒューズの手には何かが握られている。
「これを君に…」
そっと知花の手を引き寄せ、その掌に乗せたのは小さなバッジだ。
金色の繊細な枠に嵌められている大粒の宝石は、ヒューズと同じ瞳の色――エメラルドだ。
「え、ちょっと待ってください?これ、エメラルドですよね?」
「……王に賜ったものだ」
何か見覚えがあると思えば、そういえば騎士服の襟元についていた物だ。
「そ、そんな大事な物、受け取れません!!」
高価なだけじゃない。
恐らく騎士服に身につける程なのだから、お金でどうにかなる代物では無いはずだ。
「受け取って欲しい」
「駄目です!プレゼントのことは黙ってて申し訳なかったですけど、ここまで気を使われるのは……!それに…規則でプレゼントはさっき駄目だって…!」
「しっ!」
声が大きくなりだした知花の唇を、ヒューズの人差し指がそっと止める。
同時に知花の心臓まで止まってしまったかのような感覚に陥った。
「…気を使っているのではない。俺が知花に贈りたいんだ。姫にはバレぬように隠してくれ」
その言葉に知花は赤面した。むしろするなという方が無理だ。
(今、素になった?俺って言った??え?えぇ…!?ヒューズさんって、素になると俺って言うの!!??)
「本当は、ちゃんと知花のために…時間をかけて選びたかったが…」
追討ちを掛ける台詞に、知花の心は跳ね上がる。
先程とは打って変わって、激しく脈動を始めた心臓に、知花は戸惑った。
(こ、これ以上はイケメンの摂取許容量をオーバーする!!!!)
「あ、あああああ、ありがとうございます!!家宝にいたしますっ!!」
ヒューズの色気にあてられた知花は、上がった呼吸を落ち着かせるのも忘れ、大声で礼を伝えるとそのまま部屋へと駆け戻っていった。
その様子を黙って見ていたヒューズは、懐中時計をもう一度箱から取り出す。
「……知花…俺は君が…」
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