【漫画版公開中】転移先は女子大生の部屋でした‐ある日、美少女姫様とイケメン騎士様が転がり込んできたら‐

原案:トウキ汐・作画:猫倉ありす

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【カラーイラスト付】本当に欲しいもの①

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「知花がお菓子作りとは珍しいな」
「明日はバレンタインなので!」
「……バレンタイン??」

 甘いものが苦手なヒューズには申し訳ないとは思いつつも、知花は朝からキッチンに立ち、部屋に甘いチョコレートの香りを充満させていた。

「んー、一言で言うなら好きな人に愛を告げる日、ですかね?日本では女性が意中の男性にチョコを渡すのが一般的です」
「……それで作っているのか」
「えへへ、ブラウニーです!」

 知花が堂々と見せる焼き上がったばかりのブラウニーには、輪切りのオレンジのドライフルーツが規則的に並べられ、空いた隙間にはナッツが飾り付けられていた。
 元々はシンプルなお菓子であるが、ここまですれば簡単なラッピングでも十分可愛く、友チョコとして配れる。
 そっと手をかざし、粗熱が取れたのを確認すると、オレンジの輪切りが映えるようにあえて大きめにカットしていく。
 その様子を知花の隣で見ていたヒューズが、ゆっくりと口を開いた。

「……太一に…あげるのか?」
「勿論あげますよ?明日、大学に持っていくので…って、ヒューズさん!?」

 ヒューズはまだ熱の残るブラウニーを一つ摘まみ上げ、そのまま自分の口へと放り込んだ。

「欲しいなら欲しいって言ってくれればあげますよ!っていうか、ヒューズさん甘いもの駄目じゃないですか!ちゃんとヒューズさん用にお煎餅買ってあるのに!!あーほら、顔色悪くなってます!吐いてください!」

 慌てた知花が引き出しからビニール袋を取り出し彼の前に広げたが、ヒューズは口元を押えたまま首を横へと振り、吐き出そうとしないどころか飲み込もうと必死だ。

「…絶対に吐かない…」
「えぇぇ……」

 知花は仕方なくその様子を見守っていたが、やがてブラウニーを飲み込み終えたヒューズは、おぼつかない足取りで自室へと向かいバタリと力尽きた。

 知花はキッチンで呆然と立ち尽くしたまま、自分の作ったブラウニーと、ヒューズの部屋の扉を交互に見やる。

「…これ…毒とか入ってないよね…?大丈夫…だよね??」

 そんなもの入れた覚えはないが、心配になった知花はブラウニーの切れ端を口に運んでいた。

 ***

 翌日の知花は大きめの紙袋に、ブラウニーという名の友チョコを、詰めるだけ詰め込んで大学へとやって来た。
 既に友人やお世話になっている先生には配り終え、残るは太一だけである。
 ちなみに今日の太一の予定はバイトだ。
 特に用事がなければ、彼はいつも大学のカフェテラスで、バイトまで時間を潰している。
 知花は真っ先に正門近くのカフェテラスを覗くと、予想通りそこには太一が座っていた。

「太一ぃーーー!!」
 大声と共に飛び跳ねながら大きく手を振れば、呆れた表情の太一はすぐさま立ち上がり、知花の元へと近寄る。

「はい、太一、バレンタイン!!」
「…ども」

 差し出された紙袋を、太一は中身を確認することも無く、紐へ手を通すとそのままポケットに手を突っ込んだ。
 下げているのは知花のあげた紙袋一つだ。

「…もしかして、今年も私のチョコだけ?」

 キョトンとした知花の表情に、太一は面倒くさそうに視線を逸らす。
 けれど知花にはそんなこと慣れっこだ。
 視線を逸らされれば、その先にひょっこりと顔を出す。

「太一、ひょっとしてお返しくれないとか思われてる?本当はそうじゃないって皆知らないんじゃ…。毎年、私に豪華なのくれるのに…」

 要らぬ心配をされている状況に、太一は睨みつけたまま、知花の額を人差し指でつつく。

「…断ってるだけだ」
「え、何で!?」
「………ここまで鈍いと流石に腹立つな…」

 呆れているような、けれど何処か怒っているかのような声色に、妙に足元が冷えた心地がした。

「鈍いって…」
「なぁ。それわざとか?俺が何の下心もなく、知花に接してるとでも思ってる?」

 下心。
 知花の中で太一との間で一番縁遠い単語だ。

「…ちなみに、これ、保護者にもあげた?」
「え?…ヒューズさん?甘いもの駄目だから、あげないつもりだったんだけど、一個つまみ食いされた…」

 あった出来事をそのまま告げただけなのだが、何がいけなかったのか、太一の表情は一気に険しくなっていく。

「何だよそれ…分かりやすい対抗心、燃やしやがって…」

 いつも不機嫌そうではあるけれど、本気で怒る時の太一の雰囲気は全く別のものになる。
 正直、本気で怒っている太一が知花は苦手だ。
 居心地が悪くなった知花は、太一から逃げるように顔を伏せた。
 だが、茶色のレンガと自分の靴だけが映っていたところに、太一の靴先が入り込み、知花は慌てて顔を上げる。

「…知花、あの保護者の何処が好きなんだ?」
「へぁ!?」

 いきなり聞かれた質問に、知花は全身を赤く染めあげた。
 心臓は突然のショックにより、混乱したかのように激しく脈打ってる。

「何?長身のイケメンだからか?大人の色気とかそういうの?悪いけど、そういうのなら後二、三年もすれば俺も出るよ」
「別に私はヒューズさんが好きな訳じゃ…!!」
「…お前、俺に対してだけじゃなく、自分に対しても見て見ぬふりするのやめろよ。もうわかってるだろ?」
「何のことだかわかんない」
「…クリスマス。あいつ優先しただろ?」
「それは、ヒューズさんの誕生日だからで…!!太一が普段から変に絡まなかったら呼んでたよ!!」
「…けど、知花が俺以外の男を優先したのはあれが初めてだよ」

 そう告げる声があまりに冷たくて、知花の身体は氷の中に放り込まれたかのように一気に体温を奪った。
 太一は大きく溜め息をついたあと、ポケットから手を引き抜くと、目の前に知花の渡した紙袋を突き出す。

「…これ、ありがとう。けど、もういらない」

 知花の掌にゆっくりと、ブラウニーが入った紙袋が乗せられる。
 さっきまでその重さを知っていた筈なのに、知花には重さを増しているように感じた。

「俺が欲しいのはチョコレートこれじゃない」

 震える手が紙袋を微かに揺らした。


「俺が欲しいのは、知花。お前だけだ」
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