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本当に欲しいもの④
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(太一が…私を好き…友だちとしてじゃなくて…異性として…)
「知花、知花…?」
ヒューズとの二人での買出しの帰り道、ぼんやりと歩いていた知花は再三の呼び掛けにようやく反応を示した。
「大丈夫か?この前から何か様子がおかしいが…」
考えないようにと思っても、ふと太一のことを考えてしまう。
バレンタインの日の宣戦布告のような告白から、太一は今までと変わらず普通に接してくる。
けれど、今の知花は違う。
太一が傍に寄るだけで鼓動は速くなるし、逃げ出したくなる。
「知花、私では相談相手には向いていないだろうか?」
「ち、違います!!その…私自身が何を悩んでるのかすら分かってない状態で…」
「そういう時に人の意見を聞くものだ」
確かに相談というのはそういうものだと思う。
けれど、何処かで知花はヒューズに話すのを躊躇っていた。
すると知花が一つだけ持っていた買い物袋すら、ヒューズに取られる。
「…話せないなら、これも私が持とう」
「いいえ!他も全部持って貰ってるのに…!」
『じゃあ』という笑顔の圧力により、知花は止む無く口を開いた。
「……太一に…」
「太一?」
「太一に告白されました…」
その事実を口にした時、あれだけ困惑していたのに反対に心は凪いだ。
「…私も太一のことは好きですけど、今まで異性として意識したことなくて…ずっと…友達だって思ってたので、戸惑ってるだけというか…」
(…そうだ、私、多分…怖いんだ…今までと変わっていくことが…)
太一と付き合っていると勘違いされることは今までも何度かあった。
それだけ一緒にいるからだ。
学校でもバイトでもプライベートでも。
では、付き合って何が変わるのだろう。
(太一と、キスしたりするの…?)
多分、颯太の時のように拒絶反応は出ない。
けれど、太一とそういう関係になっている自分が想像出来なかった。
どうしてもそれが心の奥で引っ掛かってわからない。
「…良いんじゃないか、彼は。知花の恋人に向いていると思う」
黙って聞いていたヒューズの言葉に知花の息が止まる。
「初対面の時は随分と失礼な態度を取られたが、あれも知花を想っていたのだと知った今なら、納得できる。確かに口は悪いかもしれないが、よく人を見ている。仕事振りを見る限り、何でも卒なくこなすようだし、ちゃんと気配りも出来る男だ。何よりも知花を大事にするだろう?なかなか、ああいう男は居るものではない…だから……知花?」
(私も、そう思う…だけど…)
その言葉を聞きながら、知花の頬を何かが伝っている。
少し冷えた指先に触れたのは、温かい雫だった。
「あ、あれ?何で?何で泣いてるんだろ…」
溢れ出る涙を必死に掌で拭う。
けれど止まらない。その上、胸の奥が突き刺すように痛い。
「知花、これを…」
差し出されたハンカチと、ヒューズの心配そうな表情を交互に見やる。
(私が、泣いている理由…)
『何処が好きなんだ』
そう問われた時、太一の勘違いだと思った。
だって彼はこの世界の人間ではない。
いずれ居なくなる人間に恋をするなど馬鹿だと、知花でも思う。
けれど今、心が押し潰されそうになるほど痛むのは、彼を見た時だ。
(私…ヒューズさんが好きなんだ…)
最悪だ。
他の男性を勧められて、ようやく恋に気付くなんて。
その上、いなくなってしまう人を想ってしまうなんて救いがない。
「知花!!」
その声に知花は息を呑んで振り返る。
「太一…何で…」
知花の泣き顔を見た太一は当然のように怒りを露わにし、一足飛びでヒューズへと迫った。
「おい、お前!知花に何してる!!」
今にも掴みかかりそうな勢いで、身を乗り出した太一の腕をしがみつき引き止める、二人の間に割って入る。
「…違う!ただ不安定になって泣いただけなの!ヒューズさんは何も酷いこと言っていない!」
ーーそうだ、彼はただ良かれと思って、自分に恋人として太一を勧めただけだ。
知花は彼の眼中には無かった。それだけのこと。
(痛い…)
「…この状況で、何でこいつ庇うんだ!」
(やめて…)
「違う…!庇ってなんか!」
「くっそ!!」
太一が知花の腕を掴むと、そのままヒューズから離れるように歩き出す。
「太一!太一っ!!やめて!待って!!」
太一は道なりに突き進むと、近くの公園へと辿り着いた。
足元を照らすには、心許ない街灯ばかりの公園だ。
昼間ならばランニングや散歩で人がいるが、この時間はもう誰も目につかない。
暫く進んだ後ベンチすら何もない、薄暗く肌の感覚を奪うような寒さの中で、太一は急に立ち止まった。
「…た、太一…?」
太一は知花の呼び掛けには答えない。
背を向けたまま、知花の腕を掴んでいたが、薄暗い中でも歯を食いしばっている様子だけは見てとれた。
やがて太一が深呼吸をすると、自分を落ち着かせるかのように、ゆっくりと話し出した。
「…お前のこと、知花が幸せならそれだけでいいとか考えてたのに、泣いてる知花を見たらどうでも良くなってくる。分かってるよ…俺が一番馬鹿だって…!」
振り返り、知花の正面に立つ太一の表情は、今まで一度も見たこともない、切なげな表情で知花を見つめていた。
「知花、好きだ」
その言葉を聞くと知花の胸は締め付けられるように苦しくなる。
今の自分ではその気持ちに答えられない罪悪感と、目の前にいる太一が知らない男の人に思えて、怖くて堪らない。
震える知花の指先に気付いた太一は、握っていた手首から、両手を包み込むように握り返した。
「…悪いことは言わない、俺にしとけ。確かにあの人の方が格好良くて大人かもしれない。でも俺だって、精一杯努力する。知花の良い所も、弱い所も、ぜんぶ引っ括めて、愛してるって、何度だって言ってやる。ずっと、ずっと傍にいてやるから…!」
苦しい。
太一の想いにどんどん潰されていく気がする。
「だから、知花…俺を好きになってくれ」
「知花、知花…?」
ヒューズとの二人での買出しの帰り道、ぼんやりと歩いていた知花は再三の呼び掛けにようやく反応を示した。
「大丈夫か?この前から何か様子がおかしいが…」
考えないようにと思っても、ふと太一のことを考えてしまう。
バレンタインの日の宣戦布告のような告白から、太一は今までと変わらず普通に接してくる。
けれど、今の知花は違う。
太一が傍に寄るだけで鼓動は速くなるし、逃げ出したくなる。
「知花、私では相談相手には向いていないだろうか?」
「ち、違います!!その…私自身が何を悩んでるのかすら分かってない状態で…」
「そういう時に人の意見を聞くものだ」
確かに相談というのはそういうものだと思う。
けれど、何処かで知花はヒューズに話すのを躊躇っていた。
すると知花が一つだけ持っていた買い物袋すら、ヒューズに取られる。
「…話せないなら、これも私が持とう」
「いいえ!他も全部持って貰ってるのに…!」
『じゃあ』という笑顔の圧力により、知花は止む無く口を開いた。
「……太一に…」
「太一?」
「太一に告白されました…」
その事実を口にした時、あれだけ困惑していたのに反対に心は凪いだ。
「…私も太一のことは好きですけど、今まで異性として意識したことなくて…ずっと…友達だって思ってたので、戸惑ってるだけというか…」
(…そうだ、私、多分…怖いんだ…今までと変わっていくことが…)
太一と付き合っていると勘違いされることは今までも何度かあった。
それだけ一緒にいるからだ。
学校でもバイトでもプライベートでも。
では、付き合って何が変わるのだろう。
(太一と、キスしたりするの…?)
多分、颯太の時のように拒絶反応は出ない。
けれど、太一とそういう関係になっている自分が想像出来なかった。
どうしてもそれが心の奥で引っ掛かってわからない。
「…良いんじゃないか、彼は。知花の恋人に向いていると思う」
黙って聞いていたヒューズの言葉に知花の息が止まる。
「初対面の時は随分と失礼な態度を取られたが、あれも知花を想っていたのだと知った今なら、納得できる。確かに口は悪いかもしれないが、よく人を見ている。仕事振りを見る限り、何でも卒なくこなすようだし、ちゃんと気配りも出来る男だ。何よりも知花を大事にするだろう?なかなか、ああいう男は居るものではない…だから……知花?」
(私も、そう思う…だけど…)
その言葉を聞きながら、知花の頬を何かが伝っている。
少し冷えた指先に触れたのは、温かい雫だった。
「あ、あれ?何で?何で泣いてるんだろ…」
溢れ出る涙を必死に掌で拭う。
けれど止まらない。その上、胸の奥が突き刺すように痛い。
「知花、これを…」
差し出されたハンカチと、ヒューズの心配そうな表情を交互に見やる。
(私が、泣いている理由…)
『何処が好きなんだ』
そう問われた時、太一の勘違いだと思った。
だって彼はこの世界の人間ではない。
いずれ居なくなる人間に恋をするなど馬鹿だと、知花でも思う。
けれど今、心が押し潰されそうになるほど痛むのは、彼を見た時だ。
(私…ヒューズさんが好きなんだ…)
最悪だ。
他の男性を勧められて、ようやく恋に気付くなんて。
その上、いなくなってしまう人を想ってしまうなんて救いがない。
「知花!!」
その声に知花は息を呑んで振り返る。
「太一…何で…」
知花の泣き顔を見た太一は当然のように怒りを露わにし、一足飛びでヒューズへと迫った。
「おい、お前!知花に何してる!!」
今にも掴みかかりそうな勢いで、身を乗り出した太一の腕をしがみつき引き止める、二人の間に割って入る。
「…違う!ただ不安定になって泣いただけなの!ヒューズさんは何も酷いこと言っていない!」
ーーそうだ、彼はただ良かれと思って、自分に恋人として太一を勧めただけだ。
知花は彼の眼中には無かった。それだけのこと。
(痛い…)
「…この状況で、何でこいつ庇うんだ!」
(やめて…)
「違う…!庇ってなんか!」
「くっそ!!」
太一が知花の腕を掴むと、そのままヒューズから離れるように歩き出す。
「太一!太一っ!!やめて!待って!!」
太一は道なりに突き進むと、近くの公園へと辿り着いた。
足元を照らすには、心許ない街灯ばかりの公園だ。
昼間ならばランニングや散歩で人がいるが、この時間はもう誰も目につかない。
暫く進んだ後ベンチすら何もない、薄暗く肌の感覚を奪うような寒さの中で、太一は急に立ち止まった。
「…た、太一…?」
太一は知花の呼び掛けには答えない。
背を向けたまま、知花の腕を掴んでいたが、薄暗い中でも歯を食いしばっている様子だけは見てとれた。
やがて太一が深呼吸をすると、自分を落ち着かせるかのように、ゆっくりと話し出した。
「…お前のこと、知花が幸せならそれだけでいいとか考えてたのに、泣いてる知花を見たらどうでも良くなってくる。分かってるよ…俺が一番馬鹿だって…!」
振り返り、知花の正面に立つ太一の表情は、今まで一度も見たこともない、切なげな表情で知花を見つめていた。
「知花、好きだ」
その言葉を聞くと知花の胸は締め付けられるように苦しくなる。
今の自分ではその気持ちに答えられない罪悪感と、目の前にいる太一が知らない男の人に思えて、怖くて堪らない。
震える知花の指先に気付いた太一は、握っていた手首から、両手を包み込むように握り返した。
「…悪いことは言わない、俺にしとけ。確かにあの人の方が格好良くて大人かもしれない。でも俺だって、精一杯努力する。知花の良い所も、弱い所も、ぜんぶ引っ括めて、愛してるって、何度だって言ってやる。ずっと、ずっと傍にいてやるから…!」
苦しい。
太一の想いにどんどん潰されていく気がする。
「だから、知花…俺を好きになってくれ」
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