【漫画版公開中】転移先は女子大生の部屋でした‐ある日、美少女姫様とイケメン騎士様が転がり込んできたら‐

原案:トウキ汐・作画:猫倉ありす

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Forget me not

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 三月十四日、約束の日。
 バイトを終えた知花が店を出ると、近くの電柱に凭れかかるようにして太一が待っていた。

 言葉を交わさなくても、視線が合っただけで自然と隣りを歩く。
 太一とは長い付き合いだから、それが当たり前だった。

 無言のまま隣にいても嫌じゃ無い。
 突然視界の片隅に居た太一が立ち止まる

「…ここで話をしようか」

 指を差した先は公園だ。
 そのまま敷地内へと入り、目に止まった自動販売機で、カイロ代わりのココア缶を買うと手元へ投げられた。
 太一はその後買った缶コーヒーを、真っ先に開け口にする。
 彼が空に向かって吐いた息は白くなって、星が輝き出した空へと呑み込まれていく。

「……で、一応、返答期限なんだけど、俺と付き合う付き合わない、どっち?」

 ムードもへったくれもない上、尋問じみた問いに知花は顔を顰めた。

「そりゃ、太一としてはキレたくもなる片想いの長さだったかもしれないけど、そんな相手を好きになった太一の責任でもあるよ」
「おー、言うようになったな」

 珍しく減らず口を叩いた知花の両頬を、片手で挟むようにムニムニと揉む。

「……理屈で諦められるなら、苦労しねぇよ。知花も分かってるだろ?」

 今の知花には痛いほど理解できる。
 無理と分かっていても、無駄だと分かっていても、想ってしまうのが恋だ。

 知花に触れていた太一の手が離れる。
 スカートをギュッと握りしめた知花が、大きく深呼吸をしてようやく口を開いた。

「太一が好きだよ。優しいとこも、真っ直ぐなとこも、面倒見も良くて、ポジティブなとこも。太一には幸せになって欲しいって、ずっと、ずっと思ってた」

 この気持ちはこれから先も変わらない。

 そして彼を幸せにするのは、自分ではないと知花自身が思ってしまっている。

「私は、太一に嘘はつきたくない。太一の気持ちを蔑ろにしてまで、自分が楽になる方は選ばない。私の『好き』は、太一と一緒じゃない」

 心の何処かで太一に甘えてしまえと言う自分もいた。

 この世界から居なくなってしまう人よりも、ずっと共に居てくれる人を選んだ方が寂しくはない。

 太一以上に心を許せる異性が、この先現れるとも思えない。
 思えないけれど、それは結局この世界限定での話だ。

 今の知花が心から一番好きなのは、異世界人であるヒューズだ。

 この恋が近いうちに終わると分かっていても、あの人以上に好きになる人が現れなくても、それでも最後の最後まで、この恋を大事にしたいとそう思った。

 言い切ったあと、足元を通り抜ける風がいつも以上に冷たく感じ、震えた。

 どちらを選んでも太一は傷付けると、そう何度も自分に言い聞かせたけれど、それでも怖い。
 勿論、友達としての関係も終わるかもしれないと理解した上だが、不誠実でいることだけは嫌だ。

「…本当、そういうとこだぞ。馬鹿正直かよ」
「…太一?」
「だから好きだったんだけどな。……本当は怖かったんだ。この気持ちを知られたら、友達としても一緒に居られないんじゃないかって。幾らでも知花に意識してさせるチャンスが有ったのに、そうしなかったのは結局…俺が臆病だっただけだ」

 溜め息交じりの声が、重い声に変わって心にのしかかる。

「……一緒だね…今ならその太一の気持ち…分かる…」
「そうか…」

 変わることの恐怖。
 大事だからこそ傷付けるのも、失うのも怖い。

(…私もヒューズさんに言えない)

 知花の恋はサヨナラすることが決まっている。
 そう分かり切っている知花はまだいい。
 けれどヒューズはその断りの言葉を選んで、知花に告げなければならない。

(きっと、傷つくのはヒューズさんなのに…)

 それでも『好き』が心から溢れてしまいそうになる。

「…お互い、厄介な相手に惚れたな」
「本人目の前にして言う?それ?」

 太一と知花は顔を見合わせ、苦笑いした。

「太一、私を好きになってくれて、ありがとう。私、太一が大事にしてくれたことも、太一を大事にしたいと思ったこの気持ちも、絶対忘れないから…!」

 涙で揺らぐその先に、優しく微笑む太一が頷いた。

「あぁ…!」

 ***

 自宅マンションの前に差し掛かった時、知花は見慣れた人物がその前で立ち尽くしているのを見つけた。
 艶やかな黒髪が動き、澄んだ深緑の瞳と目が合い、知花は残り僅かになった距離すらも走った。

「ヒューズさん!?何かあったんですか!?」
「いや…その、知花の帰りが遅いから心配になって…」

 俯く彼の様子に知花はスマートフォンの時計を見るが、まだ時刻は20時前。
 しかもあらかじめ、太一と話す予定が入っていたから、朝のうちに夕食は先に済ますように伝えてある。
 知花の頭上に疑問符が大量に湧き出ている表情に、ヒューズは益々気まずそうにしている。

「今日…太一と会うと聞いたから…」
「え?…確かに言いましたが…?」

 言い淀んだ後、続く筈の言葉を大人しく待ったが一向に彼の口は開かない。

「あの…一先ず中に入りませんか?寒いでしょう?」
「待ってくれ…!」

 珍しく肩を掴まれ引き止められると、目の前に小さな可愛い紙袋を突き出された。

「…今日がホワイトデー…バレンタインのお返しをする日と聞いた」
「ひょっとして、お返しですか…?」

 一瞬、また規則違反をしようとしているのではないかと焦ったが、受け取った紙袋からは、カサリとビニールらしき音が聞こえる。

「中を見ても?」

 静かに頷くのを確認すると、閉じられたシールを剥がす。

「わ、可愛い!エディブルフラワーの飴ですか!?」

 押し花状にされた青と白い花が、透明な飴に閉じ込められた、スティックキャンディーだ。
 知花は街灯に透かし見るために、一本取り出した。
 輝く飴と、ほんのりと光を透かす花びらが美しい。
 初めこそその愛らしさに喜んでいたが、ふと花を見て知花の息は止まった。

(…これ…勿忘草わすれなぐさ…?)

「…綺麗だろう?買出しに行ったときに見つけたのだ。バレンタインの日に勝手に食べてしまったお詫びだ。それなら食べてしまえるから、隠す必要もないだろう?」

 はにかみながら言うヒューズに、知花は紙袋を握りしめて、深く深く頭を下げる。

「あ、ありがとうございます!」

 顔は上げられなかった。
 震えて止まらない唇を噛みしめることで精一杯だったからだ。

 その言葉に嬉しそうに笑うヒューズの声が聞こえた後、彼は先にマンションの中へと戻っていく。
 それでも尚、知花はその場に残った。

 きっと彼はホワイトデーに飴を返す意味を知らない。

 きっと彼は勿忘草の花言葉も知らない。

 もしも
 彼がその全ての意味を知っていて、知花に贈ったのだとしたら

 それは知花にとって、とても幸せなことで

 そして

 とても残酷なことだった。


ーーーーーーーーーーーーーーー
ホワイトデーに飴を返すと『あなたが好き』
勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』
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