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来訪者は突然に①
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「終わったぁぁ!!」
帰宅後、叫びながらリビングへ滑り込むように倒れた知花は、その絵面とは打って変わって晴々とした表情をしていた。
「おかえりなさい、知花。地獄のゴールデンウィークシフトやらを乗り切ったのね」
「…えぇ…死ぬかと思った。むしろ死んでた。表情筋が見事に死にました。痛い。ほっぺたが痛い!!!!」
年末年始も忙しいが、ゴールデンウィークは別の意味で地獄のような忙しさを誇る。
それは四月に増えた新人と、彼等をフォローする先輩が入り混じり、連休でひっきりなしに訪れる客を捌かなくてはならないため、現場は正に戦場と化す。
「お疲れ様。甘いものでも食べて英気を養うといい」
カタンとテーブルの上に置かれたのは、久しぶりのヒューズお手製のお菓子であるシフォンケーキだ。
予想外のご褒美に目を輝かせた知花は、いそいそとダイニングテーブルの椅子へと座る。
目の前で燦然と輝くシフォンケーキには、生クリームとアイス…そしてフルーツがこんもりと乗っている。
「いただきます!!」と両手を合わせると、その頬ずりがしたくなるような、きめ細かいスポンジにフォークを刺し、口へと運ぶ。
「んんーーーーー!!ふわふわぁ…生きててよかった…!!」
「ふふっ、良かったわ。生き返ったみたいね」
まるでリスのように頬を膨らませる知花を、二人が微笑ましく眺めていた時である。
突然、リビングの中央で光り輝く文字が浮かび上がり、複雑な円を描いたのだ。
だが知花には、この光景に覚えがある。
そう、ソフィアとヒューズがやって来た時、全く同じ光り方をしていた。
(も、もしかして…!?また転移者!?)
前回と同じように眩しい光が部屋中に満ちた後、恐る恐る目を開けると、其処には予想通り、ファンタジー風の服を着た二人の青年の姿があった。
一人は鷲色の硬質そうな髪に、ルビーのような赤い目を持つ青年。
纏う衣装はヒューズとは違うが、騎士服のような見た目だ。
もう一人は魔法使いのローブ風で、腰まであるブロンドを三つ編みにした、アメジスト色の瞳の青年だ。
「お兄様!ルシウスお兄様だわ!!」
「やぁ、久しぶりだねソフィア」
飛び跳ねるようにソフィアが抱きついたのは、魔法使い風の男の方だ。
確かにその瞳の色はソフィアと全く一緒である。
「ソフィアちゃんのお兄さん…ということは、王子様…?」
「そうだ。ルシウス殿下は第二王子で、魔術に長けていらっしゃる。前にも言ったと思うが、エクシアルで唯一転移魔術の使える魔術師だ」
血筋も良く、有能、しかもソフィアの兄というだけだって、当然顔も良い。
完璧すぎる本物の王子様に、唖然としていると、知花の視線に気付いたルシウスが、甘く輝く笑顔を返してくる。
「うぐっ!?」
「知花!?」
ヒューズのお陰でイケメンには耐性が付いたけれど、またタイプの違うイケメン…更にロイヤルスマイルの威力のコンボには心臓が耐えられなかった。
「ひょっとして君がソフィアの侍女かい?」
「そ、そんな大層なものではありませんが…!羽曳野知花と申します!!畏れ多くも、超絶可愛いソフィアちゃんのお世話をさせて頂いております!!」
煌めくアメジストに覗き込まれると、知花は思わず背を伸ばした。
「へぇ…!なかなか可愛い子じゃないか!知花って呼んで良いかい?」
「は、ハイ!!」
威勢よく返事をしたところで、ヒューズの左手がルシウスと知花の間に割込み、そのまま背後へと下げられる。
「…殿下、少し近いです。それに急に何故ここに…?」
少しばかり怪訝な表情でここを訪れた理由をヒューズが問うと、ルシウスはもう一人の人物へ手招きをした。
「ハーヴィット」
ルシウスの声に、キョロキョロと周りを見渡すだけだった鷲色の髪の青年が、ようやく知花達の方へとその身体を向ける。
「ハーヴィット?…まさか、ハーヴィット・ニア・ヴェスタ殿下で有らせられますか!?」
ヒューズはすかさず流れるような動作で跪く。
「……堅苦しい挨拶はいらぬ。こちら側が勝手に来ただけだ、楽にしてくれ」
ヒューズが騎士の礼を取ろうとするのを、ハーヴィットは右手を上げ制止し、その場に立たせた。
やがて彼が見つめるのは、会いに来たであろうその相手――ソフィアだ。
ハーヴィットは一歩前に出ると、胸に手を当てると深々と腰を折った。
「お初にお目にかかります。ソフィア王女。ヴェスタ国王太子、ハーヴィット・ニア・ヴェスタと申します。拝謁に賜り、恐悦至極に存じます」
(さっき堅苦しい挨拶はいらないって言ってたのに、御本人は堅いんだ…)
目の前で突如起こったトップ同士の会談。
隣で微動だにしないヒューズを見上げるが、目が合うとゆっくりと瞼を動かすだけだ。
(このまま黙ってろってことか…)
視線で察した知花は、目の前の事態を息を殺し見守った。
やがてその重苦しい空気を断ち切ったのはルシウスだ。
「一先ず挨拶は終わったね!すまない、驚かせてしまったな。まぁ、来た理由はこのハーヴィットを観光に連れて行って欲しいんだ」
まさかの提案に知花とヒューズは顔を見合わせた。
「この前来た転移者が王宮で働きだしたんだけど、話がなかなか面白くてね。ハーヴィットがソフィアに会いたいのに、素直に言えないから、それを口実に連れて行けと…」
「っルシウス…!!」
吠えるようなハーヴィットの声が、ルシウスの言葉を止めるが時既に遅し。
揃いも揃って目を丸くしていた三人に「聞かなかったことにしてくれ」とお茶目な兄王子はウィンクして見せた。
帰宅後、叫びながらリビングへ滑り込むように倒れた知花は、その絵面とは打って変わって晴々とした表情をしていた。
「おかえりなさい、知花。地獄のゴールデンウィークシフトやらを乗り切ったのね」
「…えぇ…死ぬかと思った。むしろ死んでた。表情筋が見事に死にました。痛い。ほっぺたが痛い!!!!」
年末年始も忙しいが、ゴールデンウィークは別の意味で地獄のような忙しさを誇る。
それは四月に増えた新人と、彼等をフォローする先輩が入り混じり、連休でひっきりなしに訪れる客を捌かなくてはならないため、現場は正に戦場と化す。
「お疲れ様。甘いものでも食べて英気を養うといい」
カタンとテーブルの上に置かれたのは、久しぶりのヒューズお手製のお菓子であるシフォンケーキだ。
予想外のご褒美に目を輝かせた知花は、いそいそとダイニングテーブルの椅子へと座る。
目の前で燦然と輝くシフォンケーキには、生クリームとアイス…そしてフルーツがこんもりと乗っている。
「いただきます!!」と両手を合わせると、その頬ずりがしたくなるような、きめ細かいスポンジにフォークを刺し、口へと運ぶ。
「んんーーーーー!!ふわふわぁ…生きててよかった…!!」
「ふふっ、良かったわ。生き返ったみたいね」
まるでリスのように頬を膨らませる知花を、二人が微笑ましく眺めていた時である。
突然、リビングの中央で光り輝く文字が浮かび上がり、複雑な円を描いたのだ。
だが知花には、この光景に覚えがある。
そう、ソフィアとヒューズがやって来た時、全く同じ光り方をしていた。
(も、もしかして…!?また転移者!?)
前回と同じように眩しい光が部屋中に満ちた後、恐る恐る目を開けると、其処には予想通り、ファンタジー風の服を着た二人の青年の姿があった。
一人は鷲色の硬質そうな髪に、ルビーのような赤い目を持つ青年。
纏う衣装はヒューズとは違うが、騎士服のような見た目だ。
もう一人は魔法使いのローブ風で、腰まであるブロンドを三つ編みにした、アメジスト色の瞳の青年だ。
「お兄様!ルシウスお兄様だわ!!」
「やぁ、久しぶりだねソフィア」
飛び跳ねるようにソフィアが抱きついたのは、魔法使い風の男の方だ。
確かにその瞳の色はソフィアと全く一緒である。
「ソフィアちゃんのお兄さん…ということは、王子様…?」
「そうだ。ルシウス殿下は第二王子で、魔術に長けていらっしゃる。前にも言ったと思うが、エクシアルで唯一転移魔術の使える魔術師だ」
血筋も良く、有能、しかもソフィアの兄というだけだって、当然顔も良い。
完璧すぎる本物の王子様に、唖然としていると、知花の視線に気付いたルシウスが、甘く輝く笑顔を返してくる。
「うぐっ!?」
「知花!?」
ヒューズのお陰でイケメンには耐性が付いたけれど、またタイプの違うイケメン…更にロイヤルスマイルの威力のコンボには心臓が耐えられなかった。
「ひょっとして君がソフィアの侍女かい?」
「そ、そんな大層なものではありませんが…!羽曳野知花と申します!!畏れ多くも、超絶可愛いソフィアちゃんのお世話をさせて頂いております!!」
煌めくアメジストに覗き込まれると、知花は思わず背を伸ばした。
「へぇ…!なかなか可愛い子じゃないか!知花って呼んで良いかい?」
「は、ハイ!!」
威勢よく返事をしたところで、ヒューズの左手がルシウスと知花の間に割込み、そのまま背後へと下げられる。
「…殿下、少し近いです。それに急に何故ここに…?」
少しばかり怪訝な表情でここを訪れた理由をヒューズが問うと、ルシウスはもう一人の人物へ手招きをした。
「ハーヴィット」
ルシウスの声に、キョロキョロと周りを見渡すだけだった鷲色の髪の青年が、ようやく知花達の方へとその身体を向ける。
「ハーヴィット?…まさか、ハーヴィット・ニア・ヴェスタ殿下で有らせられますか!?」
ヒューズはすかさず流れるような動作で跪く。
「……堅苦しい挨拶はいらぬ。こちら側が勝手に来ただけだ、楽にしてくれ」
ヒューズが騎士の礼を取ろうとするのを、ハーヴィットは右手を上げ制止し、その場に立たせた。
やがて彼が見つめるのは、会いに来たであろうその相手――ソフィアだ。
ハーヴィットは一歩前に出ると、胸に手を当てると深々と腰を折った。
「お初にお目にかかります。ソフィア王女。ヴェスタ国王太子、ハーヴィット・ニア・ヴェスタと申します。拝謁に賜り、恐悦至極に存じます」
(さっき堅苦しい挨拶はいらないって言ってたのに、御本人は堅いんだ…)
目の前で突如起こったトップ同士の会談。
隣で微動だにしないヒューズを見上げるが、目が合うとゆっくりと瞼を動かすだけだ。
(このまま黙ってろってことか…)
視線で察した知花は、目の前の事態を息を殺し見守った。
やがてその重苦しい空気を断ち切ったのはルシウスだ。
「一先ず挨拶は終わったね!すまない、驚かせてしまったな。まぁ、来た理由はこのハーヴィットを観光に連れて行って欲しいんだ」
まさかの提案に知花とヒューズは顔を見合わせた。
「この前来た転移者が王宮で働きだしたんだけど、話がなかなか面白くてね。ハーヴィットがソフィアに会いたいのに、素直に言えないから、それを口実に連れて行けと…」
「っルシウス…!!」
吠えるようなハーヴィットの声が、ルシウスの言葉を止めるが時既に遅し。
揃いも揃って目を丸くしていた三人に「聞かなかったことにしてくれ」とお茶目な兄王子はウィンクして見せた。
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