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【カラーイラスト付】残された傷痕①
しおりを挟むおまけ漫画の知花の下着回だけPV多かったって言ったら、ちゃちゃっとセクシー路線で描いてくれました。
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朝六時半。
いつもの起床時間に合わせたスマートフォンのアラームを、知花は音を頼りに探り当てようやく止めた。
カーテンの隙間から漏れる光をぼんやりと見つめながら、もそもそと上体を起こす。
「寒い…」
知花は起き上がるとスマートフォンのスケジュールを開く。
今日は12月24日。クリスマスイヴだ。
世間は友人や家族、恋人と過ごすのだろうが、知花にそんな予定は無い。
家族は海外、友人達は恋人と過ごし、彼氏無しは彼氏を見つける為に合コンへ繰り出すらしい。
知花は合コンには興味が無かったため、クリスマスのイルミネーションを楽しむ人々で、一番ごった返すであろう時間帯に、バイトのシフトを突っ込んだ。
せめてクリスマスを満喫している人々を眺めて、幸せのお裾分けが欲しい。
(クリスマス…去年は何してたっけ…?)
ふと去年はどう過ごしていたか思い出そうとするが、途端にズキンと頭が痛む。
(あぁ…今日も頭痛か…何か…段々酷くなっていってる気がする…)
知花はこの数ヶ月、酷い頭痛に悩まされていた。
その上、去年の夏頃からの記憶には靄が掛かっているかのように、思い出せないことが多く、時々自分の名を呼ぶ幻聴さえ聞こえるのだ。
(病院にも行ったけど、何も異常はなかったし…何なんだろ…)
今日も痛むばかりの頭を押え、知花はゆっくりベッドから足を降ろすと、パジャマのままリビングへと向かう。
リビングと廊下を繋がる扉を開けると、カーテンを閉め忘れたリビングに朝日が強く差し込み、知花はその眩しさに目を顰めた。
(相変わらず広いな、この部屋…。ロフト付きのワンルームとかでも私なら十分な気がする…引っ越そうかな)
リビングにベッドルーム、実際使っているのはこの二部屋だけで、リビングに繋がる部屋も、もう一部屋も、物置にすらしていない空っぽの部屋だ。
知花はテレビをつけると、ぼんやりとしたままキッチンへと向かう。
電気ケトルのスイッチを入れお湯を沸かす間、ドリッパーをガラス製のサーバーの上へ乗せる。
挽いたばかりのコーヒー豆を流し込んでいると、ふと手を止めた。
「また…やっちゃった…」
ぼんやりとしていると、ついやってしまう知花の失敗だ。
毎朝紅茶と決めているのに、時々コーヒーを淹れようとしてしまうのだ。
そして今日はイタリアンローストの豆を挽き、フィルターにまで入れてしまった。
知花は大きく溜め息を吐いたあと、仕方なく今朝はコーヒーを飲むことにし、お湯が沸くのを待った。
カチッとお湯が沸き終わった音が鳴る。
そっとケトルを持ちあげ、ドリッパーへとお湯を流していく。
ふわりと部屋中に広がる、コーヒーの香り。
(…毎朝こういう風に淹れるの、何だか…懐かしいような…)
「っ!!いったぁ……!!」
また激しい頭痛に襲われた知花は、お湯を注ぐ手を止め唇を噛んだ。
「…もう…やだ…」
***
「いらっしゃいませ!!抹茶ラテ、ブラックそれぞれホットで宜しかったでしょうか?」
「こちらのレシートを、あちらのカウンターでご提示お願いいたします。」
駅前のバイト先のカフェはクリスマスということもあって、店内は満席、テイクアウトもひっきりなしに注文が入る。
この日ばかりはスタッフも増員されるが、それでもカウンター内は戦場だ。
「…羽曳野さん、まだ休憩入ってないでしょう?今のうちに行って」
太一が高速で注文を捌きながら、知花へと声を掛けた。
知花はカウンターに並ぶ人数を確認したが、まだ列は途切れそうにない。
「でも…」
「顔色悪い。少し休んだ方がいい」
太一が言い切る以上、知花が思っているよりも顔色が悪いのだろう。
確かに酷い頭痛は続いたまま、薬を飲んでも治まることはなかった。
「…ごめん。じゃあ15分だけ…」
知花シナモンと蜂蜜を加えた、ホットミルクを手にし、バックヤードへと下がる。
扉を隔てた向こう側は、まだ戦場のようにスタッフの声が飛び交っている。
知花は他のスタッフに心で詫びながら、まだ少しも冷めていないホットミルクを口に含んだ。
柔らかい甘さと香りが、身体をじんわりと温めていく。
「知花、大丈夫か?」
太一が店内からひょっこりと顔を出す。
どうやら並んでいた列は終わりが見え始めたようだが、知花は忙しい最中に離れたことを謝罪したが、太一が手を上げそれを制止した。
「店長が早めに帰って良いって。お前、明日もシフト入れてるだろ?」
「…だけど…」
「帰れ」
いつもより鋭い目と口調に押されると頷くしかない。
居心地の悪くなった知花はズズっと音を立てて、またミルクを飲んだ。
「…ったく、こういう時あの保護者居たら、任せられんのに…」
ポツリと呟いた太一の言葉に、知花は頭を傾げる。
「…?パパとママなんて、滅多に日本に来ないのに…」
知花の両親は仕事でたまに帰国しているのだが、多忙のため知花とはスケジュールが合わず、ここ一年ろくに会っていない。
そんなことは太一も知っている筈だ。
「…誰も、知花の親のことなんて言ってないだろ」
「だって保護者って…」
「……ひょっとして、まだ拗ねてんのか?保護者っていったら、あいつしかいないだろ…ヒューズさんだよ」
「……ヒュー…ズ…?」
知花がその名を口にした途端、今までとは比べ物にならない程の痛みに襲われ、思わず悲鳴を上げ蹲る。
「知花っ!?どうした!?」
知花の悲鳴を聞きつけた店長が、バックヤードに駆け込んできた。
「店長!知花の頭痛が相当酷いみたいで…」
「大変っ!タクシー捉まえてくるから、もう帰しましょう。病院行った方がいいかしら…?太一付き添える?」
太一が頷き知花のロッカーから赤いコートを取り出すと、そのまま肩に羽織らせる。
次に自分のロッカーを乱暴に開けると「…くそ、だから一人暮らしって心配なんだよ…あの保護者…マジで帰ってこねぇかな…」とぶつぶつと愚痴を漏らしながら、手早く自身のコートにも腕を通す。
知花はその間も太一の言葉を反芻する。
けれど、幾ら記憶を遡っても知花に覚えはない人物だ。
それなのに身体の奥底からは懐かしさと悲しさが溢れて止まらなかった。
「…ねぇ…太一…?」
「ん?」
知花の荷物を全て担ぎ終えた太一が振り返る。
すると太一を見上げるヘーゼル色の瞳が、大きく揺らいだ。
「ヒューズって…誰のこと?」
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