【漫画版公開中】転移先は女子大生の部屋でした‐ある日、美少女姫様とイケメン騎士様が転がり込んできたら‐

原案:トウキ汐・作画:猫倉ありす

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剣術大会①

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 日本から遥か遠い地にあるエクシアルも新しい年を迎えた。
 それと同時に始まったのは、ソフィアとハーヴィットの婚礼に関わる一連の祝いの行事である。

 婚礼の儀が行われるまでの一週間、王都は近隣諸国から訪れる観光客、そして商人によって更なる賑わいを見せるのだ。

 それは各国の国賓が訪れる王宮内も同じであった。

「剣術大会?」

 騎士団の詰所にて、整い過ぎた顔に不釣り合いなクマを作り上げていたヒューズが、分厚い書類から顔を覗かせた。
 その視線の先にいるのは、良からぬことを思いついたであろう笑顔のレオンだ。

「えぇ!明日、闘技場を開放して行われるそうです。まぁ…急遽決まった余興なんですが、褒賞も豪華だから人はすぐ集まってたんです。でも…グラスタリアの騎士団長も急遽参戦するってなったら、怖気づいた騎士達が今日になってかなり辞退してしまって…」
「…情けない…死ぬわけじゃあるまいし…」

 数カ月前にヴェスタとの交渉で中立国として参加したグラスタリアは、今回の婚礼の儀でも手厚く歓迎されている国だ。
 そのためグラスタリア王だけでなく、宰相夫妻に騎士団長までやって来たのだが、どうやら他国の余興にまで手を貸してくれたらしい。

「…グラスタリアのユークレース騎士団長の強さは聞いているが、彼は魔力を持たない人間だろう?ルールはどうするんだ?」
「ルールは剣に付与する魔術のみ使用可…とのことです。あちらさんは、宰相閣下の魔術具を使用するとのことです。どうです?隊長も出てみませんか!?」
「それが目的か…」

 ヒューズは執務椅子に背中を預けると、ズルズルと下へと沈んだ。

 人手不足というか、エクシアル側のトリとして使える相手がいなくなったのだろう。
 ヒューズとて見世物にされるのには慣れてはいるが、好き好んで無様な姿を晒したいとは思わない。
 剣術の訓練より、外見の維持に努めさせられる近衛だ。一国の騎士団長との実力の差など明らかであった。

「…悪いが興味は…」

『無い』と言い切ろうとした瞬間、レオンはそれを見計らっていたかのように机をバンッと叩き、ヒューズの目の前に身を乗り出してきた。

「その代わり、褒美が特別褒賞まで引き上げになったんですよ!!!!」
「なっ…!!」

 それは国王が出来ることならば、大抵のものは叶えて貰えるというものだ。

 平民の騎士でも上位爵位が貰え、しかも子にまで引き継げるし、上位爵位持ちならば、婚姻相手次第で王族の仲間入りも可能だ。

 そして、それはヒューズが望む異世界――日本への転移すらも叶えて貰える。

 だが問題は特別褒賞ともなれば、多くの国民の命を疫病や災害から救ったり、国の柱である王や王太子の危機を救わなくてはならない。
 どちらもそうそう簡単に起こっては困るものだ。
 よって、ここ百年余りその褒賞を受け取った者はいない。
 恐らくこれを逃したら、今後、ヒューズの人生でこんな機会など訪れることはないだろう。

 そうと分かれば、話は別だ。ヒューズの唇は自然と動いていた。

「…俺も出る」
「そうこなくっちゃっ!!参加のサインここにお願いします!!」

 レオンが執務机の上に皺の付いた参加用紙を叩きつけると、ヒューズはすかさず近くの万年筆で自身の名を力強く記した。

 ***

 翌日、立ち見客まで出る程に人々でごった返す闘技場にて、ヒューズは次々に他の騎士達を斬り倒していた。
 近衛といえどヒューズは剣術の才もある。騎士団全体では十本の指がせいぜいかもしれないが、それでも師団長クラスでなければヒューズには勝てない。
 順調に勝ち進み準決勝まで終えたヒューズは、控え室に続く通路へと足を踏み入れ、軽くかいた汗をその白い手袋で拭う。

(…変だ。出ているのが新人ばかりじゃないか)

 ヒューズは薄々気付き始めていた。これは茶番なのではないかと。
 こういった催しがあれば、必ずと言っていい程に優勝候補に名を連ねる騎士が一人も出ておらず、皆がヒューズを応援している。

(くそっ…レオンに一本取られた…)

 恐らくヒューズに褒賞を取らせるために、レオンが仕組んだのだろう。
 だがヒューズとしては試合に勝っても後ろめたさしか残らない上、決勝の対戦相手は万全のコンディションでも、どこまで戦えるのか想像もつかない。

「…おや、勝ち進んでいるのに悔しそうだが、如何されたか、近衛隊長殿?」

 穏やかな声色にヒューズが振り返ると、そこにはダイヤモンドを砕いたような銀髪の美少年と、淡い金髪に空と海を混ぜたような瞳をした双子のような男性二人組が立っていた。

 何も知らない一般人が見れば、何処かの貴族一行に見えるかもしれないが、実は銀髪の少年は現グラスタリア国王その人である。

 そしてヒューズに声を掛けた中性的な顔立ちの男がユークレース宰相。
 その隣で硬い表情をしているのが宰相の弟であり、決勝の相手であるグラスタリア国騎士団長である。

 ヒューズは胸に手を当て、小さな国王へ向けてゆっくりと腰を折った。

「…大変お見苦しいところをお見せし、申し訳ございません」
「いやいや、貴殿ほどの美しい男ならば、汗を流し憂いを帯びた表情もまた、ご婦人達へのサービスに過ぎないよ。ほら、よく言うだろう?水も滴るイイ男と」

 少年らしくない言い回しと、くつくつと笑う姿にヒューズは思わず目を見開く。

「おや?記憶持ちの転生者と話をするのは初めてかい?驚かせてしまったようで、すまないな。前世は三百年以上生きていたものだから、少々話し方が年寄りくさくなってしまうんだ」
「…普通の年寄りも三百年は生きませんよ。長く生きすぎたせいで、転生してもその歳で既に頭が腐りかけているとかやめてください」

 飄々とした雰囲気で話すグラスタリア王の後ろから、臣下である筈の宰相が冷たく言い放つ。
 宰相はその中性的な顔立ちが相まってか、ただならぬ色気と美しさを振りまいていたが、口からは見た目に反した毒のような言葉しか出てこない。
 主である王に対して、このような口のきき方をする臣下は初めてだ。
 これにはヒューズも困惑の色を隠せず、言葉に詰まった。

「あぁ、気にしないでくれ。うちの宰相は少々ツンデレなんだ。可愛いだろう?」
「…デレた覚えは一度たりともありませんが」

 もう一度グラスタリア王がヒューズに向けて優しく微笑むと「良い試合を期待しているよ」とだけ言い残し、宰相を引き連れて観客席へと続く階段を上っていった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 私の他作品から一部キャラ登場させてみました。
 若かりし頃のユークレース兄弟です。


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