【漫画版公開中】転移先は女子大生の部屋でした‐ある日、美少女姫様とイケメン騎士様が転がり込んできたら‐

原案:トウキ汐・作画:猫倉ありす

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剣術大会②

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「どちらか一方が降参するか、剣が折れたり、負傷があった場合はその時点で試合終了です」
「了解した」

 広い闘技場の真ん中で、審判役の騎士が賓客であるグラスタリア国騎士団長であるルイス・ユークレースに、試合のルール説明をしていた。
 ルイスは白い騎士服のヒューズとは真逆で、黒い騎士服を纏い細剣を二本腰に下げている。
 不思議な瞳の色と男らしい端正な顔立ちで、剣の試合なのを忘れた会場の女性陣から溜め息が漏れ出た。

「…随分と生温いルールだな」

 来賓用の観客席から身を乗り出すように声を掛けてきたのは、先程会ったばかりの宰相だ。

「怪我など気にせず戦ってくれていいぞ?手足が引きちぎれようが、引っ張り出された臓物も、折れた骨も、くし刺しになった心臓だって僕が綺麗に治してあげよう。遠慮するな、宴なのだから派手にいこう」
「…と、兄上の口ぶりは酷いですが、要はどんな怪我でも治してくださるそうです。回復魔術の腕前は私が保証致しますので、近衛隊長殿、遠慮せず存分に剣を振るってください」

 そう付け加えると、ルイスは金属が擦れる耳障りな音をさせながら、腰に下げた細剣を引き抜く。
 真っ直ぐ空へと向けられた剣先が日の光を浴びると、握り込んだ小さな宝石を剣へかざし魔術を掛ける。

(強化魔術??それだけ??)

 変哲もない剣に、ただの物質強化の魔術。
 騎士団でも防具や剣の持ちをよくするために日常的に使われるものだ。

「…ではヒューズ隊長も宜しいでしょうか?」

 審判の声で気を引き締めたヒューズは、深呼吸をした後に自身の剣を抜いた。
 先程のルイスと同じように魔術具の宝石を手にし、氷系の魔術を掛ける。
 氷系の魔術は剣の強化と同時に、攻撃力も上げられる便利な術だ。
 ヒューズは審判に向かって頷くと、それに反応した審判が片手を空へ振り上げる。

「それでは参ります…試合開始!」

 振り下ろされた手と同時に、闘技場内に激しい金属音が響く。
 音の振動だけではない、ビリビリと痺れるような感触に咄嗟に奥歯を噛みしめた。

(細剣なのになんだこの重さ!?この騎士団長の筋力か!?)

 想定以上の力にヒューズは焦り、身体を後ろへ引くとその場でルイスの分析を始めた。
 体つきはエクシアルの一般騎士より細身だ。けれど、その分…いや、それ以上に動きが速い。
 そしてその速さが、細剣とは思えぬ重さ生み出しているのだろう。

(若くして騎士団長になったのは伊達ではないということか…)

 ヒューズは焦りからか、自分のこめかみから汗が滑り落ちるのを感じていた。
 そして否が応でも思い知らされる。
 身体が、細胞の一つ一つまでもヒューズに訴えかける。『逃げろ』と。

(この人には…勝てない…!!)

 周囲の人からは二人が牽制しあっているように映るだろうが、ヒューズはそうではないとひしひしと感じていた。
 圧倒的実力差ゆえ、ルイスはヒューズが斬り込んでくるのを待っているにすぎないのだ。

(…けれど、此処で諦める訳にはいかない…!)

 今、自分がここに立っている理由はただ一つ。

(彼女に…知花にもう一度会うためだ…!!!!)

 改めて強く剣を握り、重心を意識して前へと駆け出す。
 下から振り上げたヒューズの剣を、上からルイスの剣が抑え込むと、ヒューズは腕を引き、自身の身体を横へと滑らせた。

「…良い判断だ。だが、その動きではまだ遅い」

 華麗に身を翻したルイスがもう一度ヒューズの剣目掛けて、遠心力の威力まで加えた剣を振り下ろす。

「ぐ…!!ぅっ…!!」

 余りの重さに膝を付いて、ルイスの剣を耐える。

(…これでは斬り返せない!!)

 冷静な表情が多いヒューズらしくなく、歯を食いしばってまで耐える必死な表情に、観客は盛り上がるどころか瞬きすら忘れて見守っていた。

「…判断能力もあり自制心もある。騎士としては優秀だな。だが、それ故に苦しんでいるか」

 フッとルイスが力を抜いた瞬間、ヒューズは転がるように抜け出す。
 試合時間はまだ僅かだ。
 けれど、既にヒューズのこめかみや掌にはじっとりと汗が滲んでいる。
 逆にルイスはその瞳の印象のまま、ただ静かに冷くヒューズを見下ろしていた。

(まともに斬り込んでは、力負けする…だったら!)

 頬から一雫、床へと落ちると同時にヒューズは斬り込みに掛かった。
 剣先まで神経を届かせるように、素早く振り切る。
 ルイスがその剣を受ける動作を見せると、ヒューズは僅かながらその剣の角度を変えた。
 だが、それにもルイスは即座に反応を見せる。

(…掛かった!)

 ヒューズが取った手段はフェイントだった。
 真っ向勝負の剣術大会では些か卑怯な手段ではあるが、もう、それしか方法がなかった。
 フェイントに引っ掛かったルイスの剣を掠るように、ヒューズの剣が真っ直ぐルイスを貫こうと突き進む。

「…何だ…そんな考え方も出来るんじゃないか」

 フッとルイスが笑った。

(…そんな…)

 フェイントは確かに成功した。
 が、ヒューズの剣先は…ルイスに届かなかった。
 正確にいえば防がれた。

 もう一本の剣に。

(こいつ…!二刀流なのか!!)

 試合開始直後、彼は一本しか構えていなかった。
 だから気にも留めなかったのだ。
 彼が腰にもう一本剣を下げていたことを。

 ギチギチとブレード同士が音を鳴らす。
 恐らく二本目を握っている方は利き手では無いのだろうが、それでも押し切ることが出来ずヒューズの剣はブレる。

「…大分疲れているようだな。そろそろ楽にしてやろう」
「えっ…」

 ルイスが手首を返し、ブレードのぶつかり合う角度を変えた瞬間だった。
 ガキン…という金属にヒビ入る音が耳に響く。

 ヒューズの目に映ったのは自身の剣が折れ、その先が回転しながら下へと落下していく様子だった。
 激しく音を鳴らし地面へと落ちていた剣を、ヒューズは呆然と見つめた。

(……まさか…細剣にへし折られた…?)

 ヒューズの剣は一般の騎士が使うのと同じだ。
 少なくとも細剣に呆気なく折られてしまうほど、ヤワではない。

「…すまない。兄上の一番得意とする魔術は回復ではない。強化なんだ。そして、それは我が王でも勝てぬほどに強固だ。フェイントで私を狙いに来たのは良い判断だった。が、少々気付くのが遅かったな。疲労で速度が落ちては意味がない」

 冷静に解説するルイスの言葉で、ふと試合前の宰相の言葉を思い出す。

(そうだ…怪我など気にするなと言っていた…)

 つまりは目の前の男を最初から殺しにかからなければ勝てないと、彼はヒントをくれていたのだ。
 だが今更気付いたところでもう遅い。
 勝負は決まった。ヒューズは負け、知花に会うことは叶わない。
 その事実にヒューズは血が滲むほどに唇を噛みしめ、折れた剣を強く握りしめる。
 顎の先から床へと落ちた汗が、まるで涙のようだった。

「…えっ…と…試合続行不可ということで…勝者!グラスタリア国騎士団長、ルイス・ユークレース!!」

 試合中、静まり返っていた会場が一斉に沸き立つ。
 恭しく礼をするルイスの隣で、辛うじてヒューズも礼をすると、その場から静かに立ち去って行った。
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