【漫画版公開中】転移先は女子大生の部屋でした‐ある日、美少女姫様とイケメン騎士様が転がり込んできたら‐

原案:トウキ汐・作画:猫倉ありす

文字の大きさ
53 / 56

彼女の願いは

しおりを挟む
 全ての式典が終了した三日後、ソフィアとハーヴィットの出立の日と相成った。
 ヴェスタまでの道のりは長く、一行を率いていくとなると最短でも一ヶ月半は掛かる。
 数名の近衛騎士は同行メンバーに編成されていたが、本来は王太子の護衛任務が多かったヒューズは外され、見送りだけとなっていた。

「ここまで見送りありがとう」

 ウェディングドレスとはまた違う、真っ白なドレスを着たソフィアがハーヴィットに手を引かれ、門前にて宮中に残る者達へ別れの挨拶を告げていた。

「いいえ、ヴェスタまで御一緒出来ず残念です」
「気にしないで?散々、我儘を聞いて貰ったもの。ふふっ、それにいっぱい喧嘩もしたしね。あんなに楽しい日々は一生忘れないと誓うわ。…ヒューズ、いっぱい可愛がってくれてありがとう。いつまでも貴方らしく、真っ直ぐに生きていくことを願っているわ」
「…ありがとうございます、姫。どうか健やかに、いつまでも美しく有らせられますよう」

 ヒューズが微笑むと、ソフィアも同じように微笑んだ。

「そうだわ、ヒューズ。実は私、誕生日プレゼントを用意していたの。だけど、ずっと渡すことが出来なくて…今更になってしまったけれど、これを…」

 ヒューズの目の前に差し出された一通の手紙。
 白い封筒の綴じ目には差出人がソフィアであることを表す、ローダンセを模った金色の封蝋が押されていた。

「…これは?」
「…絶対、読んでくれるって信じてるわ」

 力強く、けれどどこか祈るようなアメジストの瞳に、ヒューズはそれ以上の言葉を躊躇った。
 ソフィアは一歩下がり、ハーヴィットに目配せをすると、何事もなかったかのように笑顔を浮かべ、馬車へと向かう。
 振りかえったソフィアが宮中に残る全ての者達に向けて、彼女らしい可憐で優雅なカーテシーをして見せると、長年彼女に仕えてきた者達のすすり泣く声が聞こえ、ヒューズは思わず奥歯を噛み締めた。

 ハーヴィットに導かれるまま馬車に乗り込んだソフィアは、真っ直ぐ前を見つめ、馬車を動かすように小さく頷く。

 馬車の車輪が前へと進み出すと同時に、ヒューズを含む全ての騎士達が無駄のない動きで剣を引き抜き、その剣先を空へと向ける。
 その光景は美しく、勇ましく、そして、一人の少女の幸せを願う優しさで溢れ、馬車が見えなくなるまで誰一人としてその剣を下げる者はいなかった。

 ***

 夕日が差し始めた宿舎の一室で、ヒューズは懐中時計の長針を目で追い続けていた。
 ソフィアの見送り後、騎士団長に呼び出されたヒューズは長期休暇を言い渡された。
 帰還してから休暇を取らずにいたのだから、当然の判断だが今はその時間すら惜しい。

(…時間は有限だというのに…一日も早く彼女の元へ行かなければ)

 気持ちばかりが焦り、握りしめた懐中時計の時を刻む音がヒューズを追い詰めていく。

(…知花…)

 ゆっくりと時計の蓋をしめポケットへ戻そうとした時、その指先に堅いものが当たる。

「…?」

 同じポケットに仕舞っていたのは、ソフィアから受け取った手紙だ。

「誕生日プレゼントと言っていたな…」

 ソフィアから手紙貰うのは子供の頃以来だ。
 幼い頃から誕生日を祝ってくれようとするのだが、十も下の子から受け取るのは気が引けて、苦肉の策に手紙をリクエストしたことを思い出し、ヒューズは懐かしさに笑った。
 ローダンセの封蝋をもう一度眺め、何気なく宛名の方へと封筒を反す。

 その瞬間、宛名に書かれた文字に目を見開き、立ち上がった。

 気付けばヒューズは部屋を飛び出し、走り出していた。

『…絶対…読んでくれるって信じてるから』

(あの言葉の意味は…!!)

 宿舎を飛び出し、薔薇の咲き誇る園庭を横切り、壮麗な回廊を全力で走り抜ける。
 目指すのは王宮の遥か奥。謁見の間だ。

 金の装飾が輝く重厚な扉の元へ辿り着いた時、前に控える騎士達はヒューズを止めることもなく、そっと横へと道を譲る。
 誰もが端然とすべき謁見の間であるにも関わらず、ヒューズは乱れた髪も騎士服もそのままに、その扉を押した。

 開かれた先には王や側近だけではなく、ヒューズの両親や他の近衛騎士まで勢揃いしていた。
 息を切らし唖然とするヒューズに、その場にいた全員が優しく微笑んでいた。

「遅いぞ」

 状況がいまいち掴めていないヒューズに、真っ先に声を掛けたのは、大きな杖を抱えたルシウスだった。

「…何故?…何故ここに父上達まで…」
「お前はそんな薄情なやつなのか?これから先、会うことが難しくなるんだから、家族に顔くらいは見せたってバチは当たらないだろう?」

 ルシウスはヒューズが握りしめていた手紙を指差した。
 その手紙の宛名を目でなぞる。

 ソフィアが手紙の宛名に記した名は、ヒューズではない。


 だった。



「ソフィアの最後の願いだ『ヒューズと、私の大事な友人を、共に生きていけるようにして欲しい』とな」

「!!」

 その瞬間、ヒューズの頬を温かいものが幾つも伝い、零れ落ちていく。

 自分の頬を涙が流れていると気付いた時、ヒューズは手紙を握っていない方の手で、咄嗟に止めようとしたが、指の隙間からそれは止め処なく溢れ続けた。

 止む無く涙を拭うことを諦めたヒューズは、ゆっくりと周囲を見渡す。

 微笑む者、涙を流す者と様々だが、その誰もがヒューズと目が合うと頷き、ヒューズを見送る言葉を口にする。

 その一言一言を震える唇をしっかりと結び、心へと刻む。

 やがて全ての人達の言葉を受け取ったヒューズが、ルシウスに向き直る。
 新緑のような清らかな瞳に、もう迷いはない。

「準備した甲斐があったな。…ヒューズ・オル・ブライト、其方に新しい任務だ。その手紙、ソフィアの友人に届けてくれるか?」

 ソフィアと同じアメジストの瞳が問う。

「はいっ!!お任せください!」

 その力強い返事を聞き届けると、ルシウスは自身と同じ背丈程の杖を、煌びやかなシャンデリアで飾られた天井へと掲げる。
 天井には無数の文字と図形が光り輝き、巨大な魔法陣を形成していく。

 陣が完成するとルシウスはヒューズに、その掌を差し出した。

「良い人生の旅路を…!」


(――必ず彼女に届けよう。この気持ちと共に…)

 ヒューズは頬を伝う熱が冷める前に、その手をしっかりと握り返した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...