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番外編・ソフィアの手紙
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ーー親愛なる知花へ
久しぶりね。
私がエクシアルに戻って、もう五カ月が経ちました。
貴女は元気に過ごしているかしら?
私?私はもうすぐ婚礼の儀があるから、来る日も来る日も禊ばかりよ。
そろそろ、全身削れ過ぎて無くなってしまいそう。
まぁ、近況報告はその程度にしておいて…今、この手紙を読んでくれているのなら、私の最後の願いをお父様やお兄様達は叶えてくれたのね。
遅くなってしまったけれど、貴女に渡せなかった誕生日プレゼントを贈るわ。
本当苦労したのよ?
何処かの朴念仁は、いつまでも知花をウジウジ呼び続けているくせに、彼の誕生日プレゼントにと『欲しいものはないか』と聞いても素直に答えやしない。
だからもうヒューズにはあげないことにしたのだけど、他の騎士達から『痛々しくて見ていられない』と苦情が酷いから、そちらに送りつけることにしたわ。
知花はお料理上手でしょう?
頭が堅すぎて少々手こずるかもしれないけれど、煮るなり焼くなり好きにして頂戴。
そして、知花。
どうか幸せになって。
もう貴女に会うことは出来ないけれど、貴女と過ごした日々は、今も私の心の中で美しく光り輝いているわ。
毎日『おはよう』と『おやすみ』を交わして、『いってきます』と『ただいま』に言葉が返ってくる。
そんな当たり前で、幸せな日々を、これからも貴女には過ごして欲しい。
まぁ、知花なら私の心配なんて必要ないわね。
いつまでも笑顔の素敵な貴女でいて。
ーー追伸。
これは内緒話なのだけど、ヒューズは知花と料理をする時、いつも髪を上げている貴女のうなじを、齧り付きたそうに見ていたわ。
『知花には言わないで欲しい』とずっと口止めされていたから、手紙に書くことにするわね。
あと、食器もデザイン毎に全て三枚以上あって多いでしょう?
早く三人家族になって使われる日が来るのを、遠く離れた地から願っているわ。
じゃあ、またね。
異世界から、貴女の友人ソフィアより――
「…って、え????」
ーーガチャン!!
知花は声に出して読み上げていたソフィアの手紙から、音の鳴ったキッチンへと顔を向けた。
どうやら夕飯の準備をしていたヒューズが、珍しく手元を狂わせ皿を落としたようだ。
更にはその端正な顔が間抜けに崩れ、真っ赤になっている。
ヒューズは文面を確認するために、割れたであろう皿を放置したまま、知花の元へ駆け寄ると、手紙を取り上げ自らも手紙の文字を必死に目で追う。
けれど書かれていることは一言一句、知花が読み上げたままだ。
「…確かに…言わないでくれと申し上げたが…!!」
まさかこんな形でバラされるとは。
恐らく彼女なりの激励…いや、嫌がらせに間違いないが、酷い、酷過ぎる。
恥ずかしいことこの上ない。
「え…これ…本当なんですか…!?」
「!!!!」
逆に手紙に書かれていることが冗談だと思っていた知花は、ヒューズの言葉により事実であることを知り、全身を赤く染め上げた。
(え!?うなじ!?うなじなんて見てたの!!??)
今は別にヒューズから見える位置でもないのに、思わずうなじに触れて確認する。
おまけに手紙の最後の方は『子作りに励め』とまで書かれている。
確かにこれからは二人暮らしだ。完全に同棲だ。
恋人同士になったのだからそういうこともあるだろう。
あわあわと顔を真っ赤にしたまま硬直する知花と、死んだ目で硬直するヒューズとの間で、ただ時間だけが過ぎていく。
やがて大きく溜め息を吐いたヒューズか、先に口を開いた。
「…悪い…取り乱した。…すぐご飯の用意をするから…」
ヒューズは手紙を折り畳むなり、逃げるようにキッチンに向かおうとすると、すぐさま知花は抱き締めるように引き留めた。
(な、な、何してんの私ーーーー!!)
けれど、後悔してももう遅い。
しっかりと、がっちりと知花の腕はヒューズの腰へと巻き付いて離れない。
「…えぇっと…あの…ヒューズさん…」
「……何だ?」
「…ご飯…後でも…いいですか…?」
精一杯になりながらも出た震える声と、密着した身体の一部から微かに伝わる心臓の速さ。
そして布越しでも伝わる、お互いの熱。
「……後…どころか…朝になってしまうかもしれないが…平気か?」
返されたのはいつもよりも甘く響く低い声。
(それって…!!!!)
手加減など出来ないという宣言に、知花の心臓は更に速度を増す。
恥ずかしさに耐えきれなくなった知花は、目の前の大きな背中に顔を埋めるように隠した。
それが逆効果になってしまうとも考えずに
知花に伝わるのはヒューズの中で鳴り響く心臓の音。
上がっていく体温。
そして鼻をくすぐる愛しい人の匂い。
(ヒューズさんも一緒だ…)
知花が彼を愛しいと想うのと同じだけ、彼も自分を愛しいと思っていると、その身体がじんじんと伝えてくる。
巻きつけた腕を、長く骨ばった指がそっとなぞる。
「知花…」
長い沈黙。
沈黙が肯定の意味になってしまうのはヒューズの鉄則だったが、どうやら知花も同じようになってしまったようだ。
けれど、ヒューズは知花の返事を黙って待っている。
その優しさに覚悟を決めた知花は服をキュッと握り込むと、小さく、いつもより赤く染まった唇を開いた。
「…初めてなので…お手柔らかに…お願いします…」
久しぶりね。
私がエクシアルに戻って、もう五カ月が経ちました。
貴女は元気に過ごしているかしら?
私?私はもうすぐ婚礼の儀があるから、来る日も来る日も禊ばかりよ。
そろそろ、全身削れ過ぎて無くなってしまいそう。
まぁ、近況報告はその程度にしておいて…今、この手紙を読んでくれているのなら、私の最後の願いをお父様やお兄様達は叶えてくれたのね。
遅くなってしまったけれど、貴女に渡せなかった誕生日プレゼントを贈るわ。
本当苦労したのよ?
何処かの朴念仁は、いつまでも知花をウジウジ呼び続けているくせに、彼の誕生日プレゼントにと『欲しいものはないか』と聞いても素直に答えやしない。
だからもうヒューズにはあげないことにしたのだけど、他の騎士達から『痛々しくて見ていられない』と苦情が酷いから、そちらに送りつけることにしたわ。
知花はお料理上手でしょう?
頭が堅すぎて少々手こずるかもしれないけれど、煮るなり焼くなり好きにして頂戴。
そして、知花。
どうか幸せになって。
もう貴女に会うことは出来ないけれど、貴女と過ごした日々は、今も私の心の中で美しく光り輝いているわ。
毎日『おはよう』と『おやすみ』を交わして、『いってきます』と『ただいま』に言葉が返ってくる。
そんな当たり前で、幸せな日々を、これからも貴女には過ごして欲しい。
まぁ、知花なら私の心配なんて必要ないわね。
いつまでも笑顔の素敵な貴女でいて。
ーー追伸。
これは内緒話なのだけど、ヒューズは知花と料理をする時、いつも髪を上げている貴女のうなじを、齧り付きたそうに見ていたわ。
『知花には言わないで欲しい』とずっと口止めされていたから、手紙に書くことにするわね。
あと、食器もデザイン毎に全て三枚以上あって多いでしょう?
早く三人家族になって使われる日が来るのを、遠く離れた地から願っているわ。
じゃあ、またね。
異世界から、貴女の友人ソフィアより――
「…って、え????」
ーーガチャン!!
知花は声に出して読み上げていたソフィアの手紙から、音の鳴ったキッチンへと顔を向けた。
どうやら夕飯の準備をしていたヒューズが、珍しく手元を狂わせ皿を落としたようだ。
更にはその端正な顔が間抜けに崩れ、真っ赤になっている。
ヒューズは文面を確認するために、割れたであろう皿を放置したまま、知花の元へ駆け寄ると、手紙を取り上げ自らも手紙の文字を必死に目で追う。
けれど書かれていることは一言一句、知花が読み上げたままだ。
「…確かに…言わないでくれと申し上げたが…!!」
まさかこんな形でバラされるとは。
恐らく彼女なりの激励…いや、嫌がらせに間違いないが、酷い、酷過ぎる。
恥ずかしいことこの上ない。
「え…これ…本当なんですか…!?」
「!!!!」
逆に手紙に書かれていることが冗談だと思っていた知花は、ヒューズの言葉により事実であることを知り、全身を赤く染め上げた。
(え!?うなじ!?うなじなんて見てたの!!??)
今は別にヒューズから見える位置でもないのに、思わずうなじに触れて確認する。
おまけに手紙の最後の方は『子作りに励め』とまで書かれている。
確かにこれからは二人暮らしだ。完全に同棲だ。
恋人同士になったのだからそういうこともあるだろう。
あわあわと顔を真っ赤にしたまま硬直する知花と、死んだ目で硬直するヒューズとの間で、ただ時間だけが過ぎていく。
やがて大きく溜め息を吐いたヒューズか、先に口を開いた。
「…悪い…取り乱した。…すぐご飯の用意をするから…」
ヒューズは手紙を折り畳むなり、逃げるようにキッチンに向かおうとすると、すぐさま知花は抱き締めるように引き留めた。
(な、な、何してんの私ーーーー!!)
けれど、後悔してももう遅い。
しっかりと、がっちりと知花の腕はヒューズの腰へと巻き付いて離れない。
「…えぇっと…あの…ヒューズさん…」
「……何だ?」
「…ご飯…後でも…いいですか…?」
精一杯になりながらも出た震える声と、密着した身体の一部から微かに伝わる心臓の速さ。
そして布越しでも伝わる、お互いの熱。
「……後…どころか…朝になってしまうかもしれないが…平気か?」
返されたのはいつもよりも甘く響く低い声。
(それって…!!!!)
手加減など出来ないという宣言に、知花の心臓は更に速度を増す。
恥ずかしさに耐えきれなくなった知花は、目の前の大きな背中に顔を埋めるように隠した。
それが逆効果になってしまうとも考えずに
知花に伝わるのはヒューズの中で鳴り響く心臓の音。
上がっていく体温。
そして鼻をくすぐる愛しい人の匂い。
(ヒューズさんも一緒だ…)
知花が彼を愛しいと想うのと同じだけ、彼も自分を愛しいと思っていると、その身体がじんじんと伝えてくる。
巻きつけた腕を、長く骨ばった指がそっとなぞる。
「知花…」
長い沈黙。
沈黙が肯定の意味になってしまうのはヒューズの鉄則だったが、どうやら知花も同じようになってしまったようだ。
けれど、ヒューズは知花の返事を黙って待っている。
その優しさに覚悟を決めた知花は服をキュッと握り込むと、小さく、いつもより赤く染まった唇を開いた。
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