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番外編・太一の空白
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知花がバイトを辞めた。
四月になり新しいバイトが入り始めた頃から、知花は慣れない指導の疲れからか、バイト中もウトウトとすることが多くなった。
しかも微熱が続きだしたため、暫く休むように伝えた僅か二日後、店にやってきた知花は突然バイトを辞めた。
店長への報告を済ませた知花はその足で俺の元へとやってきて、その理由を告げた。
その理由が『妊娠』だった。
あれから約二週間。
知花は酷い悪阻で寝込んでいるらしい。
結果的にバイトを辞めて正解だったが、今の俺の状況は最悪な状況になっている。
何故なら…
「好きです!!和泉さん!!!!」
「今仕事中なんすけど、羽曳野さん…」
バイト先のコーヒーショップでいつもの如くバイトに勤しむ俺に、人目を憚らず愛を叫ぶ女…それも顔は知花そっくり…。
髪型が違うだけのドッペルゲンガーのような人物が何者かというと、知花の妹『麻衣』である。
「だって太一先輩、バイト終わったらさっさと帰っちゃうじゃないですか!大学でも…!!」
「私語は謹んでください、羽曳野さん。あ、いらっしゃいませ!」
知花の後釜として、進学で日本に帰ってきた妹がそのままバイトへ入って来たのだ。
けれどこの知花の妹は昔から俺に好意を寄せていて、とにかくアピールが凄い。
毎日毎日、俺を見掛けると真っ先に走ってきては、二言目には『好き』と言う有様だ。
「もしかして、まだお姉ちゃんのことが好きなんですか!?もうすぐヒューズさんと結婚式なのに!!??人妻に片想いとか不毛ですよ!!あのヒューズさんから寝取るとか無理ですって!!諦めて私にしておきましょう!!ほら顔は似てるでしょう!?お姉ちゃんみたいにおっぱいは無いですけど、先輩のためなら毎日豆乳飲んで頑張りますから!!」
「…羽曳野さん、見て分からないかな?今、接客中なんだけど?店長~」
「は・び・き・の・さーーーーーーん??」
「ぴぇっ」
相手をするのが面倒くさくなった俺は、容赦なく店長を呼びつけて、ずるずるとバックヤード…最近では説教部屋と化した裏へと引き連れて行ってもらう。
「あ…あの…和泉さん…」
「あ、申し訳ございません。ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「は、はい…それと…これ…」
女性客が他の店員に見えないように差し出したのは、連絡先が書かれたメモだ。
(……今後はこっちかよ…)
「申し訳ございません。こういったものは受取ることができませんので」
有無を言わさぬ笑顔のまま、手に取ったメモをフードが入った紙袋へ放り込み、そのまま女性へと突き返す。
「あ…」
そのままドリンクを作るふりをして背を向けると小さく溜め息を吐いた。
(今、知花の妹で手一杯なのに、他の女の相手なんかできるかよ)
顔はそっくりな羽曳野姉妹、けれど中身は別物だ。
(失恋の傷が癒えきってないとこに、妊娠報告でまたがっつり抉られたのに…)
自分でも引きずり過ぎだと思う。
だが長すぎた片想いの期間がごっそり抜けてしまえば、その空白はデカイ。
今更二人の仲を裂こうなどとは考えないが、幸せそうな知花を見るとその大きさを改めて思い知る。
今の俺はその空白に、ぴったりとはまるものを探しては『これも違う』『あれも違う』と無駄なことをしている。
「お先に失礼しまーす」
俺はバイトを終え足早に店を出ると歩く速度をあげた。
――だが…
「待ってくださーーーい!!太一せんぱーーーい!!」
(くっそ…遅かったか…)
このまま無視を貫きたいところだが、それをするのは得策ではないことを既に経験済みだ。
大人しく振り返ると、店長にたっぷり絞られたはずの知花の妹が、落ち込んだ様子もなく追いかけてきた。
「お前なぁ…あーいうの、店でやめれ!!」
「だって!先輩モテるんだもん!!先輩狙いのお客さん多すぎですよ!!今日もどんだけ来てたか!!変な虫ついちゃう!!」
この状況で『変な虫』は果たしてどっちなのだろう。
少なくとも今の俺にとっては、たまに店に来て連絡先を置いていく女より、麻衣のほうがよっぽど厄介である。
「もう、諦めろ」
「やです!!」
「しつこい」
「いーやーでーすぅーーーーー!!」
「俺は知花の妹を子守りする趣味はないんだよ!!面倒みてくれそうな男、探してるんなら他あたれ!!」
しっしと手を振り踵を返すが、珍しくその後の言葉が続かない。
不審に思った俺は、振り返ろうとしたその瞬間だったー
「……私は!!『太一先輩』が好きだって言ってるんです!!!!」
「!!」
駅前のど真ん中で轟く声に、通行人の視線が集中する。
(まじかよ…)
全身の血液が一気に足元へ落ちていくようで、視界がぐらりと揺れた。
「お前さ…」
滅茶苦茶過ぎる知花の妹を窘めようと、身体を向き直すと目の前に飛びこんできたのは、ヘーゼル色の大きな目にめいっぱい涙を溜めて、唇を噛みしめる姿だった。
「…お姉ちゃんばっかり見ないでください!!私のこともちゃんと見てください!!お姉ちゃんの妹じゃなくて、『羽曳野麻衣』だって、ちゃんと分かってください…!!」
怒っている…というよりも悲鳴に近いような声に、罪悪感が何度も突かれる。
そんなつもりは無かった、とは否定ができないからだ。
いつも頭の片隅には知花が居た。
顔が似ているからこそ、麻衣が何をしても余計に知花と比べた。
その結果、麻衣の好意どころか存在すらも蔑ろにしているとも気付かずに。
(…そろそろ、知花への未練に引きずられるのもいい加減にしないとな…)
深く深く息を吐き、静かに口を開く。
「…悪かった、麻衣。次からは気を付けるから、そんな風に泣くな」
ゆっくりと頭を下げてみても、一向に麻衣の返事はない。
そっと麻衣の様子を盗み見るが、泣くのを我慢しているつもりなのか、歯を食いしばってはいるが、その目から容赦なく大粒の涙が落ちている。
その様子がまるで子供のようで、俺は麻衣にはバレぬように少し口角を上げてしまった。
「…泣いてません…ぐずっ」
「嘘こけ。鼻水も垂れてっけど…?」
「嘘!!??」
「嘘」
鼻を隠し真っ赤に顔を染めあげた麻衣に、我慢がし切れずに遂に吹き出した。
「ぶふっ!あんま顔の力抜くと、本当に鼻水垂れるぞ??…折角のかわい…」
言い掛けた言葉を慌てて止める。
(待て…?今、俺、何て言おうとした…?)
突然、黙り込んだ俺を麻衣が覗き込む。
「太一…先輩??」
くりくりと大きなヘーゼル色の目が真っ直ぐ見つめてくると、自然と胸の奥が熱くなってくるように感じ、慌てて緩みそうになる口元を隠した。
(嘘だろ…)
「あの、聞いてますか?太一せんぱーーーい??」
ふと、以前あの異世界人二人組に言ったことを思いだす。
『こいつ可愛いなって一瞬でも思っちゃったら、もう手遅れなんだよ』
(…手遅れ…か…)
俺の中の空白に、デカく厄介なものがはまった瞬間だった。
四月になり新しいバイトが入り始めた頃から、知花は慣れない指導の疲れからか、バイト中もウトウトとすることが多くなった。
しかも微熱が続きだしたため、暫く休むように伝えた僅か二日後、店にやってきた知花は突然バイトを辞めた。
店長への報告を済ませた知花はその足で俺の元へとやってきて、その理由を告げた。
その理由が『妊娠』だった。
あれから約二週間。
知花は酷い悪阻で寝込んでいるらしい。
結果的にバイトを辞めて正解だったが、今の俺の状況は最悪な状況になっている。
何故なら…
「好きです!!和泉さん!!!!」
「今仕事中なんすけど、羽曳野さん…」
バイト先のコーヒーショップでいつもの如くバイトに勤しむ俺に、人目を憚らず愛を叫ぶ女…それも顔は知花そっくり…。
髪型が違うだけのドッペルゲンガーのような人物が何者かというと、知花の妹『麻衣』である。
「だって太一先輩、バイト終わったらさっさと帰っちゃうじゃないですか!大学でも…!!」
「私語は謹んでください、羽曳野さん。あ、いらっしゃいませ!」
知花の後釜として、進学で日本に帰ってきた妹がそのままバイトへ入って来たのだ。
けれどこの知花の妹は昔から俺に好意を寄せていて、とにかくアピールが凄い。
毎日毎日、俺を見掛けると真っ先に走ってきては、二言目には『好き』と言う有様だ。
「もしかして、まだお姉ちゃんのことが好きなんですか!?もうすぐヒューズさんと結婚式なのに!!??人妻に片想いとか不毛ですよ!!あのヒューズさんから寝取るとか無理ですって!!諦めて私にしておきましょう!!ほら顔は似てるでしょう!?お姉ちゃんみたいにおっぱいは無いですけど、先輩のためなら毎日豆乳飲んで頑張りますから!!」
「…羽曳野さん、見て分からないかな?今、接客中なんだけど?店長~」
「は・び・き・の・さーーーーーーん??」
「ぴぇっ」
相手をするのが面倒くさくなった俺は、容赦なく店長を呼びつけて、ずるずるとバックヤード…最近では説教部屋と化した裏へと引き連れて行ってもらう。
「あ…あの…和泉さん…」
「あ、申し訳ございません。ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「は、はい…それと…これ…」
女性客が他の店員に見えないように差し出したのは、連絡先が書かれたメモだ。
(……今後はこっちかよ…)
「申し訳ございません。こういったものは受取ることができませんので」
有無を言わさぬ笑顔のまま、手に取ったメモをフードが入った紙袋へ放り込み、そのまま女性へと突き返す。
「あ…」
そのままドリンクを作るふりをして背を向けると小さく溜め息を吐いた。
(今、知花の妹で手一杯なのに、他の女の相手なんかできるかよ)
顔はそっくりな羽曳野姉妹、けれど中身は別物だ。
(失恋の傷が癒えきってないとこに、妊娠報告でまたがっつり抉られたのに…)
自分でも引きずり過ぎだと思う。
だが長すぎた片想いの期間がごっそり抜けてしまえば、その空白はデカイ。
今更二人の仲を裂こうなどとは考えないが、幸せそうな知花を見るとその大きさを改めて思い知る。
今の俺はその空白に、ぴったりとはまるものを探しては『これも違う』『あれも違う』と無駄なことをしている。
「お先に失礼しまーす」
俺はバイトを終え足早に店を出ると歩く速度をあげた。
――だが…
「待ってくださーーーい!!太一せんぱーーーい!!」
(くっそ…遅かったか…)
このまま無視を貫きたいところだが、それをするのは得策ではないことを既に経験済みだ。
大人しく振り返ると、店長にたっぷり絞られたはずの知花の妹が、落ち込んだ様子もなく追いかけてきた。
「お前なぁ…あーいうの、店でやめれ!!」
「だって!先輩モテるんだもん!!先輩狙いのお客さん多すぎですよ!!今日もどんだけ来てたか!!変な虫ついちゃう!!」
この状況で『変な虫』は果たしてどっちなのだろう。
少なくとも今の俺にとっては、たまに店に来て連絡先を置いていく女より、麻衣のほうがよっぽど厄介である。
「もう、諦めろ」
「やです!!」
「しつこい」
「いーやーでーすぅーーーーー!!」
「俺は知花の妹を子守りする趣味はないんだよ!!面倒みてくれそうな男、探してるんなら他あたれ!!」
しっしと手を振り踵を返すが、珍しくその後の言葉が続かない。
不審に思った俺は、振り返ろうとしたその瞬間だったー
「……私は!!『太一先輩』が好きだって言ってるんです!!!!」
「!!」
駅前のど真ん中で轟く声に、通行人の視線が集中する。
(まじかよ…)
全身の血液が一気に足元へ落ちていくようで、視界がぐらりと揺れた。
「お前さ…」
滅茶苦茶過ぎる知花の妹を窘めようと、身体を向き直すと目の前に飛びこんできたのは、ヘーゼル色の大きな目にめいっぱい涙を溜めて、唇を噛みしめる姿だった。
「…お姉ちゃんばっかり見ないでください!!私のこともちゃんと見てください!!お姉ちゃんの妹じゃなくて、『羽曳野麻衣』だって、ちゃんと分かってください…!!」
怒っている…というよりも悲鳴に近いような声に、罪悪感が何度も突かれる。
そんなつもりは無かった、とは否定ができないからだ。
いつも頭の片隅には知花が居た。
顔が似ているからこそ、麻衣が何をしても余計に知花と比べた。
その結果、麻衣の好意どころか存在すらも蔑ろにしているとも気付かずに。
(…そろそろ、知花への未練に引きずられるのもいい加減にしないとな…)
深く深く息を吐き、静かに口を開く。
「…悪かった、麻衣。次からは気を付けるから、そんな風に泣くな」
ゆっくりと頭を下げてみても、一向に麻衣の返事はない。
そっと麻衣の様子を盗み見るが、泣くのを我慢しているつもりなのか、歯を食いしばってはいるが、その目から容赦なく大粒の涙が落ちている。
その様子がまるで子供のようで、俺は麻衣にはバレぬように少し口角を上げてしまった。
「…泣いてません…ぐずっ」
「嘘こけ。鼻水も垂れてっけど…?」
「嘘!!??」
「嘘」
鼻を隠し真っ赤に顔を染めあげた麻衣に、我慢がし切れずに遂に吹き出した。
「ぶふっ!あんま顔の力抜くと、本当に鼻水垂れるぞ??…折角のかわい…」
言い掛けた言葉を慌てて止める。
(待て…?今、俺、何て言おうとした…?)
突然、黙り込んだ俺を麻衣が覗き込む。
「太一…先輩??」
くりくりと大きなヘーゼル色の目が真っ直ぐ見つめてくると、自然と胸の奥が熱くなってくるように感じ、慌てて緩みそうになる口元を隠した。
(嘘だろ…)
「あの、聞いてますか?太一せんぱーーーい??」
ふと、以前あの異世界人二人組に言ったことを思いだす。
『こいつ可愛いなって一瞬でも思っちゃったら、もう手遅れなんだよ』
(…手遅れ…か…)
俺の中の空白に、デカく厄介なものがはまった瞬間だった。
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おゆうさん、コメントありがとうございます(o'∀'人)
良かった!姫様のポジションがちゃんと伝わっていて安心しました!
お灸をすえられたヒューズさんがどんな行動を取るのか、見守っていただけると嬉しいですヽ(*''▽''*)ノ
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