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動き出す未来
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─とある一室にて─
「久しぶりじゃな。元気にしていたか?」
「はい。突然の訪問、申し訳ございません先王カイル様」
「堅苦しい挨拶はよせよせ!ワシとお前の仲ではないかワイズよ」
先王カイルは手を振って久々の旧友との再会を喜んだ。
「それで、突然どうした?聞けば国内各地を精力的に廻っているというではないか。何かあったのか?」
「はい。正直、お伝えしていいのか悩みましたが、1つお約束をして頂けるなら親友であるカイルに、嬉しい報告ができそうです」
カイル先王は首を傾げた。
「少し前にこの国の守護精霊アリエル様が夢枕に現れ啓示を下さりました。辺境の地の『洗礼の儀式』で何か起きると」
!?
「それは大丈夫だったのか!?もう洗礼の儀式は終わっておるじゃろう!」
元教皇であるワイズが世迷い言を言う訳がないと知っている先王は何があったのか尋ねた。
「…………これから何があったのか説明する前に約束して下さい。騒ぎ立てないと。とある人の人生が掛かっておりますので」
「それほどの事か。わかった。約束しよう」
一呼吸おいて洗礼の儀式であった事を話した。
「お、おおおぉ……………」
先王カイルは号泣していた。
そう、シオン皇后の【夫】だった人だからだ。
「わ、ワシが国の為に尽くしていた事はムダではなかったのじゃな?ワシが国を治めていたときは、隣国との戦争や自然災害に悩まされて、ろくに妻であるシオンを旅行にも連れて行けなかった………妻は幸せだったのじゃろうかと…………」
「何を言っているんですか。シオン皇后の最後の言葉を思い出してください!死に際の者があんな感謝の言葉を残すわけないでしょう?あなた達の行ないはちゃんと守護精霊アリエル様が見ておられたのです。胸を張って下さい!」
先王は泣きながら何度も頷いた。
シオン皇后が亡くなる時に、ワイズ元教皇も一緒にその場にいたのだ。
しばらくして落ち着いてから尋ねた。
「ワイズよ。その………会う事できぬのか?」
「最初に約束して頂いたはずです。騒ぎ立てないと、新たな命を授かったシオン皇后様は静かに暮らすのをお望みですので」
「頼む!ならば、お忍びでワシ一人で向かうのはどうじゃ!?」
ワイズも必ず逢いたいと言うのはわかっていた。
「そう仰ると思ってましたよ。ちゃんと辺境へ視察に行く事を他の者に伝えて下さいね。数名の護衛を伴って行くとしましょう」
「感謝する!」
先王はただ生きているだけで、抜け殻のように過ごしてきた。しかし、今の目には力強い意志と生命が宿っていた。
そして時をおかずに先王はワイズと数名の護衛を伴って辺境の男爵家へと旅立った。
「父上が辺境へ視察?」
息子であり【現皇王】は報告を受けて首を傾げた。
「はい。旧友である元教皇様が訪ねられて、一緒に出掛けられました」
「あの父上がな………」
母上を亡くしてから、ただ遺言に従い生きていただけの父上が急に視察とは………
これは何かあると思い、配下の者に指示を出した。
「念のため足取りを追ってくれ。ワイズ殿がいるのであれば悪い事ではないと思うが、護衛が少ないのであれば盗賊など心配だからな」
すぐにその場を後にした部下を見送った後、公爵位を与えられた弟がやってきた。
「兄上、親父が視察に出掛たというのは本当か?」
現アガレス王家はシオン皇后のお陰で家族仲が良好である。王位を巡って兄弟で争う事なく、協力して国をまとめているのだ。
「耳が早いな。私も報告受けたばかりでな。念のため後を追わせた所だ」
「親父、大丈夫だろうか?」
「ワイズ殿が同行しているのだ。多分、父上を元気付けようとして連れ出してくれたのだろう」
幼い頃、災害などで父と母が苦労している所を見て育った兄弟は、父親と母親を尊敬し敬愛していた。そして母を亡くして元気の無くなった父親が元気になればと、願わずにはいられなかった。
「久しぶりじゃな。元気にしていたか?」
「はい。突然の訪問、申し訳ございません先王カイル様」
「堅苦しい挨拶はよせよせ!ワシとお前の仲ではないかワイズよ」
先王カイルは手を振って久々の旧友との再会を喜んだ。
「それで、突然どうした?聞けば国内各地を精力的に廻っているというではないか。何かあったのか?」
「はい。正直、お伝えしていいのか悩みましたが、1つお約束をして頂けるなら親友であるカイルに、嬉しい報告ができそうです」
カイル先王は首を傾げた。
「少し前にこの国の守護精霊アリエル様が夢枕に現れ啓示を下さりました。辺境の地の『洗礼の儀式』で何か起きると」
!?
「それは大丈夫だったのか!?もう洗礼の儀式は終わっておるじゃろう!」
元教皇であるワイズが世迷い言を言う訳がないと知っている先王は何があったのか尋ねた。
「…………これから何があったのか説明する前に約束して下さい。騒ぎ立てないと。とある人の人生が掛かっておりますので」
「それほどの事か。わかった。約束しよう」
一呼吸おいて洗礼の儀式であった事を話した。
「お、おおおぉ……………」
先王カイルは号泣していた。
そう、シオン皇后の【夫】だった人だからだ。
「わ、ワシが国の為に尽くしていた事はムダではなかったのじゃな?ワシが国を治めていたときは、隣国との戦争や自然災害に悩まされて、ろくに妻であるシオンを旅行にも連れて行けなかった………妻は幸せだったのじゃろうかと…………」
「何を言っているんですか。シオン皇后の最後の言葉を思い出してください!死に際の者があんな感謝の言葉を残すわけないでしょう?あなた達の行ないはちゃんと守護精霊アリエル様が見ておられたのです。胸を張って下さい!」
先王は泣きながら何度も頷いた。
シオン皇后が亡くなる時に、ワイズ元教皇も一緒にその場にいたのだ。
しばらくして落ち着いてから尋ねた。
「ワイズよ。その………会う事できぬのか?」
「最初に約束して頂いたはずです。騒ぎ立てないと、新たな命を授かったシオン皇后様は静かに暮らすのをお望みですので」
「頼む!ならば、お忍びでワシ一人で向かうのはどうじゃ!?」
ワイズも必ず逢いたいと言うのはわかっていた。
「そう仰ると思ってましたよ。ちゃんと辺境へ視察に行く事を他の者に伝えて下さいね。数名の護衛を伴って行くとしましょう」
「感謝する!」
先王はただ生きているだけで、抜け殻のように過ごしてきた。しかし、今の目には力強い意志と生命が宿っていた。
そして時をおかずに先王はワイズと数名の護衛を伴って辺境の男爵家へと旅立った。
「父上が辺境へ視察?」
息子であり【現皇王】は報告を受けて首を傾げた。
「はい。旧友である元教皇様が訪ねられて、一緒に出掛けられました」
「あの父上がな………」
母上を亡くしてから、ただ遺言に従い生きていただけの父上が急に視察とは………
これは何かあると思い、配下の者に指示を出した。
「念のため足取りを追ってくれ。ワイズ殿がいるのであれば悪い事ではないと思うが、護衛が少ないのであれば盗賊など心配だからな」
すぐにその場を後にした部下を見送った後、公爵位を与えられた弟がやってきた。
「兄上、親父が視察に出掛たというのは本当か?」
現アガレス王家はシオン皇后のお陰で家族仲が良好である。王位を巡って兄弟で争う事なく、協力して国をまとめているのだ。
「耳が早いな。私も報告受けたばかりでな。念のため後を追わせた所だ」
「親父、大丈夫だろうか?」
「ワイズ殿が同行しているのだ。多分、父上を元気付けようとして連れ出してくれたのだろう」
幼い頃、災害などで父と母が苦労している所を見て育った兄弟は、父親と母親を尊敬し敬愛していた。そして母を亡くして元気の無くなった父親が元気になればと、願わずにはいられなかった。
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