竜焔の騎士

時雨青葉

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第4章 決まっている勝利

過去のミゲル

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「もしかしてミゲルって……〝覇王〟って呼ばれるの嫌いなの?」


 見たまま感じたまま、キリハは疑問に思ったことを口にしてみる。


「まあね。」


 ジョーが示したのは肯定。


「大学時代のミゲルって、今より相当性格が歪んでたんだよ。自分のことも他人のことも、大嫌いって感じでね。だからか、周りから〝覇王〟って呼ばれてはやし立てられるのが、結構頭にきてたみたい。今はそこまで嫌いじゃないみたいだけど……まあ、できれば思い出したくない、黒歴史みたいなもんだよね。」


「おい、ジョー!! てめえもてめえで、何余計なこと吹き込んでやがんだ!」


 ディアラントの胸ぐらを掴んでいたミゲルが、ジョーの言葉を聞きとがめて、鬼のような形相で勢いよく振り返ってくる。
 そんなミゲルに。


「……ごめん。」


 ぺこりと、キリハが頭を下げた。


「俺、全然それを知らなくて無神経なことを…。もう言わないようにする。」
「………」


 しゅんとするキリハに、その場の誰もが言葉を失った。
 少しの間逡巡しゅんじゅんする素振りを見せていたミゲルは、溜め息をつきながらディアラントを離す。


「やめてくれよ、キー坊。お前に謝られちゃ、おれの立場がねえっての。自分の心の狭さを痛感するっつーか、なんつーか……」


「ほんと、純粋な子って怖いですよね。」
「お前は、少しはキー坊を見習え。」


 ミゲルは戸惑いの表情で自分の髪を掻き回し、次にキリハの方へと近寄ってその頭を優しくなでた。


「悪かったな。気を遣わせるつもりはねぇんだ。どうせ大会が終われば、自然に収まる。」
「でも……」


「大丈夫だって。おれは別に、キー坊にイラついたわけじゃねぇぞ? 普段からいつも、そこの馬鹿隊長よりもよっぽどできた人間だと思ってるぜ。」
「まっ、ひどい言いよう。」


 すぐさまディアラントが横槍を入れる。
 途端に、ミゲルの表情が険しくなった。


「お前の場合、ほとんど確信犯だからムカつくんだよ。」
「オレは、何事も楽しくやりたいだけなのに……」
「だから余計に、性質たちが悪いんだっての。」


 何を言われてもけろっとしているディアラントに、ミゲルはやれやれとぼやきながら額に手をやる。
 しかしそんなミゲルの態度もまた、ディアラントにとっては柳に風といった様子であった。


「さて、と。じゃあ、そろそろ開会式も始まりますし、行きますか。」
「あ? もうそんな時間か…?」


「そうですよー。ターニャ様だってもう会場に向かったのに、オレたちだけ、ずっとここで油売ってましたね。」
「そう考えると、いいご身分だな。」


「まあまあ。ヒーローは、遅れてやってくるもんですよ。」
「何をぬけぬけと。」


 ディアラントとミゲルは、気の抜けた会話を交わしながら部屋を出ていく。


「ふふ。本当に、仲がいいんだから。」


 二人の後にキリハと一緒に続き、ジョーは穏やかな表情でそう言った。


「いっつもあんな感じだけど、あの二人って、すごくお互いのことを信頼し合ってるんだよね。人間嫌いだったあのミゲルをここまで変えたんだから、ディアはすごいよ。」


 あのミゲルが人間嫌い?


 キリハは、ジョーの言葉に少し驚いてしまう。


 自分の中でミゲルは、豪快で頼りがいのある兄貴気質という印象だった。
 誰に対しても変わらない態度で接する、親しみやすい人柄ではないか。


 しかしジョーとミゲルは、中学生の頃からの付き合いだと聞いた。
 そんなジョーが言うのだから、きっとそれは事実なのだろう。


 キリハは前を行くディアラントたちを見つめる。


 ディアラントが軽口を叩き、ミゲルが鉄拳を与えるという光景。
 いつもの何気ない日常だが、そんな風景からも、二人の間に強い絆があることは伝わってきていた。


 大会に関しても、ミゲルは誰よりもディアラントの身を案じていたし、ディアラントがあの狩人かりゅうどのような顔を見せたのも、ミゲルの前でだけだった。


 互いのことを一番に信じている。
 だからこそ、あの二人の間には一切の遠慮がない。
 きっと、そういうことなのだろう。


(きっと、大丈夫。)


 キリハは淡く微笑む。


 これから大会が始まる。
 何が起こるのかは想像もできない。


 この長い間、たくさんの光景を目にしてきた。
 たくさんの人と触れ合い、たくさんの感情を味わった。
 怒濤どとうの勢いで過ぎ去った時間の中で、色んなことがあったけど、それでも最後には笑えた。


 それはディアラントと、彼を支えているドラゴン殲滅部隊の皆が、揺るぎない絆を見せてくれたから。
 自分の判断が正しいのだと安心させてくれるほどに、皆がまっすぐに前を向いているからだ。


 だから、この先も大丈夫。
 どんなことが起こっても、ディアラントはその困難を超えていくだろう。


 ディアラントへの一番の気遣いは、思い切り背を預けてやること。
 ならば、自分も遠慮しないことにしよう。


 キリハは微笑み、自分の腰にかかる《焔乱舞》にそっと手を添えた。

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