竜焔の騎士

時雨青葉

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第5章 動くそれぞれ

人間とドラゴンの大きな違い

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 いざ話すとなると、途端に緊張する。
 どきどきと脈打つ鼓動を感じながら、キリハはレティシアに訊ねた。


「レティシアは、戦争のことを怒ってないの?」
「こう言ってはあれだけど、怒る理由がないのよね。」


 やはり、人間とドラゴンの価値観は相当違うのだろう。
 レティシアの口から語られる言葉は、自分の想像にはないものばかりだった。


「なんか派手に争ってるなぁとは思ったけど、どうでもよかったわね。争いがヒートアップして誰かが死んだなんてよくある話だし、その延長線だろうくらいにしか。」


「へ、へぇ……」


「人間から離れておけば火の粉は飛んでこないから、私みたいな立場のドラゴンは、みーんな安全圏に逃げてのんびりとしてたわよ? まあ、真っ向からの否定派は、意気揚々と戦争に勤しんでたけどね。」


「一緒に人間を滅ぼせって言われたりしなかったの?」


「そこが、人間とドラゴンの圧倒的な考え方の違いかしらね。」


 自分もひしひしと感じていた価値観の違いについて、ここでレティシアからの言及が入った。


「前にも言ったけど、私たちには人間ほどの協調性も社会性もないのよ。意見が割れたらそれまで。意見が合えば協力するし、意見が食い違えばお互いに手を引く。それが私たちの基本的な考え方なの。」


「なるほど。そうなんだ……」


「だからあの時、リュード様は行き過ぎた行為を牽制しながら、中立的な立場で和解を願うしかなかった。ユアンもドラゴンの価値観を十分に理解していたから、私に協力してくれとは言わなかった。私がレクトの行いを知ったのは、リュード様が同胞たちと眠る寸前のことだったわ。」


「なんか……こうして話を聞くと、レクトは俺と一緒で変わり者だったのかもね。」


 あっさりとして終わる関係が普通の中、リュドルフリアとの絆にこだわったレクト。
 竜使いへの差別やドラゴンへの忌避きひが普通の中、分け隔てない関係を築こうとする自分。


 そこには、普通に流されるのを拒んだという共通点があるように思えた。


「あんたとレクトじゃ、根本的なものが違うと思うけどね。」
「え…?」
「いえ、別に。」


 どういう意味か聞きたかったのだが、そこはレティシアにさらっと流されてしまった。


「レクトが普通の考え方を貫けなかったのは、それだけリュード様に依存しちゃってたからでしょうね。元々私たちは単独行動が基本なわけだし、別に遠巻きにされるくらい、多少煙たいだけでどうってことないはずなんだけど……レクトは、何が嫌だったのかしらねぇ…? 遠巻きにされても平気だった私には、いまひとつピンとこないわ。」


「……そっか。」


 人間とは違いすぎるドラゴンの感性だ。
 大切な相手に依存したくなる気持ちは、人間である自分だから共感できるのかもしれない。


 そしてきっと、かつてのユアンもまた、レクトの気持ちを理解していた。
 単独でいることに慣れていたリュドルフリアも、ユアンとの触れ合いを通してその気持ちを知った。


 だから二人は、レクトを見捨てないように必死になったと思う。
 その努力は、三百年前はレクトに届かなかったけれど。


「………」


 過去に思いを馳せるキリハは、深く懊悩する。


 ドラゴンの世界には、生死に関する罪悪がない。


 そんな世界にいるリュドルフリアが、封印をかけてまで戦争を止めてくれたのは、それだけ彼が人間を大切に思っていたから。


 それだけの絆を、ユアンが作っていたからなのだろう。


 だけど今、そのリュドルフリアは生死不明。
 ユアンも昔の想いが裏返って、レクトを強く敵視している。




 レクトを受け入れようとする存在がいない今、彼がまた戦争を起こそうとしたら……その時は、誰が彼を止められるのだろうか。




「……ねぇ、キリハ。」


 ふと、レティシアが呼んでくる。
 それに返事をする余裕はなかったが、彼女は気にせずに先を続けた。


「私は別に、レクトに歩み寄れとも、レクトから離れろとも言わないわ。私が三百年前にレクトが具体的に何をしたのかまでは知らないってのもあるけど、あんたの人生だもの。あんたが好きなように選択していいと思うわ。ただ……」


 まるで母親のように。
 レティシアの声が柔らかく響く。


「あの博愛主義で甘っちょろいユアンが、あそこまで警戒するのよ。そこにはきっと、あいつが本来の価値観を捨てざるを得ない何かがあったんでしょう。今度、もう少し話を聞いてあげなさい。表には出さないけど、ユアンも相当落ち込んでるみたいだから。」


 そんなこと、言われずとも分かっている。
 自分と話す時はもちもん、他の人と話す時だって、今のユアンには覇気がない。
 自分のことでかなり悩んでいるのは明らかだ。


「……うん。」


 ひとまずそう答えはしたものの、ユアンと面と向かって話をする勇気は、今はまだ出なかった。

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