竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
363 / 598
第5章 動くそれぞれ

呼び出し先に現れたのは―――

しおりを挟む
 次の休みの日。
 キリハは、宮殿の最寄り駅から程近い広場に訪れていた。


 写真の裏に書いてあったメッセージで指定されたのは、ここの時計台。
 おそらくはここで、気味が悪いこの手紙の件に何かしらの進展があるはずだ。


「………」


 時計台近くの木陰で息をひそめ、キリハはそこにいる人々を睨みつけるような眼差しで観察する。
 指定の時間はとうに過ぎたが、あえて時計台には近づかない。


 犯人がシアノを待っているのだとしたら、この場に子供を気にして視線をやたらと下の方に向ける人物がいるはずだ。


 そういう人物を見つけたら、気配を殺して近づき、まずは身柄を確保。
 武器を隠し持っている可能性もあるので、とにかく身動きを封じることを優先しろ。


 先んじて、レクトに受けた助言である。


 心底肝を冷やしたが、手紙の送り主と会える機会が巡ってきたなら万々歳。
 日頃の恨みをぶつけつつ、じっくりたっぷり話を聞こうじゃないか。


 人々の些細な挙動すらも見のがさないように、神経を尖らせる。
 衝撃は、予想外の方向からやってきた。


「キリハ兄ちゃん!」


 後ろから、ぽんと背中を叩かれる。


「メイア……レイ…?」


 振り返った先にいた二人に、キリハは目を丸くした。


 レイミヤの孤児院で暮らす二人。
 中学生になった去年から外出制限が緩和された二人は、先に申請さえ出しておけば、交通機関を使った遠出もできる。


 自分がいなくてもカミルと遊べるようになったと喜んでいた二人がここにいても、何らおかしいことはないのだけど……


「こんなところで、どうしたの…?」


 この、得もいわれぬ違和感はなんだろう。


「キリハ兄ちゃんったら、何言ってんの?」


 メイアとレイは、二人揃って不思議そうな顔をした。
 彼らがここに来たわけは―――




「キリハ兄ちゃんが呼んだんでしょ? そろそろカミルの誕生日だから、一緒にプレゼントを買いに行こうって。」




 自分の中では、一番ありえない理由だった。


「あれ!? 俺、そんな連絡したっけ!?」
「したよー。」


 メイアが携帯電話の画面を見せてくる。
 そこには確かに、自分から二人に宛てたメールがあった。


 だけど……




(知らない……俺、そんな連絡してないよ……)




 唇を戦慄わななかせ、キリハは自身も携帯電話を取り出す。


 自分には、彼らにメールを送った記憶はない。
 最近はそれどころじゃなくて、そこまで気が回る状況じゃなかったもの。


 その証拠に、確認した携帯電話には二人への送信履歴なんてなかった。


 十中八九、これは犯人の罠だ。
 シアノの代わりに自分が乗り込んでくることを分かっていて、あえてこの二人を呼び出したのだろう。


(どうしよう……このままじゃ、みんなが危ない…っ)


 こんなでたらめを信じるなと言いたいところだが、正直なところ、自分でもまんまと誘い出されると思う。


 現実として、カミルの誕生日は再来週だ。
 去年も二人を連れてプレゼントを買いに行った。


 理由も時期もごく自然。
 そんな呼び出しが自分のアドレスから届いたら、どこをどう疑えというのだ。


 もしも、またこんな風に誰かが呼び出されたら。
 自分がそれを知らなかったら。




 その時、その人は―――……




「キリハ。動揺する気持ちは分かるが、ここはこらえろ。」


 脳裏で響く、冷静で落ち着いた声。
 それにすがらずにはいられなかった。


(で、でも…っ)


「ここで馬鹿正直に自分のメッセージじゃないと言ったとして、こいつらにどう事情を説明するのだ? 子供の口に戸は立てられん。下手すれば、お前が誰かにつきまとわれていることが一瞬で広まるぞ。」


(………っ!?)


「いいか、冷静になれ。これは試されているのだ。お前に死ぬ気で口を閉ざす気があるのか否か。」


(ここで、メイアたちに気付かれたら…?)


「なんとも言えんが……周りに言われる前に、口封じされる可能性は否めない。」


 口封じ。
 その単語に、全身から血の気が引いていくようだった。


「………っ」


 震えそうになる体を叱咤し、一度瞑目。
 そして―――




「ごめん。約束、来週だと思ってた。」




 気力という気力を掻き集め、今できる精一杯の笑顔をたたえた。


「ええーっ!」


「ほんっとにごめん! よくメール見たら、確かに今日だったね。たまたま別の用事でここに来ててよかったよ。じゃなかったら、二人を何時間も待たせるところだった。」


「そしたらおれたちも、キリハ兄ちゃんに鬼電するところだったよ。」


「だからごめんってば! お詫びに、今日のお昼ご飯は何食べてもいいから!」


「本当!?」


 食事に釣られて、途端に輝くメイアとレイの顔。


 ある意味、ここに呼び出されたのがこの二人でよかった。
 もしも相手がルカやジョーだったら、こんな簡単に言いくるめはできない。
 動揺を見抜かれて、質問攻めにされたはずだ。


(なんで、こんなことを…。用があるなら、直接かかってきてよ…っ)


 メイアとレイの背中を押して移動する裏で、心は悔しさとも怒りともつかない感情で揺れていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...