竜焔の騎士

時雨青葉

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第4章 それぞれが深みへ……

再びの暴走

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 夜のとばりに沈んでいた宮殿に鳴り響いたのは、火災報知器が作動した警報音。
 それに、誰もが慌てて飛び起きることになった。


「なんだ!? どうした!?」
「いや、火事ですって! さっきからアナウンスが言ってるじゃないですか!!」


 ほとんど同時に部屋から出たディアラントとミゲルは、互いに焦りをぶつけ合う。


「ミゲル先輩! とりあえず下に行って、女性たちの避難を誘導してください!」
「おうよ!」


「男どもは勝手に避難しろーっ!!」
「ぞんざい!!」


 このフロアにいるのはドラゴン殲滅部隊の面々なのでテキトーに指示を出すと、他の皆はそんな文句を叩きつけてから、迅速な避難を始めた。


「おっと、電話だ。」


 染み着いた癖で手に持っていた携帯電話が震えたので、ディアラントは相手を確認しないまま、とりあえず電話に出る。


「ディアラント、まずい。」


 電話の相手は、本当に珍しい人だった。


「ランドルフ上官、どうして……こんな堂々と電話しちゃ……」
「今はそんなことを言っている場合じゃないんだ…っ」


 珍しい相手が、珍しく焦っている。
 これは、明日は槍でも降るのか。


 火事の知らせが鳴り響いているにも関わらず、暢気のんきな感想を抱いてしまうディアラント。
 しかし、この暢気のんきさも数秒で終わる。


「ジョーがいない以上、私が直接連絡するしかなかったんだ。よく聞きなさい。」


 そう前置きしたランドルフは、こう告げる。


「火の元は、キリハ君の病室だ。」
「なっ…!?」


 一瞬で意識が凍る。
 ランドルフは深刻さを滲ませた声音で続けた。


「嫌な予感がするから、今は別の棟のスプリンクラーをあえて回してごまかしているけど……まさかとは思うが、キリハ君の病室に《焔乱舞》が置きっぱなしなんてことにはなってないだろうね?」


「―――っ!!」


 しまった。


 脳裏に浮かんだ言葉は、それだけ。
 予感が的中してしまったランドルフが声を荒げる。


「早く行きなさい!! キリハ君が《焔乱舞》を暴走させるなんて総督部に知られたら、救国の剣は一瞬で破滅の剣にされるぞ!? 愛する人がどうなってもいいのか!?」


「分かってますよ!!」


 ランドルフの声に急かされ、ディアラントは力強く床を蹴って走り出した。




「うわああああっ!!」




 医療・研究部の建物に入るや否や響いてくる、キリハの叫び声。
 最悪の事態が起こってしまったのは、間違いなかった。


「キリハさん! どうか落ち着いて!!」
「どいてください!!」


 懸命に呼びかける看護師を押しのけたディアラントは、思わず足を止めて息を飲む。




 ―――赤。




 病室のすりガラスの向こうが、揺らめく赤で満たされていた。


「………っ」


 ディアラントは奥歯を噛み締める。


 大丈夫。
 大丈夫なはずだ。


 これまで《焔乱舞》は、ドラゴンしか焼き尽くしてこなかった。
 植物や建物を多少焦がすことはあっても、燃やすことはなかった。


 まだ間に合う。
 間に合ってくれ。


「キリハ! オレだ! 分かるか!?」


 扉を何度も叩いて、中のキリハに呼びかける。
 しかし。


「来ないで…っ」


 キリハからの返答は拒絶。


「誰も来ないで…。来ないで…っ。……来るなああぁぁっ!!」


 さらなる絶叫がほとばしり、炎の勢いが増す。


「………っ」


 一気に扉が熱くなって、ディアラントも看護師たちもそこから離れざるを得なくなる。


「これは…っ」
「ディア!!」


 うめいたところに、救いのような声。


「フール!!」


 すがるような思いで、ターニャと共に駆けつけてきたフールを呼んだ。


「この件、外には……」


「大丈夫、まだ漏れてない! 夜中で人が少ないし、ある意味火事騒ぎで助かったっていうか……みんな、避難することに夢中でこっちには気がいってないから。」


「そうか…。でも……」


「ああ。それも、時間の問題だ。ランドルフとミゲルたちが必死に人払いをかけてるけど、誰かに窓からでも炎を見られたら、かなり言い訳に苦しむことになる。」


「くそ…っ」


 ここでも、部隊随一の頭脳がいないことがかなりのダメージとなる。


 ランドルフは敵対、ケンゼルは中立である以上、露骨にこちらへと介入できない。


 これだけの大事おおごとも、ジョーの情報スキルと交渉という名の脅しがあれば、簡単に揉み消せたというのに。


「とにかく、キリハを落ち着けるのが先決だけど…っ」


 正直なところ、それが一番の難題。


 外部の介入を拒絶するように熱くなった扉から、とんでもない熱風が吹いてくる。
 とてもではないが、近寄れる状態じゃない。




「―――この際、四の五の言ってる場合じゃないね。」




 すっと声を落として呟くフール。
 次の瞬間に彼は、ディアラントの胸に背中から思い切りアタックをかました。


「はっ!?」


「ちょっと入れ物を預かってて! 僕が行ってくる!!」


「行ってくるって!? どうやって!?」


「中身だけで行ってくるって意味だよ!! よくよく考えたら、ルカがしれっと僕の正体を爆散してたなって思ってさ!! もう隠す意味もないでしょ!?」


「―――っ!!」


 その言葉に、ディアラントとターニャが大きく目を見開く。


「大丈夫。絶対に助けてくるよ。可愛い子供たちを守るのが、先祖の役目ってやつだからね。」




 フール―――ユアンは自信に満ちた口調で断言して、人形の体をかなぐり捨てた。



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