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第4章 それぞれが深みへ……
この炎は―――
しおりを挟む―――目なんて、覚めなければよかった。
何度も、何度もそう思った。
あれから、嫌な思考が頭を離れない。
胸がざわついて、息が乱れて、夜になっても眠れない。
(あの人が……殺したの…?)
嘘だって、何かの間違いだって思いたい。
だけど、何も証拠がない。
本当だって証拠も。
嘘だって証拠も。
「………っ」
必死に、後ろ髪の束を握る。
昔からいつも、凍えそうな自分の心を繋ぎ止めてくれたこの後ろ髪。
だけど今は、こんな行為程度ではどこかに落ちていく心を止められない。
「父さん……母さん…っ」
ねぇ……
二人なら、答えを知ってるんでしょ?
お願い。
違うなら違うと言って。
そうじゃないと、俺は……
―――カタン
静寂に満ちた病室に響く、小さな音。
出口のない猜疑心から逃げたかった意識が、その音の出所を探した。
ベッドのすぐ側。
チェストにもたれかかるようにして、この二年を共に駆け抜けてきた相棒がそこにいる。
「………」
特に意味もなく、それの鞘を掴んで引き寄せる。
(どうして、こんなところに焔が……)
もしかしたら、生きて帰ってくることはできないかもしれない。
そう思って、《焔乱舞》は部屋に置いていった。
自分が一生戻らなくなった時、早く次の主人を見つけられたらいいなと思って。
(俺がいつまでも起きなかったら……また、焔と一緒に呼びかけるつもりだったのかな…?)
なんだか、むなしい気分だ。
以前に生死の境をさまよった時は、迎えに来てくれた《焔乱舞》とフールの声に、喜んで手を伸ばしたのに。
今は、その闇に戻りたくて仕方ない。
こんな生き地獄に叩き落とされるくらいなら、あの時に死んでしまっていたかった……なんて。
そう思ってしまう自分がいる。
(背負うって約束したのに、ごめんね…。今は少し……休ませて……)
《焔乱舞》を抱き寄せて、そっと目を閉じる。
トクトクと。
微かな脈動を感じる。
チリチリと。
頬をなでる炎の暖かさに、少しだけほっとする。
(気持ちいい……)
命を屠ることがつらくて、何度も投げ出したくなったドラゴン討伐。
それを乗り越えてこられたのは、周りの人たちが強く支えてくれたのもあるけれど、《焔乱舞》が共にあったのも大きい。
神竜リュドルフリアの炎は、裁きと浄化の炎。
始めにそう説明を受けたとおりで、彼の分身たる《焔乱舞》から放たれる炎は、身にまとっていてとても心地よいのだ。
レティシアから使い方のコツを教わってからは、この独特の癖に振り回されることもなくなった。
むしろ、ピッタリと吸いつき合って離れない磁石のように、この剣が自分にも合わせてくれるようになった気がする。
(裁き……裁きかぁ……)
ぽかぽか。
ゆらゆら。
微睡みの中を、意識が揺蕩う。
(ドラゴンにとっての裁きは、この炎……じゃあ、人間は…?)
チリチリ。
体の奥が熱くなる。
(どうせ、あの人の罪は裁判所で裁かれる……でも、それで足りる?)
めらめら。
脳裏で、赤が揺れる。
(たくさんの人が殺された。その人たちの気持ちは……家族の気持ちは………俺の気持ちはどうなるの?)
ゴウゴウ。
赤の内側で、黒が鎌首をもたげる。
(この炎は―――人間を裁いちゃいけないの?)
ぶわり、と。
胸の奥にある泉から、何かがあふれて―――
「―――っ!!」
ハッと。
キリハはそこで目を見開く。
「あ……ああ…っ」
慌てて飛び起きた目の前に広がっていた光景。
それに、全身が凍りつきそうになる。
「だめ……だめ…っ」
どうにかしなきゃと思うのに、止まらない。
止められない。
―――――止めようと思えない。
「う……あ……」
深くうつむいて、両手で髪を掻きむしるキリハ。
「あああああっ!!」
その口腔から、全ての音という音を掻き消すような絶叫が轟いた。
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