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第6章 復讐の道
天才の報復
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泣いて助けを求めた僕に、兄が向けた楽しそうな笑顔。
初めて見るその顔は、意識を真っ白に飛ばして涙を止めるには十分だった。
それだけのショックを受けたからなのか、それは分からない。
あの時の僕は、何をどう感じたのかすら認識できなかったから……
「―――やれ。」
僕を抱えていた男がそう言ったのは、その時のこと。
それと同時に、兄の側に高く積まれていた荷物が大きく傾いた。
雨のように降り注ぐ荷物たち。
兄の姿は、あっという間にその荷物と砂埃の中に消えた。
「お兄ちゃん…?」
何が起こったのか分からず、ただ呟くしかない。
荷物の隙間から覗く、小さな手。
そこから広がっていく赤い色。
「お兄ちゃん…? お兄ちゃん!!」
とっさに近寄ろうとしたけど、すでに男に抱えられている状態の僕は、手を伸ばすので精一杯。
その視界も、上から布袋を被せられたことで真っ暗に染まってしまう。
「さっさと出るぞ! ソレはちゃんと処理しておけ!」
今思えば、残虐非道な言葉。
当然あの時の僕には、その意味なんて分からなかったけれど。
「ふえぇ……お兄ちゃああん!!」
そんな僕の叫び声は、暗い船室の奥に閉じ込められた。
「可哀想になぁ…。大好きな兄ちゃんに騙されて、捨てられちまうなんてよ。」
船の中で、あいつらは僕に教えてくれた。
兄が僕を嫌っていたこと。
あんな弟なんていらないからお前らにやると、自ら彼らを手引きしたということを。
「大丈夫。オレたちは、お前をとことん可愛がってやる。大好きなお薬だって、好きなだけ作らせてやる。あんな最低な兄貴がいた国なんて、一緒に叩き潰してやろうぜ?」
おそらくは、洗脳の一種だろう。
何度も、何度も。
連れ去る時の乱暴さが嘘だったような、優しく甘い声で。
あいつらは、僕を黒く染めるために語りかけてきた。
そして僕も、そんな日々を過ごすうちに、確実に光を失っていった。
泣くことも抵抗することもやめて、ただ頷くだけになった僕に、あいつらは勝ったと思っただろう。
だからあいつらは、所詮凡人なんだ。
だって……―――僕が天才であることの意味を、ちゃんとは分かっていなかったんだから。
「よう。調子はどうよ?」
どこかの実験室に押し込まれて数日。
いつものように、あいつが様子を見に来る。
「まあ、それなりに慣れたかなぁ。」
ビーカーの中で撹拌器を回しておき、僕はそっけなく答える。
「ところでさ、毒を作るのはいいんだけど……具体的には、どんな毒がいいわけ?」
これまで僕がテキトーに遊んでばかりだったので、相当やきもきしていたのだろう。
僕の質問を聞いたあいつは、馬鹿みたいにテンションを上げた。
「そうだな! 手間がかからないガスがいい! 無味無臭で、刺激もなくて、気付いたら立てなくなってるような―――」
まさに、今の発言を体現するように。
僕の後ろで、あいつがどさりと倒れる。
「それってたとえば……―――こんな毒?」
無様に這いつくばるあいつに、僕はにっこりと笑いかけてやった。
「なっ…!?」
まさか、僕がすでに毒を完成させているなんて思ってもいなかったのだろう。
自分が毒に侵されていると知ったあいつは、面白いくらいに顔を青くした。
「てめ…っ。おい! 誰か来い! このガキを締め上げろ!!」
そいつがドアに向かって叫ぶ。
でも、部屋に飛び込んでいる奴はいなかった。
「誰も来ないねぇ…。来るわけないよ。とっくにガスが建物中に充満してて、みんながあんたみたいに倒れてるだろうから。」
「………っ」
「じゃあ、なーんで僕は平気なんだろうね?」
先ほどから放置していたビーカーを取り上げ、それを見せつけるように頬の傍に掲げる。
「自分の毒で死ぬなんて馬鹿じゃん? ちゃーんと解毒薬も作るって。」
その効果は、僕だけが動ける事実が証明している。
それ故に、あいつはすぐさまこちらに手を伸ばしてきた。
「くそ、寄越しやがれ…っ」
「あれー? まだ自分の立場が分かってないのー?」
ひょいっとテーブルに腰かけて、高いところからあいつを見下ろしてやる。
僕が上で、お前が下だと。
そう示すように。
「今この建物に、僕以外に動ける人はいない。外から入ってきた人も、ここに辿り着く前に毒にやられて動けなくなる。なら……誰がこの解毒薬を飲ませてあげられるのかなぁ?」
ちょっとした悪戯心で、ビーカーの解毒薬を半分くらい飲んでやってみる。
すると。
「た……助けて…。助けてくれ!!」
今までの大きな態度はどこへ消えたのか。
あいつは、半泣きで頼み込んできた。
本当に馬鹿な凡人たち。
ここまで丁寧に言ってあげないと、何もかも分からないなんて。
多少すっきりとした僕は、机から床に降りることにする。
解毒薬を持ってあいつに近づいて―――そのまま、隣をすり抜けてやった。
「さぁて……あと三十分かな? 一時間かな? 初めて作った毒だから、死ぬまでの時間が分からないんだよねぇ。」
「………っ」
「僕を怒らせるのがいけないんだよ? 警察が来るまで、生きていられればいいね?」
「ひいぃ…っ」
情けない悲鳴をあげるあいつを放置して、僕は実験室を出ていくのだった。
初めて見るその顔は、意識を真っ白に飛ばして涙を止めるには十分だった。
それだけのショックを受けたからなのか、それは分からない。
あの時の僕は、何をどう感じたのかすら認識できなかったから……
「―――やれ。」
僕を抱えていた男がそう言ったのは、その時のこと。
それと同時に、兄の側に高く積まれていた荷物が大きく傾いた。
雨のように降り注ぐ荷物たち。
兄の姿は、あっという間にその荷物と砂埃の中に消えた。
「お兄ちゃん…?」
何が起こったのか分からず、ただ呟くしかない。
荷物の隙間から覗く、小さな手。
そこから広がっていく赤い色。
「お兄ちゃん…? お兄ちゃん!!」
とっさに近寄ろうとしたけど、すでに男に抱えられている状態の僕は、手を伸ばすので精一杯。
その視界も、上から布袋を被せられたことで真っ暗に染まってしまう。
「さっさと出るぞ! ソレはちゃんと処理しておけ!」
今思えば、残虐非道な言葉。
当然あの時の僕には、その意味なんて分からなかったけれど。
「ふえぇ……お兄ちゃああん!!」
そんな僕の叫び声は、暗い船室の奥に閉じ込められた。
「可哀想になぁ…。大好きな兄ちゃんに騙されて、捨てられちまうなんてよ。」
船の中で、あいつらは僕に教えてくれた。
兄が僕を嫌っていたこと。
あんな弟なんていらないからお前らにやると、自ら彼らを手引きしたということを。
「大丈夫。オレたちは、お前をとことん可愛がってやる。大好きなお薬だって、好きなだけ作らせてやる。あんな最低な兄貴がいた国なんて、一緒に叩き潰してやろうぜ?」
おそらくは、洗脳の一種だろう。
何度も、何度も。
連れ去る時の乱暴さが嘘だったような、優しく甘い声で。
あいつらは、僕を黒く染めるために語りかけてきた。
そして僕も、そんな日々を過ごすうちに、確実に光を失っていった。
泣くことも抵抗することもやめて、ただ頷くだけになった僕に、あいつらは勝ったと思っただろう。
だからあいつらは、所詮凡人なんだ。
だって……―――僕が天才であることの意味を、ちゃんとは分かっていなかったんだから。
「よう。調子はどうよ?」
どこかの実験室に押し込まれて数日。
いつものように、あいつが様子を見に来る。
「まあ、それなりに慣れたかなぁ。」
ビーカーの中で撹拌器を回しておき、僕はそっけなく答える。
「ところでさ、毒を作るのはいいんだけど……具体的には、どんな毒がいいわけ?」
これまで僕がテキトーに遊んでばかりだったので、相当やきもきしていたのだろう。
僕の質問を聞いたあいつは、馬鹿みたいにテンションを上げた。
「そうだな! 手間がかからないガスがいい! 無味無臭で、刺激もなくて、気付いたら立てなくなってるような―――」
まさに、今の発言を体現するように。
僕の後ろで、あいつがどさりと倒れる。
「それってたとえば……―――こんな毒?」
無様に這いつくばるあいつに、僕はにっこりと笑いかけてやった。
「なっ…!?」
まさか、僕がすでに毒を完成させているなんて思ってもいなかったのだろう。
自分が毒に侵されていると知ったあいつは、面白いくらいに顔を青くした。
「てめ…っ。おい! 誰か来い! このガキを締め上げろ!!」
そいつがドアに向かって叫ぶ。
でも、部屋に飛び込んでいる奴はいなかった。
「誰も来ないねぇ…。来るわけないよ。とっくにガスが建物中に充満してて、みんながあんたみたいに倒れてるだろうから。」
「………っ」
「じゃあ、なーんで僕は平気なんだろうね?」
先ほどから放置していたビーカーを取り上げ、それを見せつけるように頬の傍に掲げる。
「自分の毒で死ぬなんて馬鹿じゃん? ちゃーんと解毒薬も作るって。」
その効果は、僕だけが動ける事実が証明している。
それ故に、あいつはすぐさまこちらに手を伸ばしてきた。
「くそ、寄越しやがれ…っ」
「あれー? まだ自分の立場が分かってないのー?」
ひょいっとテーブルに腰かけて、高いところからあいつを見下ろしてやる。
僕が上で、お前が下だと。
そう示すように。
「今この建物に、僕以外に動ける人はいない。外から入ってきた人も、ここに辿り着く前に毒にやられて動けなくなる。なら……誰がこの解毒薬を飲ませてあげられるのかなぁ?」
ちょっとした悪戯心で、ビーカーの解毒薬を半分くらい飲んでやってみる。
すると。
「た……助けて…。助けてくれ!!」
今までの大きな態度はどこへ消えたのか。
あいつは、半泣きで頼み込んできた。
本当に馬鹿な凡人たち。
ここまで丁寧に言ってあげないと、何もかも分からないなんて。
多少すっきりとした僕は、机から床に降りることにする。
解毒薬を持ってあいつに近づいて―――そのまま、隣をすり抜けてやった。
「さぁて……あと三十分かな? 一時間かな? 初めて作った毒だから、死ぬまでの時間が分からないんだよねぇ。」
「………っ」
「僕を怒らせるのがいけないんだよ? 警察が来るまで、生きていられればいいね?」
「ひいぃ…っ」
情けない悲鳴をあげるあいつを放置して、僕は実験室を出ていくのだった。
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