竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
476 / 598
第4章 絶望から希望へ

抱き合う人々

しおりを挟む
 安堵と感激の涙を流すキリハ。
 そんなキリハの背中をなでながら、ジョーは別の方向に目をやった。


「ターニャ様。」


 この場を収める最高責任者を呼んだ彼は、好戦的な笑みを浮かべて口を開く。


「ご覧のとおりです。審問会、堂々と受けて立ってやりましょうよ。この後すぐに、経過観察記録をまとめます。審問会の解説は、オークスさんがどうにかしてくれるでしょ。」


「アルシードさん……」


「何もお知らせしていなくて、申し訳ありません。ですが、よく言うでしょう? 敵を騙すには、まず味方からだと。」


 周囲の目など知らないと言わんばかりの、悪魔スマイル。
 そこにいる彼は、すっかりいつもの調子を取り戻しているようだった。


「僕がこんなことをしていると知れば、総督部は真っ先に僕を妨害してきたでしょう。まさか僕が、もう一度白衣に袖を通すわけがない……つけ入る隙は、十五年で作り上げたこの思い込みしかなかったんです。おかげで、楽に隠れられましたよ?」


 そう告げた彼は総督部の連中を思い浮かべてか、さげすみを込めて鼻を鳴らす。


「いやー、笑っちゃいますよ。白衣姿で夜中だけここに来るようにすれば、簡単に僕がこの件に関わる気がないって思ってくれるんですから。完全にノーマークだなんて、ターニャ様やディアたちを潰しながら、グレーゾーンの僕は引き抜いていこうって魂胆が丸見えなんですよ。僕がドラゴン管理の責任者だってこと、忘れてるのかな?」


「よ・く・言・う・なー?」


 その時、ジョーの傍にオークスが仁王立ちになる。
 彼はジョーの頭に拳を乗せると、問答無用でそこに力を込めた。


「君が好き勝手に動く分、僕とケンゼルがどんだけ手を回したと思ってる…っ。また倒れたらたまらんと、ロンドだってひやひやしながら待機してたんだぞ?」


「あてててて…。じゃあ、どうして文句も言わずにかくまわせてくれたんです?」


「当たり前だろう。ようやく光を見てくれた孫を、支えないじじいはおらん。」


「光、ね……」


 その単語をなぞるジョーは、少しばかり複雑そう。
 そんな彼にディアラントを連れて近づいたターニャが、彼の前にゆっくりと膝を折る。


「ありがとうございます…っ。もう、なんとお礼を言ったらいいのか…っ」
「お礼なんていいんですよ。そういう契約ですから。」


 開口一番の回答は、ひねくれ一色。
 しかし次に、ジョーは困ったような微笑みを浮かべた。


「キリハ君にロイリアを殺したなんて言いたくない、なんて……相変わらず、あなたは優しすぎる方ですね。表で冷徹に害悪を切り捨てては、裏でそれを気に病んでばかり。ランドルフ上官や僕がいなかったら、どうやって総督部と戦う気だったんです? ……そういうところ、お父様にそっくりですよ。」


「え…?」


 そう言われたターニャは、目をまんまるにする。


「父のことを、覚えているのですか?」


「ええ、もちろん。十五年前に宮殿で暮らしていた時、ほぼ毎日顔を合わせていましたから。気持ち悪いから優しくするなって、何回言ったかな…? 子供には子供をってことで、何度か僕をあなたに会わせようとしてきたんですけど、僕が娘さんをダークに染めてもいいならどうぞって言ったら、素直に引いていきましたよ。」


「ふふ…っ」


 ジョーの明け透けない物言いに、思わず笑ってしまうターニャ。
 その双眸が、瞬く間に涙で潤む。


「………っ」
「なっ!?」


 目をしばたたかせるジョーと、濁った悲鳴をあげるディアラント。


 無理もない。
 感極まったターニャが、ジョーの首に腕を回して抱きついたのだから。


「そのお話、後でまたゆっくりと聞かせてください。私、学校に行ったこともなくて……あれこれ相談できる友人も、父の話ができる友人も、あなたしかいないんです。」


「……僕の話でよければ、いくらでも。」


 何やら、とてつもなくいい雰囲気のお二人。
 当然、それを目の当たりにした恋人が冷静でいられるはずがない。


「ええぇ…っ。ターニャ……」
「ディア。無駄な勘ぐりはやめなさい。」


 おろおろとするディアラントに、ジョーは呆れた一瞥いちべつをくれてやる。


「ちゃんと〝友人〟って言ってたでしょ? 単に今まで、ダークな相談も含めて話せる相手が僕しかいなかったってだけさ。それに、無鉄砲で他人をハラハラさせるのが得意な恋人に関する相談なんざ、それこそ僕以外の誰にできるの?」


「あっ……あー……」


 心当たりが大ありらしい。
 ぎくりと肩を震わせたディアラントは、非常に気まずげな表情で明後日の方向を仰いだ。


 とりあえずディアラントを黙らせることに成功したジョーは、ふと息を吐いて肩を落とした。


「お礼なら、僕を上手く隠してくれたオークスさんとケンゼルさんと……彼女に言ってあげてください。」


 ジョーがとある一点を見つめる。
 彼の視線を追いかけた皆は、それぞれが驚きの表情を浮かべるしかなかった。


「サーシャ……」


 茫然としたキリハが、その名前を呼ぶ。


「サーシャちゃんがいなかったら、ロイリアを助けることはできなかったよ。」


 ジョーは語る。


「人の目が多い時間は表立って動けない僕の代わりに、僕が作った試験薬をロイリアに投与し続けてくれたんだ。寝る間も惜しんで、毎日欠かさずね。誰にも目をつけられていないから、目くらましにはかなり便利だったよ。おかげで、僕は試験薬の分析と改善に全力を尽くせたし、ロイリアの症状の進行もかなり抑えられた。まさにダークホース……もとい、最高の助手さ。」


 ジョーから贈られた、最大級の賛辞。
 それに、サーシャは照れくさそうにはにかんだ。


「お礼を言うのは、私の方です。私にチャンスをくれて、ありがとうございました。」
「おやおや…。散々こき使われたのにお礼だなんて、君も変わってるね。」


「ジョーさんほどじゃないと思いますけど。」
「どうも。褒め言葉として受け取っておくよ。」


 大きな仕事を終えた二人は、軽口を叩き合って笑う。


「サーシャ……危ないことはしないでって言ったのに……」


 キリハは眉を下げてサーシャを見つめる。


 包帯に包まれた両手。
 きっと投薬の時にロイリアが暴れて、怪我をしてしまったのだろう。


 ただでさえ怖がりなのに、一人でドラゴンと向かい合っていただなんて……


 かなりの罪悪感。
 思わず表情を曇らせたキリハの傍に、サーシャは笑顔で寄り添った。


「ねぇ、キリハ。私は、あなたの助けになれたかな?」


 こちらの手を取って、彼女はそう問いかけてくる。
 答えなんか決まっている。


「当たり前じゃん。これ以上なんてないくらいに、助けてくれたよ。」
「そっか…。なら、それだけで十分! あなたが笑ってくれるなら、怖いのなんかへっちゃらなの。」


 満面の笑みで頬を染めるサーシャ。
 そんな彼女の笑顔がきらめいて、胸の奥から衝動が湧き上がってくる。


「―――っ」


 それをこらえることなんかできなくて、彼女の体を強く抱き寄せる。
 彼女がそれに応えて自分の背中に手を回すと、腕の中の温もりがより一層愛しく思えた。


 視線を絡ませた二人は、そのまま引き寄せられるように唇を重ねる。
 それを目撃した全員は、空気を読んで視線を逸らすのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...