世界の十字路

時雨青葉

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第2章 諍い

延長戦開始

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 そこにあった予想もしていなかった光景に、もはや出る言葉もない。
 ごくりと息を飲み下し、それを凝視する。




 ―――魂が、輝きを取り戻していたのだ。




 力の核という存在がない状態にもかかわらず、その魂は自分が魅入られた時の輝きを放っている。


 見る角度によって様々な光を発する不思議な色彩。


 見る者に妙に強い印象を与える、おぼろげではっきりとしない、けれども惹かれずにはいられない存在感。


 二度と見ることはできないと思っていた輝きが、かごの中でその存在を大いに主張していた。


 それを目の当たりにすると同時に、唐突に理解する。


 この魂の輝きは、魂に加えて実という存在があってこそ得られるもの。


 仮に力の核を奪ってこの魂を完全体に戻したとしても、実という人格が消えてしまえば、おそらくこの輝きは二度と見られない。


 自分が気に入った輝きを持続させるためには、この小憎たらしい人間の人格を生かしておかねばならないのだ。


 それを不快に思ったのも一瞬で、次にはその思いを改めた。


 いや。
 それならば、なおさらに面白いではないか。


「俺を殺したい? 殺したいなら殺せるよね? 実際のところ、俺の魂はあんたの手元にあるわけだし。」


 かごを持って固まる死神に、実は言う。


 ここまでの芸当を見せて生き延びた割には、その声は随分とあっさりとしたもの。
 暗に、自分の生死などどうでもいいと言っているようにも聞こえる。


 死神は顔を上げ、ゆっくり首を振る。
 実をとらえたその顔が、にやりと不気味な笑みに歪んだ。


「いや、誰がそんなもったいないことをするものか。」


 その言葉に、実がわずかながらに目をみはった。
 そんな実に、死神は告げる。


「必ず、この魂を完全なる姿に戻そう。そして、お主も死なせはせぬ。お主の人格も含め、永遠に私のものとなるのだ。お主は死ぬことも許されず、永久に私の元で私のために生きるだろう。」


 その言葉の意味を正確に理解したのだろう。
 実はそれを聞くと、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「それは……あまりいい趣味ではないな。」


 呟き、溜め息を漏らす実。


 頭が痛くなりそうだ。
 知らず知らずのうちに、自分の声が嫌そうに低くなっているのが分かる。


 つまりは、永遠この死神の虜囚りょしゅうになれというわけか。


 今までの死神の狩りは魂だけが目的だったので、魂の持ち主はどうでもよかった。
 故に魂の持ち主の人格は消滅し、魂は感情を持たないただの物体と化す。


 しかし今回に限って、死神は自分という人格も欲しいらしい。


 人格が消滅しないのなら、魂は感情を持った人間のままの輝きを呈する。
 きっと、彼はそう考えたのだろう。


 それが本当かどうかはともかく、死神は魂の入れ物である肉体のみを消し去り、その他全てを自分のものにするつもりなのだ。


(本当に悪趣味……)


 実は、ただ顔を歪めるしかない。


 どうせ、彼が自分の人格を生かしておきたい本当の理由は別にあるのだろう。
 その理由が手に取るように分かるのだから、余計に嫌になる。


 彼はこちらが肉体を有していた時に持っていた権利や自由を徹底的に奪い、なおかつその事実をこの人格に思い知らせたいのだ。


 魂も力の核も死神の手に落ちれば、自分や協力者だって何もできないだろう。


 死神に逆らうことは許されず、ただ彼のために生かされる傀儡かいらいと成り果てるのだ。


 死神はこちらの全てを自らの支配下に置いた上で、いっそのこと死んだ方がマシだと思うところまで追い詰めたいのだろう。


 殺してくれと懇願されるまで追い詰めて、それでも死を許さずに、永遠に続く生き地獄に叩き落とす。


 そうすることで、自分をここまで侮辱した相手に報復しようというわけだ。


 いや、神故の誇り高さがあるなら、これを制裁だとでも思っているかもしれない。


 まったく。
 我ながら、厄介な奴を相手にしたものだ。


 そんなこちらの反応に多少溜飲も下がったのか、死神からはちきれんばかりの殺気が消えた。


 ひとまず、彼にまだ引く気はないということだけは分かった。


 実はまた溜め息をつく。


「ゲームはまだ、終わらないわけか……」


 面倒といえば面倒だったが、力の核を切り離した魂に彼が興味をくしてくれると期待するほど楽観的な性格ではない。


 これは想定内の流れだ。
 想定外のことといえば、彼が自分の人格を殺さないと断言したことくらい。


「どうした? 私に逆らって命を繋いだことを、もう後悔でもしているのか?」


 口を真一文字に引き結んだ実の態度をそういう意味ととらえたのか、そう訊ねる死神の声には微かな愉悦が含まれていた。


 彼はすでに鎌を引っ込めている。
 宣言どおり、こちらを殺す気はないのだろう。


 実はわざとらしく肩をすくめてみせた。


「まさか。面倒とは思っても、後悔はしないさ。」
「そうか。……そうだな。そうでなくては面白みも欠けるというものだ。」


 死神はわらう。




 さあ、ここから再スタート。
 命を賭けたゲームの延長戦が、幕を開ける―――



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