世界の十字路

時雨青葉

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第4章 1日目

計画の立案者

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「あ、そうそう。オレが今話したことは、蓮君と隆文さんには内緒にしといて。」


 ふと何かを思い出したような顔で、尚希はそんなことを言ってきた。


「え……どうして?」
「敵をだますには、まず味方からってこと。」


 尚希は、悪戯いたずらっぽい微笑みでウインクを一つ。


 気持ち的には今すぐ蓮たちの元に行って協力を申し立てるつもりだったのだが、それでは作戦が成り立たないということだろうか。


 きっと、自分には推し量れない事情があるのだろう。
 そう了解した紫苑は、異を唱えずに頷いた。


 それにしても、なんという行動力だろう。
 昨日の今日でここまでの策を構築して、迅速に行動できるとは。


「この作戦は、あんたが考えたの?」


 少しの期待を込めて訊ねてみる。


「え? 違うよ。全部実。」


 尚希はあっさりと答えた。


「は…?」


 ガンッ、と。
 尚希に言われ、思い切り後頭部を殴られた気分だった。
 全部尚希の考えだと期待していただけに、その衝撃は大きい。


「ええぇぇっ!?」


 期待を裏切られたと全身で表現する紫苑に、尚希は苦笑して言う。


「実の奴、エリオス様に似てめちゃくちゃ頭が切れるんだよなぁ。期待させちゃったなら申し訳ない。」


 話を聞きながら、紫苑はパクパクと口を動かす。


 もしかしなくても、自分は実にまんまと踊らされたのか?


 今までの話の出所が全て実だったと知った瞬間、ここまで乗せられた自分が滑稽こっけいに思えてきた。


 だって実は、自分が協力することを前提にして話を進めていたということではないか。


 単に昨日の事件を知らなかっただけかもしれないが、仮に自分が協力する立場を拒んだとしても、自分のことなら説得できるって思っていたのだろうか。


 自分はそんなに単純だと、そう思われていたのでは…?


 実の何もかもを見透かしたような瞳が脳裏をよぎる。
 瞬く間に、実への苛立ちは急上昇。


「かーっ! ほんっとにムカつくーっ!!」


 ヒステリックに叫んだ紫苑は、両手で自分の髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。


「紫苑君。」
「なんだよ!」


 投げやりに怒鳴った先には、尚希の真面目な顔。


「実の指示でここにいるのは確かだけど、オレは実に言われたから君を説得しに来たわけじゃない。オレも純粋に、君に協力してほしいと思ってる。協力してくれないかな?」


 思いもしない尚希の言葉。
 それに、紫苑は激しく狼狽うろたえてしまった。


「えっ? いや、別に、あんたを責めてるわけじゃ……」


 どう言えば上手く伝わるのか分からなくなって、紫苑は片手で頭を掻きながら困惑する。


 しかし、全然いい表現が思い浮かばなかったので、諦めて息を吐き出した。


「そんな風に改まらなくても、おれの気持ちは変わってないから。それに! おれは実をぶっ飛ばしたいから協力するんだぞ! 実の思いどおりになるのは面白くないけど、その分もたっぷり仕返しするだけだ。だから、あんたがそう改まる必要はないんだよ!!」


 最後にふいとそっぽを向いた紫苑に、少し不安そうだった尚希の顔がやわらいだ。


「そっか。ありがとう。」


 嬉しげに笑いかけてきたその顔を見て、紫苑は少し慌ててしまう。


 別に、そんな風に感謝されるようなことを言った覚えはない。


 自分はあくまでも、自分の目的のために実を助けるのであって、そこに感謝される要素はないのだ。


 それなのにこんな笑顔を向けられたら、どう反応すればいいのか分からなくなるではないか。


「じゃ、善は急げってことで行くぞ。」


 紫苑の腕をがっしりと掴む尚希。


「へ? どこに―――」


 訊ねようとした言葉は、急に襲った眩暈めまいと耳鳴りによってさえぎられてしまった。
 視界が歪んで、腹の奥から押し寄せてくるような不快感に思わず目を閉じる。


 次に目を開いた時、そこには学校の屋上とは全く違う光景が広がっていた。
 辺り一面、殺風景な荒野である。


「ここは…?」


 紫苑は息を飲んだ。


「ん? ちょっとね。あそこじゃ、激しいことはできないからさ。」


 


 聞き捨てならない言葉に、紫苑は首をひねる。


 スパルタとは言っていたが、それは〝激しい〟ではなく〝厳しい〟ではないのだろうか。


 尚希はそんな紫苑の様子には気付かない様子で、辺りの風景を見回していた。


 単純に周囲の様子をうかがっているというよりは、何か不具合がないか、そんなことを点検しているようにも見える。


 やがて「大丈夫そうだな」と呟いた尚希は、紫苑に向き合った。




「さて。とりあえず、最初に基本的な結界の張り方を教える。長い呪文があるわけじゃないから、そんなに難しくはない。あとのことは―――実践で覚えてもらう。」




 それまでの表情を一変させ、厳しい表情で尚希は告げた。

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