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第2章 水の底
忘れていた理由
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実に頭をなでられたシャールルは、気持ちよさそうに目を細めてご満悦。
それにほっこりとする実の周囲に、精霊たちがわらわらと集まった。
「ね、実。せっかくだから、みんなで遊ぼうよ!!」
「え? うん、いいけど……わあっ!?」
実は思わず素っ頓狂な声をあげた。
自分の意識とは関係なく、体が宙に浮いたのだ。
何事かと辺りを見回すと、シャールルを始めとした精霊たちが自分の周りを飛び回っている。
「じゃあ、しゅっぱーつ!!」
「ええ!? ちょっ……ちょっと待った!」
滑らかに動き出した体が向かう先に、実は大慌てする。
彼女たちが向かっているのは、天井に開いた穴の先。
ゆらゆらと揺れる水面だったのだ。
精霊たちは、次々と水面の向こうへ消えていく。
「―――っ!!」
実は目と口をきつく閉じた。
盛大に水に飛び込む音と共に、冷たい水が体を包む。
「えーい!」
水に飛び込んだ瞬間、精霊の一人が実の腹に猛突進した。
それに驚いて口が開いてしまい、そこからたくさんの気泡が水中に零れていく。
「馬鹿っ、何する―――あれ?」
まず、水中で普通に声が出せることに驚いた。
次いで、難なく呼吸ができることに気付く。
喉に手をやって確かめるように呼吸を繰り返す実に、精霊たちは面白おかしそうに笑い声を漏らした。
「ふふ。実ったら、初めてここで遊んだ時とおんなじことしてる。」
「え?」
その言葉が頭に引っ掛かって、実は顔を上げた。
周りでは、精霊たちがそれぞれの笑顔でこちらを見つめている。
下を見れば、噴水の隣で母親のように慈愛に満ちた顔をしてこちらを見上げるイルシュエーレが。
それらを見つめていると、固く閉ざされていた記憶の箱がまた一つ開いた。
「あ…」
景色が一転する。
知らない場所が、急激に懐かしい場所に変わる。
―――思い出した。
小さい頃、自分は頻繁にここに連れてきてもらっては、こうやって精霊たちと遊んでいたのだ。
ここは、少し空間が捻れた場所。
湖の底にあるように見えて、湖とは少しずれた空間にある、精霊たちに導かれないと辿り着けない、人間が決して知らない場所。
だから、不思議なことにここでは息もできるし、普通の水中ならできないこともできるのだ。
(―――ああ、そうか……)
なんとなく、分かった気がした。
こんなにも大事な記憶だった。
温かくて、優しい記憶。
それなのに、それを忘れていたのは―――きっと、自分を守るため。
再びこの世界に囚われて、今までよりもつらいことが待っていることは分かっていた。
そして、自分の意志で魔力を取り戻した以上、自分はそれに耐える必要があった。
そのためには、思い出してはいけなかったのだ。
思い出したら、逃げ込んでしまうから。
荒らしたくなくて去ったこの場所を、幼い頃以上の危険にさらしてしまうかもしれないから。
だから、無意識でこれらの記憶だけ思い出すのを拒んだのだ。
胸にわだかまっていた違和感が、少しだけ薄らいだ。
と、その時。
「いっけー!!」
そんな声と共に、後頭部に何かがぶつかった。
「つめたっ」
思考が彼方に飛んでいたのもあり、実は後頭部に広がる冷たさに飛び上がってしまった。
振り向くと、精霊の一人が手に空気を含んだ水の玉を持っていた。
「ほらほら~♪ ぼーっとしてたら、どんどん当たっちゃうよー。」
精霊たちが、くすくすと笑う。
懐かしい遊びだ。
ようは雪合戦の水バージョンなのだが、これは水を自分の思い通りに成型する技術と、それを操作する技術が問われる。
遊ぶついでに、魔法の訓練にもなるのだ。
覚えている限りでは、まだ上手く魔法を扱いきれなかった自分は、精霊たちに勝てた試しがなかったはずだ。
「……ふーん。」
にやりと笑った実が腕を振る。
すると、実の周りに無数の水玉ができあがった。
「わわ…っ」
精霊たちが、一気に顔色を変えた。
「あの時の俺と一緒にしないでよ? 魔法の腕なら、何倍も上がってるんだからな。」
そう言って、実は水玉を飛ばした。
しかも、全部の玉を違うルートで。
「わーっ! 待って待って!!」
「きゃーっ」
「実、ずるーい!!」
飛び回って逃げながら文句を言ってくるが、なんだかんだで楽しそうな精霊たちである。
「ストップ! ルール変更! チーム戦にしよ。」
「チーム戦?」
慌てる精霊たちに対して余裕の実は、一旦玉の速度を落とす。
「別にいいけど。」
「じゃあ、そうしよ。わー、参った参った。実、いつの間にそんなに強くなったの? 焦っちゃった。ってなわけで、あたしは実と一緒ー♪」
提案してきた精霊が、実の胸に飛び込む。
すると―――
「ずるーい!!」
「私も実とがいい!」
「僕も! 実とこうやって一緒に遊んだことないんだもん!!」
他の精霊やシャールルが一斉に文句を言って、同じように突進してくる。
「待て待て待て待て!!」
実は慌てる。
いくらなんでも、これは許容量を超える。
だが、精霊たちは聞く耳を持たず、我先にとこちらに群がってくる。
「ふっ…」
窮屈そうに顔を歪めていた実が、ふいに口を開く。
「あははははっ!!」
突然実が大声で笑い出したので、精霊たちとシャールルが驚いたように動きを止めた。
実は腹を抱えて笑いながら、目尻を指でこする。
「ははっ……お前ら、いい加減にしろって…。あー、おもしろ。チームなんか、何回も変えればいいじゃん。全員とチームを組んであげるからさ。……まったくもう。」
なんだか楽しくなってきた。
かなり久しぶりじゃないだろうか。
こんなに楽しくて、腹の底から大声で笑ったのは……
自分の笑い声に、幼い自分の笑い声が重なる。
彼女たちと触れ合うのは楽しかった。
楽しくて、無理もせずに笑えて、だからここが大好きだった。
「やっと……笑ってくれた。」
実の笑顔を見て、イルシュエーレが呟く。
その呟きは、実の耳には届いていない―――
それにほっこりとする実の周囲に、精霊たちがわらわらと集まった。
「ね、実。せっかくだから、みんなで遊ぼうよ!!」
「え? うん、いいけど……わあっ!?」
実は思わず素っ頓狂な声をあげた。
自分の意識とは関係なく、体が宙に浮いたのだ。
何事かと辺りを見回すと、シャールルを始めとした精霊たちが自分の周りを飛び回っている。
「じゃあ、しゅっぱーつ!!」
「ええ!? ちょっ……ちょっと待った!」
滑らかに動き出した体が向かう先に、実は大慌てする。
彼女たちが向かっているのは、天井に開いた穴の先。
ゆらゆらと揺れる水面だったのだ。
精霊たちは、次々と水面の向こうへ消えていく。
「―――っ!!」
実は目と口をきつく閉じた。
盛大に水に飛び込む音と共に、冷たい水が体を包む。
「えーい!」
水に飛び込んだ瞬間、精霊の一人が実の腹に猛突進した。
それに驚いて口が開いてしまい、そこからたくさんの気泡が水中に零れていく。
「馬鹿っ、何する―――あれ?」
まず、水中で普通に声が出せることに驚いた。
次いで、難なく呼吸ができることに気付く。
喉に手をやって確かめるように呼吸を繰り返す実に、精霊たちは面白おかしそうに笑い声を漏らした。
「ふふ。実ったら、初めてここで遊んだ時とおんなじことしてる。」
「え?」
その言葉が頭に引っ掛かって、実は顔を上げた。
周りでは、精霊たちがそれぞれの笑顔でこちらを見つめている。
下を見れば、噴水の隣で母親のように慈愛に満ちた顔をしてこちらを見上げるイルシュエーレが。
それらを見つめていると、固く閉ざされていた記憶の箱がまた一つ開いた。
「あ…」
景色が一転する。
知らない場所が、急激に懐かしい場所に変わる。
―――思い出した。
小さい頃、自分は頻繁にここに連れてきてもらっては、こうやって精霊たちと遊んでいたのだ。
ここは、少し空間が捻れた場所。
湖の底にあるように見えて、湖とは少しずれた空間にある、精霊たちに導かれないと辿り着けない、人間が決して知らない場所。
だから、不思議なことにここでは息もできるし、普通の水中ならできないこともできるのだ。
(―――ああ、そうか……)
なんとなく、分かった気がした。
こんなにも大事な記憶だった。
温かくて、優しい記憶。
それなのに、それを忘れていたのは―――きっと、自分を守るため。
再びこの世界に囚われて、今までよりもつらいことが待っていることは分かっていた。
そして、自分の意志で魔力を取り戻した以上、自分はそれに耐える必要があった。
そのためには、思い出してはいけなかったのだ。
思い出したら、逃げ込んでしまうから。
荒らしたくなくて去ったこの場所を、幼い頃以上の危険にさらしてしまうかもしれないから。
だから、無意識でこれらの記憶だけ思い出すのを拒んだのだ。
胸にわだかまっていた違和感が、少しだけ薄らいだ。
と、その時。
「いっけー!!」
そんな声と共に、後頭部に何かがぶつかった。
「つめたっ」
思考が彼方に飛んでいたのもあり、実は後頭部に広がる冷たさに飛び上がってしまった。
振り向くと、精霊の一人が手に空気を含んだ水の玉を持っていた。
「ほらほら~♪ ぼーっとしてたら、どんどん当たっちゃうよー。」
精霊たちが、くすくすと笑う。
懐かしい遊びだ。
ようは雪合戦の水バージョンなのだが、これは水を自分の思い通りに成型する技術と、それを操作する技術が問われる。
遊ぶついでに、魔法の訓練にもなるのだ。
覚えている限りでは、まだ上手く魔法を扱いきれなかった自分は、精霊たちに勝てた試しがなかったはずだ。
「……ふーん。」
にやりと笑った実が腕を振る。
すると、実の周りに無数の水玉ができあがった。
「わわ…っ」
精霊たちが、一気に顔色を変えた。
「あの時の俺と一緒にしないでよ? 魔法の腕なら、何倍も上がってるんだからな。」
そう言って、実は水玉を飛ばした。
しかも、全部の玉を違うルートで。
「わーっ! 待って待って!!」
「きゃーっ」
「実、ずるーい!!」
飛び回って逃げながら文句を言ってくるが、なんだかんだで楽しそうな精霊たちである。
「ストップ! ルール変更! チーム戦にしよ。」
「チーム戦?」
慌てる精霊たちに対して余裕の実は、一旦玉の速度を落とす。
「別にいいけど。」
「じゃあ、そうしよ。わー、参った参った。実、いつの間にそんなに強くなったの? 焦っちゃった。ってなわけで、あたしは実と一緒ー♪」
提案してきた精霊が、実の胸に飛び込む。
すると―――
「ずるーい!!」
「私も実とがいい!」
「僕も! 実とこうやって一緒に遊んだことないんだもん!!」
他の精霊やシャールルが一斉に文句を言って、同じように突進してくる。
「待て待て待て待て!!」
実は慌てる。
いくらなんでも、これは許容量を超える。
だが、精霊たちは聞く耳を持たず、我先にとこちらに群がってくる。
「ふっ…」
窮屈そうに顔を歪めていた実が、ふいに口を開く。
「あははははっ!!」
突然実が大声で笑い出したので、精霊たちとシャールルが驚いたように動きを止めた。
実は腹を抱えて笑いながら、目尻を指でこする。
「ははっ……お前ら、いい加減にしろって…。あー、おもしろ。チームなんか、何回も変えればいいじゃん。全員とチームを組んであげるからさ。……まったくもう。」
なんだか楽しくなってきた。
かなり久しぶりじゃないだろうか。
こんなに楽しくて、腹の底から大声で笑ったのは……
自分の笑い声に、幼い自分の笑い声が重なる。
彼女たちと触れ合うのは楽しかった。
楽しくて、無理もせずに笑えて、だからここが大好きだった。
「やっと……笑ってくれた。」
実の笑顔を見て、イルシュエーレが呟く。
その呟きは、実の耳には届いていない―――
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