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しおりを挟む「……人がいなくなったら、私の部屋に来い。話は通しておく」
スカーレットはこっそりとルベルに耳打ちし、最後にウインクを残して宮殿をあとにした。
「……なんつー選考だよ…………」
げんなりとした表情で自分の花紋――今もなお真紅に輝く薔薇を見る。
「まあ、兎にも角にもこれで晴れて近衛ってわけだ」
おそらく史上初であろう、欠落者の近衛。彼は一層気を引き締め、先程教えられたスカーレットの部屋を目指して移動を始めた。
「……失礼します」
ルベルの心臓はバクバクと、彼の生涯の中でも一二を争うほど激しく鳴っていた。
「……入ってこい」
ゴクリ。ルベルは少し深呼吸をし……扉を開けた。するとそこには――
「遅かったなルベル。ようこそ私の部屋へ」
スカーレットが立っていた。部屋の中は薄暗く……剣が何本も立てかけられており、大きな地図などが貼られていたりして、お世辞にも王女の部屋という感じでは無い。
「あ、あの……」
「なに、言いたいことはわかっている。あまりにも殺風景な部屋だからな」
はははっ、と豪快に笑う。
「ここは私の部屋であり……研究室だ」
そう言って彼女は机の上にあった短剣を手に取った。
「は、はぁ……」
(なんというか……鉄臭いな)
研究室と言うだけあり、いろいろな図面が書かれた設計図などが散乱していた。
「それで、その……さっきから聞きたかったことがあるのですが……」
「ん? どうした? 私のスリーサイズか?」
「いえ、少し気になりますがそれじゃないです。……俺を、この、欠落者を選んだわけを聞きたいのです」
ルベルは先程からずっと考えていた。なぜ、どうして俺が選ばれたのか、と。
「ああ、そんなことか。さっき言っただろう? お前に惚れたからだと」
「説明になっていないです。それに……あなたは、そんな惚れた腫れたの感情で動くような人ではないでしょう?」
「ひどいな。私だって乙女心というものはあるぞ」
「乙女は公衆の面前で男の唇を奪ったりしないです」
ひどく正論であった。
「……ごほん、話を戻そう」
(スルーした⁉)
「この研究室は、お前の未来を切り開くための場所でもあるんだ」
「俺の……未来を切り開く場所……ですか?」
ルベルはゴクリ、と喉を鳴らす。
「そうだ。欠落者のお前のな」
彼女は無造作に鉄の山からあるものを取り出した。
「これは……?」
彼女が取り出したものは、剣だった。鈍色に輝く、鋭い剣。しかし、輝きは普通の金属とは何かが違う。そして、各部に普通の剣にはないパーツが装着……いや、組み込まれている。
「これはアダマンタイトを使用した剣だ」
「……へ?」
アダマンタイト。その金属は、世界で最高の硬度を誇るオリハルコンの次に硬い金属だ。魔法耐性もオリハルコンの次に強く、加工もかなり難しい。そして何よりも…………高い。恐ろしく高い。
「この剣のほとんどがアダマンタイトできている」
「う、嘘っ⁉」
この剣の全長は大体一メートル弱。多分、この量のアダマンタイトなら………………城が一つ買える。
「ど、どうやってこんな量のアダマンタイトを……!」
言うまでもなく、アダマンタイトは希少金属である。
「ふふ、秘密だ。……と言いたいところだが、まあ、言っても構わんだろう。少し話は変わるが、我々、フリエル国は現在、どこと戦争をしている?」
「どこってそれは、ロイト国ですよね?」
「そう、そのとおりだ。そして、ロイト国は世界有数のアダマンタイトなどの金属の産地だ」
「ええ、授業で習いました。で、それがこの剣とどう関係するのですか?」
「……うーん、やっぱりお前に敬語は似合わんな。よし、今から私のことはスカーレットと呼んでくれ。そして敬語をやめてくれ」
「そ、そんな恐れ多いこと、俺にはできませんよ! それに、敬語抜きなんて不敬ですし……」
「むぅ……それならレッティと愛称で呼んでもらうしかあるまい……」
「スカーレット王女と呼ばせていただきます!」
「駄目だ。それに、敬語は本当にやめてくれ。寒気がする」
「さ、寒気がするって……」
(そんなに俺の敬語って聞くに耐えないの⁉)
「……敬語を止めないと、その剣を返してもらうぞ」
「うっ……!」
スカーレットは切り札をちらつかせ、なんとしてでも敬語を止めさせようとする。
「わ、わかりまし……わかったよ、スカーレット……姫」
「……駄目だ。しっかりスカーレットと呼ぶのだ」
「……スカーレット……」
「よしっ! 最初からそうすればいいものを」
嬉しそうにスカーレットがうんうんとうなずく。
(……こういう人だったっけ? 第七王女)
思わずルベルもタジタジである。
「あ、それでさっきの話なんです……なんだけど」
「ああ、すっかり忘れていたな。さっき話した通り、ロイト国は鉱石の産地だ。それで、ロイト国の兵士の胸元の徽章は、ロイト国で採れた鉱石で作られている。一般兵なら魔水晶、そして部隊長クラスだとアダマンタイトと各種宝石。あと向こうの七英雄あたりはオリハルコンだったか? まあ、つまりだ。わかったな?」
「……中隊長クラスの徽章からできた剣ということか?」
「まあ、そういうことになるな。あ! 決して私が脅したとか略奪したとかそういうわけでは無いからな! 向こうが勝手に命だけは助けてくれとこれを差し出してくるんだ」
「ああ、なるほど……」
(怖いんだろうな、クリムゾンプリンセスが……)
少しだけ相手に同情したルベルであった。
「もちろん、私は優しいから殺してなどいないぞ。……む、なんだその目は」
「い、いやぁ、なんでも。……で、結局この剣は中隊長たちの怨嗟でできているわけか」
「……さて、その剣について話しておこう」
やはり華麗にルベルの言葉をスルーして話を進める。
「先程も言った通り、この剣は普通の剣では無い。普通の剣なら別にアダマンタイトを使う必要も、私がこれだけ苦労して作る必要も無いわけだからな」
そう言って彼女はルベルから一度剣を取る。
「なに、百聞は一見にしかずだ。実演してみようじゃないか」
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