愛縁奇祈

春血暫

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愛縁奇祈

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 町の名前は、あまりわからなかった。

 人によって、呼び方が変わるのだ。

 だか、多くの人が呼ぶのは『神馬町しんめのまち』だった。
 人は、よく話をする。

「この町には、人神ひとがみがおられる」

「我らが、神様の乗る馬なのだ」

 と。

 そうやって、私を。
 いや、私と弟を畏れた。

 その中で、たった一人。

 畏れない者がいた。

「神様なんて、いないよ。いるのは、怪異だ」

 そう言ったのは、紺桔梗色の髪をした少女だった。
 ちぐはぐになっている着物を着ていたが、貧しく可哀想という感じはしなかった。

 周りの人は、少女を『厄呼やっこ』と呼び、蔑んでいた。
 だけど、私は少女を気に入った。
 周りと違うから、という理由だけではない気がするが。
 それが何か、わからなかったから、なんとも言えなかった。

 弟も、少女を気に入った。

 だから、少女に何かをしたいと思ったのだ。

 なぜなら、少女はいつも笑っていないから。

 私はなぜか、少女の笑顔を見たいと思ったから。
 弟も同じだった。

「よし、今度、少女の願いを聞こうではないか」

「そうだね、兄ちゃん」

 聞くとするなら、少女が一人のときが良いだろう。

 と、思ったが。
 少女は常に、人に囲まれていた。

「厄呼め!! 早くこの町から出ていけ!!」

「お前のせいで、町が不幸になる!!」

 そう言われても、少女は顔色を変えず、人を睨みつける。

「うるせえ、バーカ。あたしをいじめたって、なんの解決にもならんぞ、もうちっと、頭使えよ、くそったれ!!」

「なんだと、この厄呼め!! おい、こいつを牢に入れろ! 餓死させてやる」

「あっそ。やってみたら? そんなことしても、変わらないんだから。てか、そんな言うんだったら、あんたら、お得意の神様なんかに頼めば良いじゃん。町を幸せにしろ、てさ。ま、いたらの話だけどね」

「調子に乗りよってからに!!!」

 ドゴッ

 と、男が少女を思いっきり殴る。

 弟が止めようとしたけど、私はそれを止める。

「私たちが出てはいけないよ。これは、人のことだ。私たちには、何もできないよ」

「しかし、そうでないと、彼女が死んでしまう」

「それでも、だよ」

 怪異である私たちには、何もできないんだよ。

 私だって、助けたいけど。

「触れることすら、障りになってしまう」

「…………」

「それに、これは良い機会だよ。彼女が一人になれば、私たちは話を聞くことができる」

「そうだけど」

「また明日、彼女のところにいこう」

 私は、半分以上強制的に弟を連れ、社へ戻った。
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