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第十九話

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囲碁打ちの算砂が、家康の部屋に入ってきた。
宗古と吉川と小那姫も待機している。

「お休みのところ申し訳ないが、娘の月殿について、宗桂殿の跡継ぎのここにいる宗古殿が知りたいことがあるのでご足労頂いた」
算砂は寝ぼけ眼で挨拶をした。
「承知しました。家康様や宗桂殿にはお世話になっておりますゆえ遠慮なく聞いてください」

宗古がさっそく単刀直入に聞いた。
「月様は、算砂様の本当の娘さんですか」
算砂は照れ笑いをして答えた。
「いや。娘のようなものというか娘同然というかそんなものです。
私が太閤様に囲碁のお手合わせを願ったときに、大野修理殿に地方で囲碁の好きな方は居りませんかと尋ねたところ、人脈が豊富な者がいるといって紹介されたのが、なんと月という若い娘でした。
普段は歩き巫女の姿をしているがいい所の出の娘さんだと言っていました。
若く魅力的でよく気が付く娘で私にはもったいないのですが、広い人脈を持っている不思議な娘です。
諸国の大名や公家に囲碁の指導をするためには人脈が必要で、一見さんでは大変なのですが、月にお願いすると簡単に地域の有力者に囲碁の指導ができるので大変重宝しているのです。
大野殿に月とどういう関係かを聞いたのですが、甲斐での有力な武士の知り合いの娘だとしか教えてもらえませんでした」

「これも単刀直入に聞きますが、実の娘ではなく若い魅力的な方なので関係はあったのですか」
「それもお恥ずかしい限りですが、関係は無かったです。残念なのですが自分のせいで」
「本当ですか。」
「小那姫様の前で言いにくいですが、月はあん摩も上手で、夜は一緒に添い寝をしてくれるのです。
それも絶品の技術です。
私がうつ伏せになって月が一糸まとわぬ姿で私の背中に乗り、体を油ですべすべにしてゆっくりと月の上半身で刺激をしてくれるのです。
耳元で気持ちいいですかと嬌声で囁かれるので私の男性自身はいつも元気になってしまいますが、毎回お酒が回って、いつの間にか私は寝てしまっているのです。
月と関係を持ちたいと毎回思って毎回寝てしまうということの繰り返しでした」
「太閤様の宴で、能楽のあと宗桂と対局をして無礼講になりましたが、算砂様と月様は無礼講の宴会場でお見かけしなかったのですがどうしてですか」
「勝吉殿の能楽を見ていた時に、月が大層驚いて浜松に帰らなくてはいけないかもしれないと言ったのです。
ただもう夜なので明日朝出発するなら準備もせねばならないといって部屋に二人で戻ったのです。
部屋に戻るといつもにようにあん摩をしてくれて気持ちがよくなって、今回も寝てしまいました。
気が付いたら月の姿が消えていたのです」
「月殿にそれ以外について知っていることを教えてください。
「確か甲斐で生まれて駿河と遠江で育ったようなことを言っていました。
それから貞という名前で絵師をしている妹がいると言っていました。大野様からは、妹の本名は雪花で甲斐にいた両親は姉妹が小さい時に亡くなったと」
勝吉と宗古が目を合わせた。

「苗字は望月と言っていませんでしたか。」
「何故知っているのですか。
確かにそのようなことを言っていました」
「浜松のどこに帰らなくてはいけないと言っていたのですか」
「そこまでは聞いていません。何故帰らなくてはいけないのかと聞いたら、その答えが無く、そのあとに王子稲荷神社と伏見稲荷大社に行く必要がある、
預言書を変えなくてはいけないと言っていました」
今度は宗古と吉川が見つめあった。
「私が知っているのはそれだけです。ああ、抱きたかった」
算砂がそういうと宗古は俺に唇だけ動かした。
助兵衛おやじと言っているような気がした。

宗古は家康に向って言った。
「明日、ここを出発したいです。浜松城に戻ってそれから江戸の王子稲荷神社に行きたいです。そして例の物を手に入れたら伏見に戻ってあのとおりにやってみたいです。大晦日までに間に合わせたいです。でもそのまえに聞いておきたい人がいるのですが、能楽師来電と淀君のお世話人の大野修理」
「わかった。わしも行く。
太閤殿には身内に用事ができたので明日緊急に変える旨報告をしておく。船で行ったほうがよさそうだな。
勝吉、手配を頼む」

小那姫が言った。
「私も家康様に浜松城まで同行します」

「承知しました」

勝吉の家来が部屋にやってきた。
「宗桂殿の跡継ぎの方と許嫁の方、大野修理殿が会いたいそうです」
向こうからやってきた。
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