快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

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新たな出発

兄の幻影

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翌週教室に入った際、凜から封筒を渡された。中には千円札と小銭が入っていた。

「何、これ?」

「先週のカラオケで五千円置いてったでしょ?割勘で払ったからそのお釣よ」

お釣を受け取り、席に着いた。

隣で凜が小声で
「ねぇ、ホントは坂本さん達の話がイヤになって帰ったんじゃないの?」と聞いてきた。

図星だ。だがそうとは言えず、オレはテキトーに用事があったと言ってごまかした。

いい年こいて、いまだにヤンキー癖が抜けきってないヤツらの昔話なんて聞いてもこっちはつまらないだけだ。

それよりも、この数ヵ月の間に起こったオレの出来事に比べりゃ大した事じゃないだろ。

言うつもりもないが、坂本達はあれでもオレより倍以上生きてる大人だ。

あれが大人なのか。
ガキ臭い話に盛り上がってバカじゃないか。

そんな事を思いつつ、また授業が終われば風俗に行こうと考えていた。

さっさとあの金を使いきりたい。

「ねぇ、今度は二人でカラオケ行かない?」

「ん?」

凜が授業中、身を寄せて話しかけてきた。

「二人だけで?」

「そう、あの人達のヤンキー話、私も好きじゃないから、今度は二人で行こうよ。ダメ?」

断る理由も無いし、いいよ、と返事をした。

それよりも、オレは毎日舗装の工事で汗臭いまま学校に来てるのに、何とも思わないのだろうか。

汗だくで薄汚れた服を着たオレと、カジュアルでセンスの良い凜が隣だと、オレの薄汚さが際立って晒し者みたいだ。

それでもお構い無しに凜はちょくちょくオレに話しかけてくる。

話といっても、特に共通の話題は無い。
年が5つも離れているから、何を話せばいいのか分からないので、オレから話し掛ける事はない。

今日は仕事でこんな事があった、この前観たテレビの話とか、そういった類いの話を主にしていた。

何せ女とこうやって会話したことがないから、接し方が分からない。


授業が終わるとオレは繁華街へ行った。

通いなれたソープに入り、指名はせず、店員に任せっきりにしている。

どのソープ嬢が来ても、ヤル事は同じだし、テクニックだって、母のと比べたら雲泥の差だ。

母は今ごろ、何処で何をしているんだろうか?

出来る事ならオレが海外に行って探し出したい。

東南アジアか南米か、行く気になれば金もまだ余ってるし、明日からでも飛び立つ事は出来る。

実の母である、鴨志田の学校だけは卒業して欲しい、という約束だけは守ろうと思い、真面目に学校に通っている。

更に厄介なのは、母親や鴨志田の事を思い浮かべると同時に、あの兄の顔もちらついてくる。

もうこの世にはいないが、あのニヤけた顔を思い出す度にムカついてくる。

遺骨をドブ川に投げ捨てた事には後悔していない。むしろあの場所が1番相応しい。

だが、振り払おうとしても、あの顔が時折脳裏をかすめ、オレは兄の幻影を振り払えずにこの先も生きていかなきゃならないのか、そう考えると、気がおかしくなりそうだ。

毎日汗だくで働き、夜は学校で勉強し、帰りは風俗でセックスをする。

だが、どの最中でも兄の顔が浮かんでくる。

アイツは死んだんだ。
電車に轢かれ、肉片と化してくたばったんだ。

そう自分に言い聞かせながら拭い去ろうとしても、オレの身体にベットリと付きまって離れない。

どうやったら兄の幻影から逃れられるのだろうか、そんな事ばかりを考える日々が多くなった。
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