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流浪の如く
やっぱり話せない…
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山下は沢渡さんのはからいで、ワンルームマンションへ移る事となった。
「いやぁ、今までありがとうな。オレ頑張って店長になるからさ。店長になったら…キャスト食いまくるかな、ワハハハハ」
コイツを店長にしたら、店は潰れてしまう。
やっと、コイツがいなくなった。
後はナツのマンションに荷物を移すだけだ。
だが、その前に言わなきゃならない事がある。
それはオレが鴨志田の子供だという事を…
言うべきかどうか、かなり迷った。
ナツは一日でも早く、姉に会いたいと言ってた。
だが、その姉は何年も前に兄のせいで、この世を去っている。
この事を言わなきゃならないのだろうか?
もう一つ、オレは慢性化する過呼吸に悩まされ、心療内科で診断を受けた。
医師からは【パニック障害】という病名を告げられた。
不安になったり、何かの強迫観念に陥ると、息苦しくなって、鼓動が速くなり、呼吸が出来なくなる。
オレは心療内科に通院して、安定剤を服用する事になった。そして、僅かな期間だったが、ルート配送の仕事を辞めた。
アパートで荷物をまとめ、いらなくなった家具や家電品は粗大ゴミとして処分した。
だが、ナツに何て言おうか。
とてもじゃないが、真実を言う事が出来ない…
オレが殺したワケじゃないが、その相手がオレの兄だと知った時。
そして、鴨志田の子供がオレだと知った時…
ナツはどうなるのだろうか?
沢渡さんから受け取った300万がある。
これは借りた金だ。
ナツの所に行くのを止めて、このままアパートに残ってもいいんじゃないか?と。
全て処分した、ガラーンとした部屋で、オレは決断を迫られている。
どうしたものか…
すると、スマホに着信が。
ナツからだ。
少し躊躇ったが、電話に出た。
「もしもし」
【あ、もしもし?今ね、古賀くんのアパートの前まで来てるの。車借りたから、荷物積んで来て】
もう、家の前に来ているのか。
「あぁ、分かった」
仕方ない、ナツに全部話そう!
オレは必要な荷物だけを持って、アパートを出た。
ナツは黒のワンボックスタイプの車を乗ってきた。
「えっ、荷物これだけ?」
オレに必要なのは、衣類とパソコンぐらいだ。
ナツの部屋はテレビが無いが、別にテレビが無くても、特に観る番組も無いので処分した。
頭にサングラスを乗せ、茶色く毛先がカールしたセミロングのヘア、レザージャケットにホットパンツ。
黒のストッキング、そしてニーハイブーツ。
そんなブーツで、アクセルやブレーキを踏めるのか?と思う程のヒールが高いブーツだ。
後ろのスライドドアを開け、荷物を置いて助手席に座った。
「せっかく車借りたんだからさ、ドライブしない?」
部屋に直行じゃないのか…益々言いづらくなってきた。
「ドライブ?どこら辺を?」
「なぁんにも考えてない。あ、海とかいいんじゃない?冬の海岸なんていいかもね」
車内は洋楽が流れていた。
車は発進する。
あのアパートに住んで、かれこれ五年が経つ。
その間、母が亡くなった。
少し感傷的になりながら、住み慣れたアパートを見て、別れを告げた。
(今までありがとうな)
建物に感謝するのも変だが、何故だか、そんな気分だ。
ナツは鼻歌交じりに運転する。
高速に乗ると、結構なスピードを出して、海まで走った。
その間、ナツに言うかどうか迷った。
今言ったら、ナツはどんな顔をするのだろう?
そんな事ばかり考えていると、車内の閉鎖感が耐えきれず、息苦しくなってきた。
おまけに、かなりスピードを出してるから、オレはまた発作が起こりそうになった。
ナツが何かを話しかけてきてるが、オレはゆっくりと鼻で呼吸しながら、自分を落ち着かせようとするのに精一杯だ。
「ほら、見て海だよ」
ナツが指差した方向に海岸が見えた。
どこか、淋しげな感じのする海岸。季節外れのせいもあるが、誰もいない砂浜。
ドライブの定番といえば海なのだが、オレには海に対して何の思いもない。
それどころか、ただ波を眺めて何が楽しいのだろうか?と思う。
「ねぇ、お腹空かない?海岸沿いにレストランなんかあればいいね」
沢渡さんから預かった金があるし、今度はオレが金を払おう。
「あの店は?パスタとかピザの専門の店みたいだけど」
前方にテラスのある、イタリアンの店を見つけ、車を駐車場に停めた。車から降りると、開放感からか、息苦しさは治まった。
「古賀くん、遠慮なく食べて。
お金の事は心配しなくていいから」
やっぱり、女に飯代を出してもらうのは気が引ける。
「いいよ、今日はオレが出すよ」
「だって、お金無いんでしょ?無理しなくていいから、どんどん頼んで、ね?」
金を出せば、そのお金どうしたの?と言われるだろうし、奢ってもらうのも悪い気がする。
「じゃあ、割り勘にしようよ。オレそのぐらいの金ならあるし」
ナツは不思議そうに、オレの顔を見た。
「古賀くんてさぁ、何で奢られるのとか気にするの?いいじゃん、私が出すって言ってるんだから」
「だって、これから部屋に居候する身なんだぞ。そこまで甘えてらんないよ」
ナツはフフフッ、と笑っている。
「いいよ、いつでも甘えても。私、古賀くんなら甘えられても文句言わないから。ていうか、甘えて欲しいの、ね?」
この笑顔が今のオレにとっては、苦痛でしかない。
この笑顔が真相を話しても、笑顔でいられるのか…
結局、ナツにご馳走になった。
何を食べて、どんな味がしたかなんて、覚えてない。
頭の中は真実を語るかどうか。
その事だけだ。
「そろそろ帰ろうよ。寒くなってきたし、何か今日は少し疲れてるのか、寝たい気分だ」
「じゃあ、寝てていいよ。私、車運転するの久しぶりだから、もうちょっとこの辺走りたいし」
「オレ、車の中で寝る事出来ないんだよ。何でか分からないけど、寝ようと思っても、寝れないんだ」
「そっか…じゃ、また今度一緒に来よう。それじゃ、帰ろう」
「悪いな、色々と世話になって…」
「だって…私好きだから、古賀くんの事」
…こんな事言われて、真実はとても話せない…
益々オレは苦悩した。
止めた。話しは出来ない。ウソなら、最後までウソをつき通そうと。
「いやぁ、今までありがとうな。オレ頑張って店長になるからさ。店長になったら…キャスト食いまくるかな、ワハハハハ」
コイツを店長にしたら、店は潰れてしまう。
やっと、コイツがいなくなった。
後はナツのマンションに荷物を移すだけだ。
だが、その前に言わなきゃならない事がある。
それはオレが鴨志田の子供だという事を…
言うべきかどうか、かなり迷った。
ナツは一日でも早く、姉に会いたいと言ってた。
だが、その姉は何年も前に兄のせいで、この世を去っている。
この事を言わなきゃならないのだろうか?
もう一つ、オレは慢性化する過呼吸に悩まされ、心療内科で診断を受けた。
医師からは【パニック障害】という病名を告げられた。
不安になったり、何かの強迫観念に陥ると、息苦しくなって、鼓動が速くなり、呼吸が出来なくなる。
オレは心療内科に通院して、安定剤を服用する事になった。そして、僅かな期間だったが、ルート配送の仕事を辞めた。
アパートで荷物をまとめ、いらなくなった家具や家電品は粗大ゴミとして処分した。
だが、ナツに何て言おうか。
とてもじゃないが、真実を言う事が出来ない…
オレが殺したワケじゃないが、その相手がオレの兄だと知った時。
そして、鴨志田の子供がオレだと知った時…
ナツはどうなるのだろうか?
沢渡さんから受け取った300万がある。
これは借りた金だ。
ナツの所に行くのを止めて、このままアパートに残ってもいいんじゃないか?と。
全て処分した、ガラーンとした部屋で、オレは決断を迫られている。
どうしたものか…
すると、スマホに着信が。
ナツからだ。
少し躊躇ったが、電話に出た。
「もしもし」
【あ、もしもし?今ね、古賀くんのアパートの前まで来てるの。車借りたから、荷物積んで来て】
もう、家の前に来ているのか。
「あぁ、分かった」
仕方ない、ナツに全部話そう!
オレは必要な荷物だけを持って、アパートを出た。
ナツは黒のワンボックスタイプの車を乗ってきた。
「えっ、荷物これだけ?」
オレに必要なのは、衣類とパソコンぐらいだ。
ナツの部屋はテレビが無いが、別にテレビが無くても、特に観る番組も無いので処分した。
頭にサングラスを乗せ、茶色く毛先がカールしたセミロングのヘア、レザージャケットにホットパンツ。
黒のストッキング、そしてニーハイブーツ。
そんなブーツで、アクセルやブレーキを踏めるのか?と思う程のヒールが高いブーツだ。
後ろのスライドドアを開け、荷物を置いて助手席に座った。
「せっかく車借りたんだからさ、ドライブしない?」
部屋に直行じゃないのか…益々言いづらくなってきた。
「ドライブ?どこら辺を?」
「なぁんにも考えてない。あ、海とかいいんじゃない?冬の海岸なんていいかもね」
車内は洋楽が流れていた。
車は発進する。
あのアパートに住んで、かれこれ五年が経つ。
その間、母が亡くなった。
少し感傷的になりながら、住み慣れたアパートを見て、別れを告げた。
(今までありがとうな)
建物に感謝するのも変だが、何故だか、そんな気分だ。
ナツは鼻歌交じりに運転する。
高速に乗ると、結構なスピードを出して、海まで走った。
その間、ナツに言うかどうか迷った。
今言ったら、ナツはどんな顔をするのだろう?
そんな事ばかり考えていると、車内の閉鎖感が耐えきれず、息苦しくなってきた。
おまけに、かなりスピードを出してるから、オレはまた発作が起こりそうになった。
ナツが何かを話しかけてきてるが、オレはゆっくりと鼻で呼吸しながら、自分を落ち着かせようとするのに精一杯だ。
「ほら、見て海だよ」
ナツが指差した方向に海岸が見えた。
どこか、淋しげな感じのする海岸。季節外れのせいもあるが、誰もいない砂浜。
ドライブの定番といえば海なのだが、オレには海に対して何の思いもない。
それどころか、ただ波を眺めて何が楽しいのだろうか?と思う。
「ねぇ、お腹空かない?海岸沿いにレストランなんかあればいいね」
沢渡さんから預かった金があるし、今度はオレが金を払おう。
「あの店は?パスタとかピザの専門の店みたいだけど」
前方にテラスのある、イタリアンの店を見つけ、車を駐車場に停めた。車から降りると、開放感からか、息苦しさは治まった。
「古賀くん、遠慮なく食べて。
お金の事は心配しなくていいから」
やっぱり、女に飯代を出してもらうのは気が引ける。
「いいよ、今日はオレが出すよ」
「だって、お金無いんでしょ?無理しなくていいから、どんどん頼んで、ね?」
金を出せば、そのお金どうしたの?と言われるだろうし、奢ってもらうのも悪い気がする。
「じゃあ、割り勘にしようよ。オレそのぐらいの金ならあるし」
ナツは不思議そうに、オレの顔を見た。
「古賀くんてさぁ、何で奢られるのとか気にするの?いいじゃん、私が出すって言ってるんだから」
「だって、これから部屋に居候する身なんだぞ。そこまで甘えてらんないよ」
ナツはフフフッ、と笑っている。
「いいよ、いつでも甘えても。私、古賀くんなら甘えられても文句言わないから。ていうか、甘えて欲しいの、ね?」
この笑顔が今のオレにとっては、苦痛でしかない。
この笑顔が真相を話しても、笑顔でいられるのか…
結局、ナツにご馳走になった。
何を食べて、どんな味がしたかなんて、覚えてない。
頭の中は真実を語るかどうか。
その事だけだ。
「そろそろ帰ろうよ。寒くなってきたし、何か今日は少し疲れてるのか、寝たい気分だ」
「じゃあ、寝てていいよ。私、車運転するの久しぶりだから、もうちょっとこの辺走りたいし」
「オレ、車の中で寝る事出来ないんだよ。何でか分からないけど、寝ようと思っても、寝れないんだ」
「そっか…じゃ、また今度一緒に来よう。それじゃ、帰ろう」
「悪いな、色々と世話になって…」
「だって…私好きだから、古賀くんの事」
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