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17.五日目:ベーコンとしめじのキッシュとサーモンとほうれん草のキッシュ、それからパン
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◆
「どう? 機械で作ったパンだけど、いい匂いでしょう!?」
食パン型の胡桃パンは六枚に切った。しかしこれだけでは子狐ちゃんたちの分が足りないので、アプリで見つけた『簡単フライパンで作るちぎりパン』というものも作ってみた。
一人では大変なので、一緒にアプリを見ながら台所の付喪神さんたちの手も借りたけどね。
「ああ、良い匂いだ。胡桃の香ばしい香りもするし……おお、ふっかふかだな!」
銀はパンに指を押し付け楽しんでいる。それを見た子狐たちも真似をして、ちぎりパンに手を――。
「あっ、まだ熱いよ!」
寸前でピタッと前足が止まった。これまでも様々な料理で痛い目を見たので、懲りたのだろう。学習してくれて何よりだ。
「はい、食べやすい大きさに千切るね。これもフーフーしてから食べるんだよ?」
「美詞、早くいただこう」
「はい!」
私はまず、チーズをたっぷり乗せた『ベーコンとしめじのキッシュ』に手を伸ばした。チーズの上には庭で自生していたバジルを乗せたので、赤いトマトに映えて狙い通りの彩りとなっている。
フォークで一口大に切ると、下のパイがサクッと音を立て、そしてチーズはトロォっと蕩けて芳醇な匂いを広げる。そして口へ入れると――。
「んー! 濃厚……!」
使った卵はこの辺りの地鶏の卵だ。色の濃い黄身はその味も濃くて、バターやチーズにも負けていない! なんだろう……黄身の甘みだろうか? ああ、ベーコンの脂の甘みもあるのかも! それから思い付きで乗せたトマト! 爽やかな酸味と火を通したことで出た甘みが、濃厚さを和らげて食べやすくしてくれている。
「我ながら美味しい……しつこすぎなくて、でも濃厚で……あーパンと合う~!」
鼻に抜けるバターとチーズの香りも本当に堪らない。あと胡桃の甘さと凄く合うのだ。塩気と甘みの相互作用……!
「銀、どう? ね、どう?」
銀は『サーモンとほうれん草のキッシュ』を先に食べたよう。ムグムグとただ無言で口を動かしている。
「……美味い。初めて食べたが……卵料理なのに玉子焼きとも茶わん蒸しとも違って……ああ、その両方の様な食感かもしれん。うん、うん。この……バターか、ほうれん草に染み込んでいて美味しいし、玉葱もだ。甘いな! うん、美味しい!」
ピッ、ピピっと嬉しそうに耳が動いているので、きっと本当に気に入ってもらえたのではないかな? 私は同じくガツガツと食べる子狐ちゃんたちを見て、自然と笑顔になる。
「くきゅ~ん! きゅん!」
「はふっ、はふン! きゅん!」
「きゅん!」の声につられてそちらを見ると、フワフワのちぎりパンを頬張っていた。そして私を見てもう一度鳴き、目を細めてくれた。
ああ、初めて作ったけど、フライパンのちぎりパンも美味しく出来たみたいだ! 良かった!
こわごわと一緒に新しい料理を作ってくれた竈神さんも、火花をキラキラと飛ばしてご機嫌だ。
「美味しいみたいでよかった!」
「こちらこそ。今日も美味しい食事をありがとう、美詞。――ところでパンをもう一枚くれないか? ちょっとトースターで焼いてみたい……」
銀は胡桃パンが気に入ったよう。そしてトースターの使い方もすっかり覚えたようで、尻尾をフリフリ、トースターにセットする。
「あ、銀。そのトースター結構強いから、二分で良いかも!」
「分かった。二分だな……よし、ではここで待とう」
お行儀が悪いが……と、銀は手に持っていた『チーズをたっぷりのベーコンとしめじのキッシュ』をその場でパクリ。
再び耳と尻尾をピピピッ! と揺らし、私を無言で見つめ、その金の瞳を「美味しい……!」と輝かせていた。
今日の朝食、大成功だ!
――これだけ喜んでくれたんだし、銀たちの『力』もだいぶ回復してきたんじゃないかな……?
「どう? 機械で作ったパンだけど、いい匂いでしょう!?」
食パン型の胡桃パンは六枚に切った。しかしこれだけでは子狐ちゃんたちの分が足りないので、アプリで見つけた『簡単フライパンで作るちぎりパン』というものも作ってみた。
一人では大変なので、一緒にアプリを見ながら台所の付喪神さんたちの手も借りたけどね。
「ああ、良い匂いだ。胡桃の香ばしい香りもするし……おお、ふっかふかだな!」
銀はパンに指を押し付け楽しんでいる。それを見た子狐たちも真似をして、ちぎりパンに手を――。
「あっ、まだ熱いよ!」
寸前でピタッと前足が止まった。これまでも様々な料理で痛い目を見たので、懲りたのだろう。学習してくれて何よりだ。
「はい、食べやすい大きさに千切るね。これもフーフーしてから食べるんだよ?」
「美詞、早くいただこう」
「はい!」
私はまず、チーズをたっぷり乗せた『ベーコンとしめじのキッシュ』に手を伸ばした。チーズの上には庭で自生していたバジルを乗せたので、赤いトマトに映えて狙い通りの彩りとなっている。
フォークで一口大に切ると、下のパイがサクッと音を立て、そしてチーズはトロォっと蕩けて芳醇な匂いを広げる。そして口へ入れると――。
「んー! 濃厚……!」
使った卵はこの辺りの地鶏の卵だ。色の濃い黄身はその味も濃くて、バターやチーズにも負けていない! なんだろう……黄身の甘みだろうか? ああ、ベーコンの脂の甘みもあるのかも! それから思い付きで乗せたトマト! 爽やかな酸味と火を通したことで出た甘みが、濃厚さを和らげて食べやすくしてくれている。
「我ながら美味しい……しつこすぎなくて、でも濃厚で……あーパンと合う~!」
鼻に抜けるバターとチーズの香りも本当に堪らない。あと胡桃の甘さと凄く合うのだ。塩気と甘みの相互作用……!
「銀、どう? ね、どう?」
銀は『サーモンとほうれん草のキッシュ』を先に食べたよう。ムグムグとただ無言で口を動かしている。
「……美味い。初めて食べたが……卵料理なのに玉子焼きとも茶わん蒸しとも違って……ああ、その両方の様な食感かもしれん。うん、うん。この……バターか、ほうれん草に染み込んでいて美味しいし、玉葱もだ。甘いな! うん、美味しい!」
ピッ、ピピっと嬉しそうに耳が動いているので、きっと本当に気に入ってもらえたのではないかな? 私は同じくガツガツと食べる子狐ちゃんたちを見て、自然と笑顔になる。
「くきゅ~ん! きゅん!」
「はふっ、はふン! きゅん!」
「きゅん!」の声につられてそちらを見ると、フワフワのちぎりパンを頬張っていた。そして私を見てもう一度鳴き、目を細めてくれた。
ああ、初めて作ったけど、フライパンのちぎりパンも美味しく出来たみたいだ! 良かった!
こわごわと一緒に新しい料理を作ってくれた竈神さんも、火花をキラキラと飛ばしてご機嫌だ。
「美味しいみたいでよかった!」
「こちらこそ。今日も美味しい食事をありがとう、美詞。――ところでパンをもう一枚くれないか? ちょっとトースターで焼いてみたい……」
銀は胡桃パンが気に入ったよう。そしてトースターの使い方もすっかり覚えたようで、尻尾をフリフリ、トースターにセットする。
「あ、銀。そのトースター結構強いから、二分で良いかも!」
「分かった。二分だな……よし、ではここで待とう」
お行儀が悪いが……と、銀は手に持っていた『チーズをたっぷりのベーコンとしめじのキッシュ』をその場でパクリ。
再び耳と尻尾をピピピッ! と揺らし、私を無言で見つめ、その金の瞳を「美味しい……!」と輝かせていた。
今日の朝食、大成功だ!
――これだけ喜んでくれたんだし、銀たちの『力』もだいぶ回復してきたんじゃないかな……?
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