大人にも学校は必要だ

上谷満丸

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第一章 大人に必要な学校

二人の密談

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 あれから笹川の奴とはお昼も一緒に食べなくなった。だが話を聞くと笹川の奴はいじめた方に問題があるという主張をしているグループで浮いているらしい。何故かを聞くと、

「だってあの子自己主張が激しくて皆で体験していることを共有しているのに一人で怒っているだもの。話し合いにもならないわ」

「最近の若い子は君も含めて不快だよ、なんで年長者の意見を無視するのかね?」

「あの子きらーい、だって自分が一番かわいそうじゃないと満足しないんじゃないの?」

 などなど色んな意見を聞けた。あいつが一人相撲状態で話をまとめるどころじゃないらしい。私のグループは大体方針は決まってきて、もう羽田に資料をパソコンで作ってもらっている段階だ。その中でも片瀬の奴の活躍は根覚ましい、何が凄いってあいつの語る自慢話を突き詰めていくとほとんどいじめじゃねえの? って内容ばかりでいじめられているほうにも問題がある症例を多く捻出できた、今回の隠れ功労賞だ。だがライバルであるはずのチームが全く進んでいないのは私としては肩透かしだ。余計なお世話だろうが、私を避けている彼女に話しかけなければいけないだろうと昼休みに探しているのだが……ん? あれは山藤さんか? ここらへんは空き教室のはずだが。

「何をしているん、おっと」

 スマホを取り出して山藤さんにメッセージを送る。

『こんにちわ、何をしているんですか?』

 メッセージに気づいた。山藤さんがタブレットを取り出しながら私を見る。悩んでいる顔で私にメッセージを送る。

『何もないと言ってもあなたは引き返しませんよね?』

『私は笹川を探しています。そしてあなた達が上手くいってないのも知っています』

『私達が上手くいってないことがあなたに関係があるのですか?』

『確かに関係ありません。しかし、友人をやめたつもりはありません』

『なるほど、今の彼女にあなたという存在は邪魔かもしれませんよ?』

『それでも話したい』

『わかりました。私ではどうしようもないので彼女をよろしくお願いします。彼女はこの先の空き教室で一人で昼を食べています』

 ペコリと頭を下げて教室を後にする、山藤さんも少し疲れているようだ。さてとこんな端っこで何をしているんだか、そっと教室を見ると教室の奥にある窓際の日差しが当たる席でサンドイッチを食べているようだった。まるで隅に追いやられた子供だ、どこかで見たことある光景だ。ああ、そうだな新牧。私は馬鹿だ、言葉を選んでいれば彼女にあんな姿をさせなかった。強い女性だと思っていた、だが彼女は……。

「隣いいか?」

 扉を開けると同時に声を掛ける。笹川が驚く、何かを言われる前に隣の席に腰掛ける。そして弁当を広げる。

「なっ何の用よ! 私と貴方は敵同士でしょう!」

「敵かどうかはさておき、友人が寂しく一人で食事しているのに声を掛けないわけにはいけないな」

 茫然としている。そして泣き始めた、お前なんかお前なんかと繰り返している。泣いている相手に私ができることは一つだけだった。母がしてくれた大丈夫だと頭を撫でること、だから私は笹川の頭に手を置く。

「大丈夫だ、大丈夫」

 撫で始めるとさらに泣き始めた。

「お前もこう言われたいんじゃないか? 

「なんでっ、なんでお前がそれを言うのよ! どうしてよりにもよってお前が!」

「お前の気持ちがわかるからだ、私も自分が悪くないと誰かに言って欲しかった…なあ聞いてくれないか? どうして私がいじめられた方にも問題があると思うようになったのか」

「……聞かせて」

 昼休みが終わっても私と笹川の話は終わらなかった。私は私の経験を笹川は笹川の経験を話していく、淡々と同情も憐憫もなく二人は話していく。そしてお互いの考えに至った理由を二人は納得はしないが理解する。
 そして今の状況を鑑みて私は話始める。

「なあ、笹川。誰が一番つらい目にあったとか誰にいじめの責任があるかどうでもいいと思いないか? お前の主張も言いたいことも理解できる。その主張を叫んで集まった人達はお前の求めたいた理解者ではなかった。何故だと思う?」

「わかんないのよ……どうしたいのか。何を求めているのかわからないのよ! 貴方は分かるっていうの?」

「わかる」

「――私は何を求めているの?」

「その答えをあと数日のディスカッションで教えてやる。だから」

 私は弱々しい笹川にあえてこう告げる。

「その日までにお前の欲しい答えを出してこい」

 そう言って茫然としていた、笹川を置いて教室を出る。そして外の待っていたのは羽田だった。ついて来いって感じで教室を離れる。

「ようサボり魔見つけるのに苦労したぜそれにしても敵に塩を送るとはウチらのボスは余裕だねもう勝ったようなものだからの余裕なのかい」

「勝ち負けじゃないからな」

 羽田がほうと私を見る。

「これは勝ち負けじゃないただの

「あっ、律! 探したよ。どこにもいないんだもの」

 優が手を振って……って、手に包帯を巻いているだが。

「お前! 手どうした!」

 優は慌てて手を隠して。

「なっなんでもないよ。僕の問題だから気にしないで」

「そうか? 本当に大丈夫なんだろうな?」

 まったくどいつもこいつも眼が離せないな……。そしてここからは私達のチームはいじめられた側に問題がある資料を羽田に完成させてもらって片瀬を生贄に割といい問題提起ができた。さあディスカッションが始まる。忘れもしない彼女との傍迷惑な仲直りが始まる。

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