闇堕ちモブは主人公クラスに上がるとはどういうこと?!

海うみ海

文字の大きさ
24 / 24

8-6・実家に帰省する馬車の中の子供の頃の思い出

しおりを挟む
朝になり、フィル医師とその助手、そして父と俺、ルファンが母の寝室に残っていた。
フィル医師が母を診た瞬間、その驚きようといったらなかった。
だがそれは当然だ。
俺たちも同じ反応をしたのだから。
父はフィル医師にいくつか質問され、光の精霊の気まぐれで「治癒の光」を施してくれた、とだけ伝えた。
まさか俺に精霊が宿ったとは、さすがに言えずに。
結果として母には何の異常もなく、完全に健康体だった。
その母が目覚めるのを、俺たちは静かに待っていた。
そして、その瞬間は訪れた。
母はゆっくりと瞼を開いた。

「ルージュ……」

父がボソッと母の名を呼ぶ。
母はゆっくりこちらに顔を向けた。

「あなた?……ルシェルにルファン……どうしたの?」

微笑む母に、父も珍しく微笑み返す。
その穏やかな空気に、俺たちもつられてほっと息をついた。

「ルージュ、実はな……」

父は、光の精霊が現れ治癒の光を施したという出来事を説明した。
その後、フィル医師が改めて母に、病気は完全に消え健康であることを丁寧に伝える。
すると、母は静かに涙を流した。
それは嬉しさと安堵の涙だった。
そして俺たちは、まるで小さい頃に戻ったかのように、仲睦まじい家族の空気を取り戻していた。

──そしてその後。
俺とルファンは父の執務室にいた。

「さて、ルファンも分かっているとは思うが」
「はい。兄上に天の光の精霊、セラフィムが宿った……ですよね?」
「そうだ。……ルシェルとルファンは知らないと思うが、歴代の獣人の中に二人だけ、魔法を使えた者がいた。そして現在もだ」
「まさか……?」

ルファンと同様、俺も自分の耳を疑った。

「これは、一部の権力ある獣人しか知らない事実だ」
「では、なぜ私たちに話すのですか?」
「それはルファン……六百年前の大昔だ。ひとりは勇者一行と共に戦った者……もうひとりは魔王になりかけた者だ」
「その話、本当なのですか……?」
「信じがたいだろうが、事実だ」

ルファンと俺は思わず視線を交わした。
俺はゲームの中で、自分が闇魔法を使えるようになるのを知っていた。
だがまさか、獣人の中に本当に魔法を使えた者がいたとは、正直驚きを隠せなかった。

「そして今、ルシェルに宿った精霊が千年の命を与えた……これは獣王様に報告するつもりだ。なにせ獣王様も魔法が使えるからな」

父の言葉に、今度は本気で耳を疑った。
獣王様が魔法を使えるなんて、聞いたことがない。
歴代の獣王は皆、ライオンの一族。
そして現在の獣王様は、二十七代目の黒いライオン「オルドリック・レイヴンクレスト」様だ。

「父上、獣王様は何の魔法をお使いになるのですか?」
「……風と火魔法だ」

まさかの2属性。
俺もルファンも思わず目を見張った。
その反応に父はふぅと息を吐き、無理もないという表情をする。

「よりによって光の精霊が宿ったとなると……ルシェルにはアストラル・アカデミーに入学してもらう」

「それは……!」
「大丈夫だ。獣王様も通われたことがある」
「でも、なぜ獣王様が魔法を使えることを知る者が少ないのです?」
「それは、全生徒の記憶をアストラル・アカデミーの校長が消しているからだ」
「……それは、私たちが知っていいことなのでしょうか?」

ルファンの疑問に、確かにそうだと俺も思った。

「もうルシェルに光の精霊が宿った以上、隠しても仕方あるまい」

父の言葉はもっともだった。

その後、俺とルファン、父の3人で長時間話し合った。
どれほど時間が経ったのか分からないほどだった。
あまりにも長くなったため、執事長が呼びに来て、俺たちは久しぶりに母を含めた4人で夕食を囲んだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

変態しかいない世界に神子召喚されてしまった!?

ミクリ21
BL
変態しかいない世界に神子召喚をされた宮本 タモツ。 タモツは神子として、なんとか頑張っていけるのか!? 変態に栄光あれ!!

【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ
BL
 神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。  硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!  設定はふんわりしております。 少し痛々しい。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...