【R18.BL】愛月撤灯

麦飯 太郎

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3.成長

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 双子の湖の神の名前は、黒目の子が大和、赤目の子は暁と名付けた。
 六花には、自分達の名前と比較して仰々しいなぁと笑われてしまったけれど、誰も反対することはなく、あっさりと命名式を終えることが出来た。
 複雑な想いはあるけれど、蓮が産みだした初めての神達だ。この美しい日本という国の礎である大和、そして日出ずる国としての誇りである暁。赤子を世話しながら考えていたら、その名が一番しっくりきたのだ。
 正直なところ、最初から蓮の子供達である証のように思っている〝花〟は使いたくなかった。それと〝月〟は天狗一族の由緒ある名に付けられると聞いていたので、それも除外した。
 名をつけて、日々忙しく過ごしていたが、赤子たちはあっという間に大きくなっていった。
 本当に……あっという間に。
 六花とハルトが頻繁に手伝いに来てくれていたし、それに忙しい時などはこちらから六花の家に預けたりもした。
 そんな二ヶ月程で、彼らは……歩くどころではなく、五歳くらいの子供になっていたのだ。
 銀花のようにゆっくりと成長すると思っていたので、本当に赤子の世話だけで寝る時間も無かったのは最初の二週間ほど。それからは夜はしっかり寝るし、昼寝もするので比較的手が離れ、息付く暇ができた。
 しかし、問題はひと月過ぎた三歳児頃からだった。
 彼らは非常に活発で、かつての六花を凌ぐほどの行動力と、天花並の知識欲が出てきたからだ。振り返ればいない、いてもずっと隣で疑問を投げかけたり、話し続けているのだ。
 ちょっとこちらが考え事をして聞いていないと、「ふうかさん、きいてましたか?」と言われる始末。正直、赤子のまま寝てくれていた方がよっぽど楽だ……。
 それでも、六花やハルトの海外話や二人と遊んでくれていた時はマシだった。が、それも先日終了してしまった。
 六花とハルトが海外出張に行ってしまったのだ。
 二人から、今年は行かなくても大丈夫だと言われたけれど、こちらの都合でハルトの仕事に迷惑をかけることは出来ない。出発のその日まで、ハルトは大丈夫かと何度も聞いてきたけれど、笑って背中を押して車に押し込んだのだ。

(大丈夫かと言われたら、大丈夫では、ない!!)

 双子は遊び相手がいなくなってしまい、風花の傍を離れなくなっていた。

「ふうかさん、見てください!! さかなとりました!!」
「大和、凄いじゃん! 夕食にしたら蓮様が喜ぶぞ」

 三月初め、例年ならば雪がまだ残っているけれど、今年の春は暖かくこんもりと積もった雪は早々に溶けはじめ、今日は山菜を採りに山に登っていた。
 雪解け水が流れる川は冷たいだろうけれど、湖の神である双子は何も気にせずじゃぶじゃぶと水遊びをしている。

「やまとだけほめてずるい!! ふーちゃん、オレもほめて!!」
「いや、暁は何もしてないどころか、着物ぐっちゃぐちゃだからな?」
「むー!! やまとよりおおきなさかなとる!!」
「がんばれー」

 双子だけれど、何故か大和は天花のように丁寧な口調に、暁は砕けた口調に……それは自身のせいかもしれないと思いながら、山菜を採る。
 双子のことや、屋敷のこと、考えているうちに、フキノトウやコゴミ、ゼンマイ等が三日程の十分な量が採れた。

「ふぅ、こんなもんかな……」

 山菜がいっぱいになった籠を手にして立ち上がる。周囲を見渡したが、双子の姿は見えず声も聞こえない。
 またどこかで遊んでいるのだろうとため息を吐き、歩き出した。

「おーい、帰るぞー」

 しばらく声をかけながら歩き、湖近くに辿り着く。すると湖の中央がぶくぶくと泡立っている。
 きっと双子が遊んでいるのだろうと、石に腰かけ籠を地面に置く。様子を見ていると大きな波音と共に暁が顔を出した。

「――!! ふーちゃん!! 大変だ!!」
「暁!! どうした!?」

 切羽詰まった声色に驚き立ち上がった。

「やまとが!! やまとが!!」

 ただ事ではないと、着物を脱ぎ捨て長襦袢のまま湖に飛び込む。子供の頃から遊び尽くした湖だ。底の地形も全て把握している。
 が、今何が起こっているのか分からず、心臓が絞られるように苦しい。
 湖の神ならば溺れることはないだろう……しかし、それは何事も無ければだ。こんな安全な蓮の御膝元の山で何もあるはずがない……それも、何事も無ければ……。
 完璧は無い。
 潜水しながら湖の底を見渡す。すると、暁が出てきた場所の湖底に何かが蠢いているのが見えた。

「!?」

 その場所には大和が……何か大きな物を引っ張り出そうとしているようだ。その大きな物は、生き物……犬だ。見た目は柴犬の子犬のようだけれど五歳児並の大和より遥かに大きい。
 近付き、大和の手を取り、犬を抱える。

「ふうかさん!! 犬が!! 溺れて!!」
(――!? 二人は湖の中でも話せるのか!)

 術を使えば自分にも出来なくないが、膜も無く地上と同じように話す二人の新たな事実に驚きつつ、両脇に抱えて水面へ上がる。すると、暁が泣きそうになりながら大丈夫かと何度も問いかけてきた。
 しかし、それに答える暇がない。
 沿岸まで急いで泳ぎ、犬を横にし水を吐かせる。ぐったりとしたままだけれど、息は戻りどうやら一命は取り留めたようだ。

「肺に水が入ってるかもしれないから、暫くは屋敷で様子を見よう」
「よかった、よかったよぉー」
「何が良かっただ!! たまたま俺が来てたから良かったものの、二人で溺れたらどうするつもりだったんだ!? 危険なことはするなとあれほど言っておいただろう!? 何かあったら俺を呼べと何度言ったらわかるんだ!!」
「お、おぼれないもん……」
「溺れないかもしれない。神なら死なないかもしれない。それでも、怪我はするし苦しくなる!!」
「「ふぇ、ふぇぇ、ふぇぇぇぇん!!」」

 二人が大泣きしだした時、背後の気配に気付き振り向いた。

「風花さん、どうされました?」
「蓮様」
「おやおや、三人ともビショ濡れじゃないですか。今日は早めにお風呂にしようと思って、恭吾さんが今沸かしてくれて……おや? その子は?」

 風花の後ろで横たわる犬に気付いた蓮が、首を傾げる。

「この犬が溺れていたので、双子が助けようとしたそうです。それを俺が大和が溺れたと勘違いして……」
「そうでしたか。ならその子も屋敷に運びましょう。大和さん、暁さん、歩けますか?」

 シュンと項垂れた二人は小さく頷いた。それを見て微笑んだ蓮は、こちらが湖に入るために脱ぎ捨てた着物を拾い、山菜の入った籠を抱えた。

「風花さん、その子を屋敷までお願いします」
「はい」

 意識を失っている犬はずっしりと重く、屋敷までの距離がいつもの数倍長く感じられた。


 屋敷に戻ると、恭吾が玄関に犬を拭う布を用意してくれていた。更に、犬を預かるから三人で風呂に入って来いと言われたので、言葉に甘えて浴室へ双子を放り込み石鹸で全身を洗い流して湯船に浸からせる。
 自身も洗い流して湯船に入ると、思わず長い息が漏れた。

「ふうかさん、ごめんなさい」
「ごめん、ふーちゃん」

 普段ならば、風呂の度に大騒ぎする双子が大人しく浸かってこちらを見ている。その様子に、思わず軽く微笑んで二人の頭を撫でた。

「いいよ。ただ、本当に無理はするなよ? 心配するから」
「しんぱいするんですか?」
「あぁ。当たり前だろ?」

 すると二人は互いをじっと見つめ、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

「ふーちゃん、だいすき!!」
「そりゃどうも」
「ふうかさんがいちばんきれいです!!」
「はぁ? 綺麗なのは蓮様だろ? あとは、ハルトも綺麗な感じか。天花も綺麗になったよなぁ」
「おさんかたもきれいですけど、いちばんはふうかさんです。ドキドキしてしまいます」

 思わず何言ってんだと口に出そうになったが、綺麗と言われて嬉しくないわけじゃない。敢えて何も言わずにいると、信じてないと思ったらしく二人はやたら褒め言葉を口にし始めた。

「きれい、だいすき、やさしい、かっこよくてかわいい、おりょうりじょうず、ドキドキする、いつもしょにいたい」

 様々な言葉で褒められているが……。

「ははっ、何だか口説かれてるみたいだな」

 思わず笑いながら言うと、二人は顔を真っ赤にして湯に頭まで浸ってしまった。

(……そのつもりは無かったんだろうな)

 知っている言葉を並べただけなのだろうけれど、なんだか嬉しくなってしまい、三人で逆上せるまで湯の中で遊んでしまったのだった。
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