【R18】雨乞い乙女は龍神に身を捧げて愛を得る

麦飯 太郎

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湖へ

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 走り続け、息が切れて汗が吹き出す頃……ようやくおとめは男衆に追いついた。
 といっても、ウメは既に身体の半分を湖に沈めている。……いや、男衆に引っ張られ、無理矢理沈めようとされていた。

「ウメ!!」

 その声に全員が振り向くが、おとめは脇目も振らず湖に入ってウメに駆け寄った。

「おとめ姉ちゃん!!」
「ウメ!! 大丈夫!?」
「うんうん!!」

 頷きはするものの、ウメの目は酷いくらいに腫れ、声はガラガラだ。きっと嫌がり泣いて叫んで助けを求めたに違いない。そう思うと、苦しくなりこの汚い風習に苦虫を噛み潰したような気分になった。

「ごるぁ!! おとめ!! なにしてんじゃ!!」
「何してるかってこっちの台詞だよ!! ウメは十になったばかりの子供だよ!! 何考えてんの!!」
「ならてめぇがこの日照りをどうにかできんのか!! もう純潔でもない外混じりのお前が!!」

 純潔は捧げたので良いとしても、やはりまだ外国の血が流れていることに嫌悪を感じている大人は多い。それも男に多いのは、自分達の家に見目が違う人間を入れることを嫌うからだろう。
 それをおとめも知ってはいたが……言われなくなって何年も経つので、もう気にしていないと思っていた。
 だが、こうしたふとした瞬間に人間の本性というものは現れるのだろう。
 唇を噛み、男衆を睨む。

「できる。私が龍神様に頼むから。――三日。三日待って、雨が降らなかったら儀式を続けて」
「おとめ姉ちゃん……」

 自分の代わりにおとめが再び贄になることの罪悪感、そして、それが失敗すればまた自分が贄にならなければいけないという複雑な感情をウメは隠せていない。
 十の子供なら当たり前だ。
 おとめはその素直な隠し事のない子供の素直な瞳が好きだ。
 そっとウメを抱き締めて、水の中で打掛だけを脱がして受け取り、自分で羽織る。
 古い着物に高級な打掛では、チグハグ感は否めないけれど、それでも着物だけより幾分かマシだろう。

「大丈夫よ。ウメ。龍神様は非道な方じゃないから」

 にこりと笑って伝えた言葉は本心だ。龍神のあの人柄ならば、話せば伝わるはずだ。
 おとめはもう一度男衆に顔を向ける。

「この三日で日照りの対策でも考えていたら? それも男衆の役目なんでしょ?」

 そう言葉を吐いてから、一気に湖に進み自ら頭まで水に浸けて泳ぐように底を目指した。




 打掛を受け取ったのは、見た目もあるけれど、重石を付けるのを忘れてしまったので、少しでも重荷になるだろうと考えたからだった。
 そしてそれが良かったらしく、水を含んだ打掛によっておとめの身体が沈み始めると、すぐにフワリと身体が空中を落ちる感覚がした。
 二度目なので、おとめはすぐに瞼を開いて周囲を見る。

「大正解!! ――でも、高い!!」

 きっとまた龍神の庭に落ちるだろうという予測通り、おとめの身体が見たことのある龍神の屋敷にめがけて落ちていく。
 ただ、とても高い。村で一番大きな村長の屋敷の屋根や、木登りの比ではない。このまま着地すれば、死にはしなくとも骨折は免れないだろう。
 せめて、打掛で衝撃を和らげられないかと考えていると、下で影が動いた。

「――おとめ!!!!」
「――龍神様!!」

 両手を広げた龍神に、おとめは飛び込むように自らも手を広げる。

「わぁッ――っとと」

 抱きとめられ、おとめは顔を上げようとしたけれど、龍神に強く頭を抱えられてしまった。

「なんて無茶をするんだ!! 落ちたら死ぬかも知れんのだぞ!!」

 どうやら、再びおとめが来たことには怒っていないようなのでホッと息を吐く。

「ごめんなさい。こんなに高いと思わなくて……」
「はぁー……。よい。こちらが出遅れただけだ」

 抱き締められ、ピタリと付いた龍神の胸はどくどくと鼓動が早い。それを抑えるように、龍神はゆっくりとおとめの頭を撫でてから顔を覗き込んできた。

「何しに来た? ……と言わなくとも……か」

 おとめの打掛を見て、龍神は察したように目を細めた。その眼差しが少し悲しさを孕んでいたので、おとめは思わず龍神の頬を撫でた。

「ごめんなさい……」
「いや、俺は龍神だからな。求められるのはそれだろう」
「あの、でもっ!」
「よい。しかし、今日はしっかり着込んでいるわけではないのだな。化粧もしていないようだ」

 本当は龍神を求めていたと言いたいのに、それに言葉を被されしまい、おとめは機会を失ってしまった。だが、それを龍神に伝えたところで困らせてしまうと思い、龍神の頬に当てていた手を下げて敢えてニコリと笑った。

「急いでいて……必要なら化粧も着物もちゃんとしてきます」
「いや、そのままで良い。それがおとめの本来の格好なのだろう? それに――」

 今度は龍神がおとめの頬に触れる。スルリと撫でるその指先は、男の指の硬さなのにしっとりとして優しく感じた。

「おとめはそのままが美しい」
「うっ――あ、ありがとうございます」

 おとめは自らの頬が紅潮するのを抑えられず、俯いて返事をする。すると龍神は、その指先を髪に絡ませながら 本心だ と言ってくれた。
 まともに交際をしたことがないおとめには、とても甘美な囁きに溶けてしまうような心地だ。

「雨は……あまり持たなかったか?」

 申し訳なさそうな龍神の声色に、おとめは思わず顔を上げた。

「いえ! 一週間ほどは降ったりやんだりでしました。でも……」
「それほどまでに日照りが酷いのか」
「――はい。暑さも加わり、以前より酷く……田畑もヒビが入り……」
「そうか。この山には水があるが、それは里までは流れぬからな……」

 確かに、この山には龍神の湖以外にも小さな沼もある。だが、その水量は村までひけるものではない。
 それに、ひいたとしても田畑を潤すには不足するし、その後の山の恵みがなくなる可能性を考えるとその行為は村にとっては自殺行為に等しい。
 山の恵みがあるからこそ、村は平穏なのだ。
 おとめもそれを知っているので、再び視線を落としそうになったが、堪えてしっかりと龍神を見つめた。

「あの私を……もう一度、抱いてもらえませんか?」
「…………」

 その言葉を察していたはずの龍神は、少しだけ間を置いてから……ゆっくりと頷いてくれた。
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