イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

第60話 家族の話と銀治の決意

　ギルドマスターの提案が頭をよぎり、俺は腕を組んで真剣に考え込んでいた。正直なところ、今は狭いアパート暮らしであり、自分の部屋なんてない。それが一番の不満だ。
　俺はまだ良いが、弟が不憫だ。

　そんな俺の耳元に、ふいに「ふーっ」と息が吹きかけられる。
「ひゃいっ！」と驚いて飛び上がると、すぐ隣で浅香が大笑いした。

「先輩の反応面白いよ！」

「浅香！なにやってんだ！」

　声を荒げるが、浅香は悪びれる様子もなくケラケラと笑っている。

　その様子を横目に見ながら、弘美が不思議そうに問いかけてきた。

「先輩、アパート暮らしって・・・家族と一緒に住んでるんですか？」

　なぜか答える前に友理奈が口を挟む。

「母親と弟さんと３人暮らしよ。」

「え、なんで知ってるんですか？」と浅香が目を丸くする。

　弘美がさらに質問を重ねてきた。

「お父さんは単身赴任か何かですか？」

　俺は少し言葉を詰まらせながら答える。
「いや・・・父親は自衛隊員で、ダンジョンの初期探索に携わってた。だけど・・・」

　言葉を区切りながら、俺は続けた。
「ダンジョンを破壊しようとした時、ダンジョンと一緒に行方不明になったんだ。まだ世界中で、コアを抜き取るんじゃなくて破壊を試みてた時期でさ。どうなるかわかってなくて、一人の隊員を逃がすのが精一杯だったって聞いてる。」

　３人は静まり返り、重い空気が漂った。俺はさらに言葉を紡ぐ。
「行方不明だから死亡扱いにはならなくてさ・・・だから住宅ローンも消えなかった。払えなくなって、無理も祟り家を手放すしかなかったんだ。」

　重苦しい沈黙が訪れた。頼むから誰か何か言ってよ・・そんな空気に耐えられなくなったのか、ギルドマスターが発した一言で空気が変わる。

　その重い空気を壊したのはギルドマスターだった。

「まあ、年頃の男子にはな、一人になれる部屋が必要なんだよ。」

　その瞬間、水木さんが間髪入れずにバインダーでギルドマスターの頭を叩いた。

「またそんなことを言って！」

「いやいや、これでも俺はギルドの長だぞ、少しは敬え！」とギルドマスターが抗議するが、水木さんは容赦しない。

　するとギルドマスターは俺を見ながらニヤリと笑い、とんでもないことを口走る。

「まあ、そんだけ稼げたら３人くらい養えるだろうよ。」

　その言葉に、友理奈、浅香、弘美が一斉に顔を真っ赤にして固まった。

「ちょっ、ギルドマスター、何言ってるんですか！」


「勘違いすんな！」

　俺が慌てると、ギルドマスターは勘違いすんなと睨むと話を続ける。

「さすがに俺もこの3人くらい養えるなんて行ってないぞ。母親と弟さん、それから結婚相手くらい養える稼ぎがあるのは確かだろ？優良物件じゃないか。」

　その瞬間、水木さんがまたバインダーを振り上げたが、ギルドマスターが笑いながら受け止めた。

　「少し話をします」

　その場の空気に耐えきれなくなったのか、友理奈がと言いながら俺の腕を引っ張って部屋の隅へ連れて行く。

「・・・銀治、さっきの話、重かったわね。」

「ああ・・・だけど、もう過去のことだよ。」

　そう言いながらも心の奥で何かが引っかかっており、俺はふと呟いた。

「ギルドマスターじゃないけど、やっぱり家が欲しいな。」

　友理奈は少し驚いたようだったが、優しく微笑む。

「それが銀治の目標なら、応援するわ。」

　その言葉に背中を押される形で、俺は水木さんに頼むことを決意した。

「水木さん、不動産屋の仲介、お願いします。」

　水木さんは頷き笑顔を向けた。

「もちろんです。市河様にぴったりな物件を見つけましょう。」

　こうして、俺の家探しが始まることになった。