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第71話 見知らぬ故郷
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光の奔流が、俺たちの身体を通り過ぎていく。
浮遊感。そして、全身を包む、温かい風の感触。
俺は固く閉じていた目を開けた。
最初に目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる、抜けるような青空だった。
土の匂い。草いきれ(注)。そして、肌を撫でる、太陽の光。
俺たちは、森の中に立っていた。
注)草いきれ:夏の草があつくなって、むわっと立ちのぼるにおい。
「…そ、外…」
隣で、雫が呆然と呟く。彼女の頬を、一筋の涙が伝った。
俺も、同じ気持ちだった。
一ヶ月以上、俺は二ヶ月の間、見ることのなかった本物の太陽。その温かさが心の芯まで染み渡っていくようだ。
俺たちの背後で、光り輝いていた菱形のゲートが、音もなく消滅する。
もう、戻ることはできない。
「さて、まずは・・・おてんとうさま!だあああああああ!うおおおおおお!」
俺は一吠えすると、感傷を振り払うようにパン、と両手を叩いた。
「こほん、問題はここがどこか、だが・・・」
その俺の言葉に、隣にいた爺さんが懐かしそうに目を細めていた。
彼は、自分がリッチとして覚醒する前の記憶を、はっきりと保持しているようだった。
「この森…そして、この太陽の傾き。遠くに見える山脈の形、間違いあるまい」
彼は、一本の骨の指で、森の向こうを指差した。
「この方角じゃ。半日も歩けば、わしが昔住んでお'った街、『アークライト』に着くはずじゃ」
「本当か、爺さん!」
「ああ。わしが眠りについてから、せいぜい数年しか経っておらんはず。街の場所が変わるはずもなかろう」
その、あまりにも頼もしい言葉に、俺と雫の顔に希望が浮かぶ。
道しるべがある。目的地がある。
それだけで、この見知らぬ世界が、少しだけ身近なものに感じられた。
俺たちは、爺さんを先頭に、森の中を進み始めた。
雫は、初めて見る異世界の草花に目を輝かせ、俺は、索敵で周囲の警戒を怠らない。
歩き始めて数時間。
先頭を歩いていた爺さんが、ぴたり、と足を止めた。
「…おかしいのう」
彼は、首を傾げ、周囲の景色を何度も見渡している。
「この辺りには、確かに小川が流れとった。街道があったはずの場所も、ただの獣道になっておるが…まあ、数年もすれば、これくらいは変わるか…」
どこか自分を納得させるように呟いている。
その、爺さんの小さな不安は、杞憂に終わった、かに思えた。
歩き始めてちょうど半日が経った頃。
俺たちの目の前に、それは姿を現した。
森が途切れ、視界が開ける。
そこには、高い城壁に囲まれた、大きな街があった。石畳の道、レンガ造りの家々。間違いなく、文明の光だ。
「おお!あれがアークライトか!」
俺が歓声を上げる。
だが爺さんは、その街を、信じられないものを見るような目で、ただ呆然と見つめていた。
そして、震える声で、呟いた。
「…違う」
「え?」
「あれは…あれは、アークライトではない」
彼の声は、確信に満ちていた。
「わしの知るアークライトは、木造の大きな門と、街の中心に美しい時計塔があったはずじゃ…。あんな、石とレンガで固めたような、無骨な要塞ではなかった…!」
俺たちがたどり着いた街は、確かにそこにあった。
だが、それは、爺さんの記憶の中にある故郷とは、似ても似つかぬ、全く別の貌(かお)をしていた。
「あれは…みたこともない街じゃ…?道を間違えたか?」
俺たちの目の前には、新たな、そして、より大きな謎が、立ちはだかっていた。わ
浮遊感。そして、全身を包む、温かい風の感触。
俺は固く閉じていた目を開けた。
最初に目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる、抜けるような青空だった。
土の匂い。草いきれ(注)。そして、肌を撫でる、太陽の光。
俺たちは、森の中に立っていた。
注)草いきれ:夏の草があつくなって、むわっと立ちのぼるにおい。
「…そ、外…」
隣で、雫が呆然と呟く。彼女の頬を、一筋の涙が伝った。
俺も、同じ気持ちだった。
一ヶ月以上、俺は二ヶ月の間、見ることのなかった本物の太陽。その温かさが心の芯まで染み渡っていくようだ。
俺たちの背後で、光り輝いていた菱形のゲートが、音もなく消滅する。
もう、戻ることはできない。
「さて、まずは・・・おてんとうさま!だあああああああ!うおおおおおお!」
俺は一吠えすると、感傷を振り払うようにパン、と両手を叩いた。
「こほん、問題はここがどこか、だが・・・」
その俺の言葉に、隣にいた爺さんが懐かしそうに目を細めていた。
彼は、自分がリッチとして覚醒する前の記憶を、はっきりと保持しているようだった。
「この森…そして、この太陽の傾き。遠くに見える山脈の形、間違いあるまい」
彼は、一本の骨の指で、森の向こうを指差した。
「この方角じゃ。半日も歩けば、わしが昔住んでお'った街、『アークライト』に着くはずじゃ」
「本当か、爺さん!」
「ああ。わしが眠りについてから、せいぜい数年しか経っておらんはず。街の場所が変わるはずもなかろう」
その、あまりにも頼もしい言葉に、俺と雫の顔に希望が浮かぶ。
道しるべがある。目的地がある。
それだけで、この見知らぬ世界が、少しだけ身近なものに感じられた。
俺たちは、爺さんを先頭に、森の中を進み始めた。
雫は、初めて見る異世界の草花に目を輝かせ、俺は、索敵で周囲の警戒を怠らない。
歩き始めて数時間。
先頭を歩いていた爺さんが、ぴたり、と足を止めた。
「…おかしいのう」
彼は、首を傾げ、周囲の景色を何度も見渡している。
「この辺りには、確かに小川が流れとった。街道があったはずの場所も、ただの獣道になっておるが…まあ、数年もすれば、これくらいは変わるか…」
どこか自分を納得させるように呟いている。
その、爺さんの小さな不安は、杞憂に終わった、かに思えた。
歩き始めてちょうど半日が経った頃。
俺たちの目の前に、それは姿を現した。
森が途切れ、視界が開ける。
そこには、高い城壁に囲まれた、大きな街があった。石畳の道、レンガ造りの家々。間違いなく、文明の光だ。
「おお!あれがアークライトか!」
俺が歓声を上げる。
だが爺さんは、その街を、信じられないものを見るような目で、ただ呆然と見つめていた。
そして、震える声で、呟いた。
「…違う」
「え?」
「あれは…あれは、アークライトではない」
彼の声は、確信に満ちていた。
「わしの知るアークライトは、木造の大きな門と、街の中心に美しい時計塔があったはずじゃ…。あんな、石とレンガで固めたような、無骨な要塞ではなかった…!」
俺たちがたどり着いた街は、確かにそこにあった。
だが、それは、爺さんの記憶の中にある故郷とは、似ても似つかぬ、全く別の貌(かお)をしていた。
「あれは…みたこともない街じゃ…?道を間違えたか?」
俺たちの目の前には、新たな、そして、より大きな謎が、立ちはだかっていた。わ
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