7 / 83
第7話 話恐怖からの共犯者
しおりを挟む
二体目のオーガが、一体目と同じように声もなく崩れ落ちる。
静寂が戻った岸辺で、ディノッゾは血と脂の付着した槍を握りしめたまま、呆然と立ち尽くしていた。聞こえるのは自分とメイドの少女の息遣い、川から聞こえる水流のみ。
隣に座り込んだメイドの少女も、同様に茫然自失の表情でうつむいている。オーガの返り血が二人をさらに生々しく汚していた。
「流石にSランクパーティーが持ってた槍だ。すごいな」
彼は手に持った槍を眺め、かろうじてそれだけの言葉を絞り出した。自分の力がどうこうよりも、まずは道具の性能を褒めることで、このあり得ない現実を何とか受け入れようとしていた。
だが、そんな自己欺瞞も、鼻をつく生臭い血の匂いと、そして、それとは別のアンモニア臭に打ち砕かれる。
服はびしょ濡れだ。川に落ちたからだけではない。自分も、そして隣の少女も、恐怖のあまり、あの、屈辱的な粗相をしてしまっていた。
(ある意味非常にまずいな・・・)
ディノッゾは、かろうじて働いていた思考を現実に戻す。
やるべきことは二つ。一つは魔石を抜くことだ。オーガほどの大型魔物は、放置すれば一時間もしないうちにアンデッド化する危険がある。この世界の者なら子供でも知っている事実だ。
もう一つは、ここから離れること。血の匂いに誘われて、すぐに別の魔物が寄ってくるだろう。
そして、魔物のこと以外のもう一つ「清算」があった。
ディノッゾはまだぼんやりとした様子の少女に視線を向けると、意を決してオーガの死体に向かっていった。一度もやったことのない魔物の解体。だが、手に持つ槍はまさに業物で、硬い皮膚も分厚い筋肉も、驚くほど容易に切り裂いていく。
うつ伏せに倒れていたオーガの巨体を、なぜか片手で軽々と仰向けにできたことに内心で驚きながらも、今は気にしないことにした。
魔物の死体は軽くなるのかな?
巨大な胸を切り裂き、腕を突っ込むと魔石があった。
意を決して握ると一気に魔石を抜き取り、手の中の淡く光るそれを支給品の小さな鞄のポケットに押し込む。
「ふう・・・」
一仕事終え、槍を背中に背負うと、ディノッゾは少女に近づいた。傷つけないよう、そっとその体を横抱きにする。お姫様抱っこ、などという洒落たものではない。ただの荷物のように。しかし、その扱いは驚くほど優しかった。
「よし、川に行くぞ」
彼は少女を抱いたまま、再び川へと入っていく。服を着たまま、二人して首まで水に浸かった。冷たい水が、全身の汚れと、あの匂いを洗い流してくれる。ディノッゾは、特に下半身を念入りに洗った。
少女の体を支えながら、彼は気まずそうに、しかし真剣な目で語りかけた。
「いいかい、嬢ちゃん、いやリリアだったよ?さっき俺たちは、オーガの返り血を浴びちまった。だから今は血を洗い流すために川に入っているんだ。決して臭いの・・・あれのせいじゃない。いいな?」
少女は、まだ少し虚ろな目をしながらも、その言葉の意味を正確に理解したのか、こくりと小さく首を縦に振った。
その瞬間、二人はただの生存者と被保護者から、一つの秘密を共有する【共犯者】になった。
しばらく川の中に留まり、十分体が清められたことを確認すると、ディノッゾは少女を抱いたまま、激流を避けるように少しだけ下流へと歩を進め、再び岸に上がった。
ここから、彼らの本当の旅が始まるのだ。
静寂が戻った岸辺で、ディノッゾは血と脂の付着した槍を握りしめたまま、呆然と立ち尽くしていた。聞こえるのは自分とメイドの少女の息遣い、川から聞こえる水流のみ。
隣に座り込んだメイドの少女も、同様に茫然自失の表情でうつむいている。オーガの返り血が二人をさらに生々しく汚していた。
「流石にSランクパーティーが持ってた槍だ。すごいな」
彼は手に持った槍を眺め、かろうじてそれだけの言葉を絞り出した。自分の力がどうこうよりも、まずは道具の性能を褒めることで、このあり得ない現実を何とか受け入れようとしていた。
だが、そんな自己欺瞞も、鼻をつく生臭い血の匂いと、そして、それとは別のアンモニア臭に打ち砕かれる。
服はびしょ濡れだ。川に落ちたからだけではない。自分も、そして隣の少女も、恐怖のあまり、あの、屈辱的な粗相をしてしまっていた。
(ある意味非常にまずいな・・・)
ディノッゾは、かろうじて働いていた思考を現実に戻す。
やるべきことは二つ。一つは魔石を抜くことだ。オーガほどの大型魔物は、放置すれば一時間もしないうちにアンデッド化する危険がある。この世界の者なら子供でも知っている事実だ。
もう一つは、ここから離れること。血の匂いに誘われて、すぐに別の魔物が寄ってくるだろう。
そして、魔物のこと以外のもう一つ「清算」があった。
ディノッゾはまだぼんやりとした様子の少女に視線を向けると、意を決してオーガの死体に向かっていった。一度もやったことのない魔物の解体。だが、手に持つ槍はまさに業物で、硬い皮膚も分厚い筋肉も、驚くほど容易に切り裂いていく。
うつ伏せに倒れていたオーガの巨体を、なぜか片手で軽々と仰向けにできたことに内心で驚きながらも、今は気にしないことにした。
魔物の死体は軽くなるのかな?
巨大な胸を切り裂き、腕を突っ込むと魔石があった。
意を決して握ると一気に魔石を抜き取り、手の中の淡く光るそれを支給品の小さな鞄のポケットに押し込む。
「ふう・・・」
一仕事終え、槍を背中に背負うと、ディノッゾは少女に近づいた。傷つけないよう、そっとその体を横抱きにする。お姫様抱っこ、などという洒落たものではない。ただの荷物のように。しかし、その扱いは驚くほど優しかった。
「よし、川に行くぞ」
彼は少女を抱いたまま、再び川へと入っていく。服を着たまま、二人して首まで水に浸かった。冷たい水が、全身の汚れと、あの匂いを洗い流してくれる。ディノッゾは、特に下半身を念入りに洗った。
少女の体を支えながら、彼は気まずそうに、しかし真剣な目で語りかけた。
「いいかい、嬢ちゃん、いやリリアだったよ?さっき俺たちは、オーガの返り血を浴びちまった。だから今は血を洗い流すために川に入っているんだ。決して臭いの・・・あれのせいじゃない。いいな?」
少女は、まだ少し虚ろな目をしながらも、その言葉の意味を正確に理解したのか、こくりと小さく首を縦に振った。
その瞬間、二人はただの生存者と被保護者から、一つの秘密を共有する【共犯者】になった。
しばらく川の中に留まり、十分体が清められたことを確認すると、ディノッゾは少女を抱いたまま、激流を避けるように少しだけ下流へと歩を進め、再び岸に上がった。
ここから、彼らの本当の旅が始まるのだ。
92
あなたにおすすめの小説
異世界転移魔方陣をネットオークションで買って行ってみたら、魔王軍と戦うはめになった!
蛇崩 通
ファンタジー
ネットオークションに、異世界転移魔方陣が出品されていた。
三千円で。
二枚入り。
手製のガイドブック『異世界の歩き方』付き。
ガイドブックには、異世界会話集も収録。
出品商品の説明文には、「魔力が充分にあれば、異世界に行けます」とあった。
おもしろそうなので、買ってみた。
使ってみた。
帰れなくなった。日本に。
魔力切れのようだ。
しかたがないので、異世界で魔法の勉強をすることにした。
それなのに……
気がついたら、魔王軍と戦うことに。
はたして、日本に無事戻れるのか?
<第1章の主な内容>
王立魔法学園南校で授業を受けていたら、クラスまるごと徴兵されてしまった。
魔王軍が、王都まで迫ったからだ。
同じクラスは、女生徒ばかり。
毒薔薇姫、毒蛇姫、サソリ姫など、毒はあるけど魔法はからっきしの美少女ばかり。
ベテラン騎士も兵士たちも、あっという間にアース・ドラゴンに喰われてしまった。
しかたがない。ぼくが戦うか。
<第2章の主な内容>
救援要請が来た。南城壁を守る氷姫から。彼女は、王立魔法学園北校が誇る三大魔法剣姫の一人。氷結魔法剣を持つ魔法姫騎士だ。
さっそく救援に行くと、氷姫たち守備隊は、アース・ドラゴンの大軍に包囲され、絶体絶命の窮地だった。
どう救出する?
<第3章の主な内容>
南城壁第十六砦の屋上では、三大魔法剣姫が、そろい踏みをしていた。氷結魔法剣の使い手、氷姫。火炎魔法剣の炎姫。それに、雷鳴魔法剣の雷姫だ。
そこへ、魔王の娘にして、王都侵攻魔王軍の総司令官、炎龍王女がやって来た。三名の女魔族を率いて。交渉のためだ。だが、炎龍王女の要求内容は、常軌を逸していた。
交渉は、すぐに決裂。三大魔法剣姫と魔王の娘との激しいバトルが勃発する。
驚異的な再生能力を誇る女魔族たちに、三大魔法剣姫は苦戦するが……
<第4章の主な内容>
リリーシア王女が、魔王軍に拉致された。
明日の夜明けまでに王女を奪還しなければ、王都平民区の十万人の命が失われる。
なぜなら、兵力の減少に苦しむ王国騎士団は、王都外壁の放棄と、内壁への撤退を主張していた。それを拒否し、外壁での徹底抗戦を主張していたのが、臨時副司令官のリリーシア王女だったからだ。
三大魔法剣姫とトッキロたちは、王女を救出するため、深夜、魔王軍の野営陣地に侵入するが……
俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます
内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」
――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。
カクヨムにて先行連載中です!
(https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)
異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。
残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。
一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。
そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる