ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow

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第12話 トラウマと少女

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 不完全ながらも食料を確保できるようになった二人は、再び人里を目指して森の奥へと歩みを進めていた。
 だが、そんな彼らの前に、突如として、それは現れた。
 醜悪で獰猛な豚の顔を持つ人型の魔物・・オーク。その数は三体。唸り声を上げ、原始的な棍棒や石斧を手に、じりじりと距離を詰めてくる。

「くっ!」

 ディノッゾが危険を察知するよりも早く、隣のリリアの様子が急変した。
 彼女の顔からさっと血の気が引き、その瞳が絶望に見開かれる。 

「あ・・・あ・・・」

 リリアの脳裏に、封じ込めていたはずの地獄の光景が蘇る。
 燃え盛る村。人々の悲鳴。そして、少女が恐怖に慄くのにお構いなしに襲いかかるオークたちの、醜悪な笑顔。

「いやあああああああっ!!」

 リリアは甲高い絶叫を上げると、ディノッゾのことなど目に入らない様子で、がむしゃらにその場から逃げ出そうとした。パニックに陥り、ただこの場から、この記憶から逃げるためだけに、森の奥へと走り出す。

「リリア、待て!」 

 ディノッゾが叫ぶが、二体のオークが彼の前に立ちはだかり声はかき消され、リリアを追うことができない。残る一体は、逃げるリリアを嘲笑うかのように、ゆっくりとその後を追っていった。

「くそっ!」

 ディノッゾの心に焦りが生まれる。リリアを助けるには、まず目の前の二体を瞬時に排除するしかない。

「どけよ、豚野郎どもが!」

 ディノッゾは怒りと焦りを力に変え、襲い来るオークの喉元を、最短距離で貫いた。一体目を即死させると、返す刀で二体目の胴を薙ぎ払う。凄まじい威力で、オークの体は上下に泣き別れた。
 二体を、瞬殺。
 だが、ディノッゾが顔を上げた先で、信じがたい光景が広がっていた。
 逃げ遅れたリリアが、三体目のオークに組み伏せられている。

「や・・・やめて!・・・」

 か細い悲鳴が聞こえる。オークは、馬乗りになったリリアの顔を覗き込み、満足げに醜い笑みを浮かべた。そして、おもむろに、腰に巻いただけの粗末な布に手をかけ、それを外そうとし始めた。
 ディノッゾの頭の中で、何かがぷつりと切れた。
 間に合わない。ここから走っても間に合わない。

 だが、彼の体はジェスロに教わった型のことを覚えており、そして手には槍がある。
 槍に短く!そう念じると、短くなった槍を持ち投擲の体勢を取った。
 左腕を伸ばし、手のひらをオークの背中に向け狙いを定める。そして槍を握った右手を頭の少し後ろに持ってきた。
 他の構えがあるのか分からないが、ジェスロに教えられたのはこの構えのみで、そのジェスロも得意なのは剣だった。それでも、やるしかない!

 狙うはリリアのすぐ上にいる、オークの背中。一瞬でも狙いが逸れれば、リリアを傷つける。
 頭は自信がないので、的の大きな背中としたのだ。

「――死ね」

 呟きと同時に放たれた槍は、一筋の黒い閃光となって空を切り裂いた。
 狙いは僅かに逸れた。
 槍は、オークの背中ではなく、その頭部に信じられない速度で激突したのだ。
 ドゴォン!
 鈍い爆発音と共に、オークの頭部は原型を留めず吹き飛んだ。
 巨体は痙攣しながらリリアの上に覆いかぶさる。ディノッゾは激しく息をしながら、オークの死骸の山を乗り越え、リリアの元へと駆け寄った。
 彼がオークの死体をどかそうとして、その異変に気づいた。

 オークの両腕が、あり得ない方向にねじ曲がり、肩の付け根から半ば引きちぎられるように、無残な肉塊と化していたのだ。

「なんだ、これは?・・・」 

 ディノッゾは眉をひそめる。

「槍が当たったのは、頭のはずだ。なのに、なんで腕がこんなことに?・・・ まるで、内側から力づくで引きちぎろうとしたような・・」

 ディノッゾの脳裏に、組み伏せられていたリリアが、オークの両腕を必死に掴んでいた姿が浮かんだ。

「まさか、この嬢ちゃんが? いや、馬鹿な。十四の小柄な少女の力で、オークの腕がこうなるもんか!」

 ディノッゾはその不気味な謎を、やはり「魔法の槍が持つ、未知の能力の副作用」として無理やり結論付けた。恐怖で震えながら虚ろな目で空を見つめるリリアを、そっと抱き起こした。

 ディノッゾは、激しく息をしながら、オークの死骸の山を乗り越え、リリアの元へと駆け寄った。
 彼女は、恐怖で震えながら、ただ虚ろな目で空を見つめている。 

 彼がオークの死体をどけようとしたその時、リリアはふらりと立ち上がると、近くに落ちていた手頃な木の棒切れを拾い上げた。そして、一体目のオークの死体に歩み寄ると、無言のまま、その頭部を何度も、何度も、執拗に叩き始めた。
 ゴン、ゴツン、と鈍い音が、静かな森に不気味に響き渡る。

 ディノッゾはその異様な光景に一瞬言葉を失ったが、何も言わなかった。それが、今の彼女に必要な儀式なのだと、直感的に理解したからだ。
 彼は、リリアの背中に聞こえるように、しかし独り言のように呟いた。

 ディノッゾは、その不気味な謎を、やはり「魔法の槍が持つ、未知の能力の副作用」として無理やり結論付けた。
 そして最後の魔石を抜き終わる頃、リリアの動きも止まっていた。木の棒を取り落とし、その場にへたり込んでいる。

 気が付けば西の空が赤く染まり、長い影が森を覆い始めており、夕刻が迫っていることを物語っていた。

 ・
 ・ 
 ・  

 その夜、二人は二度目の野営をした。
 ディノッゾは、リリアを後ろから抱きしめる形で横になった。彼女の体はまだ小さく震えている。
 しばらくして、リリアが嗚咽混じりの声で呟いた。

「ごめんなさい、ディノッゾさん」

「もういい。何も言うな」 

 そっと頭を撫でる。

「約束しただろ。お前は俺の後ろにいればいい。それだけでいいんだ」

 リリアはぶっきらぼうだが、絶対的な信頼に満ちた言葉に何も言えず、ただ彼に背中を預け声を殺して泣いた。

 ディノッゾは彼女が泣き疲れて眠るまで、ただ黙って抱きしめ続けた。
 程なくしてリリアが泣き疲れて眠った後、女の頭をもう一度優しく撫で、安堵の息を吐くのだった。

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