ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow

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第43話 聖人の一夜と、いつもの朝

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 ​やがて、黄金色の光が、ゆっくりとディノッゾの体の中へと完全に吸収され、消えていく。
 それと同時に、ディノッゾの瞼が、静かに開かれた。
 ​その瞳は、全てを見通し、全てを受け入れたかのような、深く、静かで、どこか悟りを開いたかのような澄んだ瞳。
 ディノッゾは、ゆっくりと、しかし、ふらつくことなく、その身を起こした。体には傷一つない。
 ​彼は、まず、心配そうに自分を見つめるリリアに向き直った。
 そして、深々と、まるで初対面の貴婦人に対するかのように、頭を下げた。

 ​「リリア殿。貴女の温かい御心に、心より感謝を。ありがとうございました」
 ​「え……? ディ、ディノ……?」

 その、やたらと丁寧な物言いに、リリアは戸惑うばかりだ。
 ディノッゾは、そんなリリアには構わず、今度は呆然と立ち尽くすセスティーナへと向き直った。
 ​彼は、その場で優雅に、しかし完璧な所作で、片膝をついた。
 そして、セスティーナの、血で汚れたままの手を取り、その甲に、そっと唇を寄せた。
 それは、淑女に対する、騎士が行う最上級の敬意を示す挨拶だった。

 ​「―――セスティーナ様」

 ​彼は、顔を上げ、穏やかな笑みを浮かべた。
「我が麗しの淑女(マイ・レディ)。貴女の気高き魂に、心からの感謝と、祝福を」
 ​「…………は、はあ……?」

 セスティーナは、言葉を失った。
 目の前で起きていることが、全く理解できない。これは、本当に、あのデリカシーのない、ただの御者のオッサンなのだろうか。
 ​だが、その奇妙な時間は、長くは続かなかった。
 ディノッゾは、すっくと立ち上がると、急に、こめかみを押さえて、顔をしかめた。

 ​「……ってて……。あれ……? 俺は、何を……?」

 ​彼の瞳から、先ほどの澄み切った光が消え、いつもの、少し眠そうな、気のいいオッサンの瞳に戻っている・・・とはならなかった。

 彼は、自分が片膝をついていたことや、セスティーナの手を取っていたことなど、全く覚えていないようだった。
 ​「……? なんだ、みんなして、そんな鳩が豆鉄砲食ったみたいな顔して」
 ​ディノッゾの、あまりにもいつも通りの口調。
 リリアも、アレンも、レイラも、そしてセスティーナも。
 誰もが、今の出来事が、まるで夢か幻であったかのように、ただ、呆然と彼を見つめ返すことしかできなかった。


 第47話:聖人の一夜と、いつもの朝
「我が淑女(マイ・レディ)。貴女の気高き魂に、心からの感謝と、祝福を」

 ディノッゾの、あまりにも流麗な、そして柄にもない振る舞い。
 その異常事態は、一時的なものではなかった。更にセスティーナに続きレイラの手を取り淑女に対する

「レイラ殿、貴女の魂を感じまする。感謝を」
 彼の澄み切った「悟り」の瞳は、その輝きを失うことなく、穏やかに周りを見据えている。
 セスティーナは、言葉を失ったまま、助けを求めるようにリリアに視線を送った。

「……リリア様。この御仁は、いつも、こうなのですか?」

「い、いえ! 全然、そんなことありません!」

 リリアは、必死に首を横に振った。いつものディノなら、「腹減った」か「面倒くせえ」しか言わないはずだ。
 やがて、街から担架を持った衛生兵たちが駆けつけてきた。

「ディノッゾ殿、ご容態は!」

「おお、ご苦労。見ての通り、私は無事です。ですが、皆の心労を考えれば、これに乗るのが道理というものでしょう」

 ディノッゾはそう言うと、自ら用意された担架の上に静かに横たわった。その所作は、まるで凱旋将軍のようだった。
 宿屋に戻ってからも彼の「聖人モード」は一晩中続いた。

 リリアが「ディノ、お腹すいてない?」と聞けば、「ええ、リリア殿。貴女が淹れてくれるお茶があれば、それで十分です」と微笑む。

 アレンが「御者さん、体は……」と案じれば、「ありがとう、若き剣士よ。君の友情が、何よりの薬だ」と、芝居がかった口調で返す。
 そのあまりの変貌ぶりに、リリア、アレン、レイラ、そしてセスティーナの四人は、どう接すればいいのか分からず、ただ遠巻きに見守ることしかできなかった。

 しかし、程なくしてディノッゾは瞼を閉じて、眠りについた。

 ・
 ・
 ・

 明け方、ディノッゾの部屋のベッドの上で。
 彼の瞼が、ゆっくりと開かれた。

「……ん……」

 重い体を起こすと、ガンガンと、しかしどこか心地よい疲労感の名残が頭を支配している。
(……あれ? 俺は、確か、あのハメハメハとかいうのをぶっ放して……)

 記憶は、そこで途切れていた。

「……ディノ! 目が覚めたのね!」

 隣の椅子でうたた寝していたらしいリリアが、飛び起きて駆け寄ってきた。その目には、涙が浮かんでいる。

「リリア……? 俺は、どのくらい寝てたんだ?」
「丸一日と、一晩だよ! もう、すっごく心配したんだから!」
「そうか……。悪かったな」

 ディノッゾは、いつもの、少し眠そうな、気のいいオッサンの顔で、リリアの頭を撫でた。
 その、あまりにも「いつも通り」の姿に、リリアは心から安堵した。
 そして、恐る恐る尋ねた。

「……ディノ、昨日の夜のこと、覚えてる?」
「昨日の夜? いや……あれを撃った後、セスティーナさんに抱きとめられたあたりで、記憶がねえんだ。俺、何かやらかしたか?」

 その問いに、リリアは、アレン、レイラ、そして部屋の入り口から様子を窺っていたセスティーナと、顔を見合わせた。
 四人の顔に浮かんだ、なんとも言えない、微妙な表情。
 ディノッゾは、自分が、とんでもなく恥ずかしい何かをやらかしてしまったらしい、という事実だけを、その場の空気から察するしかなかった。
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