ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow

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第60話 最後の休息とオッサンのいびき

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 ​第二階層は、結論から言えば、ディノッゾにとっては散歩のようなものだった。
 子供たちが苦戦しかけるような強力な魔物が現れても、彼が槍を一度振るうだけで、全てが薙ぎ払われていく。もはや、子供たちに出番はなかった。
 ​ディノッゾが、文字通り「露払い」をしながら難なく対処し続けた結果、一行は、驚くほどの速さで第二階層を突破。
 ​そして今、彼らは、第三階層のボス部屋の前にいた。
 そこが最終地点であることは、誰の目にも明らかだった。
 これまでの黒曜石の扉とは比較にならないほど巨大な黒曜石で作られたかのような荘厳な扉。その前だけ、魔物の気配が完全に途絶えている。最後のセーフエリアだ。
 ​「……よし。ここで最後の休憩だ。腹ごしらえして、しっかり眠れ。決戦は、その後だ」
 ​ディノッゾの言葉に、子供たちは緊張した面持ちで頷いた。
 ​リリアが、アイテムボックスからオランジの実を取り出し、皆に配っていく。
 その、鮮やかなオレンジ色の一切れを手に取り、リーダーのリオが、はっと目を見開いた。

 ​「こ、この艶と香り……まさか!」

 ​彼は、恐る恐る一口かじり、そして、驚愕に声を上げ固まった。

 ​「間違いない! これは、『死の森』でしか採れないと言われる、最高級のオランジだ! 王都でも、スプーン1杯で銀貨数枚は下らないという……!今てに持っているのでさえ金貨が飛ぶぞ」

 ​その言葉に、他の子供たちも、自分たちが食べようといているのが、とんでもないデザートであることに気づき、驚きを隠せない。
 ​ディノッゾは、そんな子供たちの反応を、不思議そうに眺めていた。

 ​「へえ、そんなに高いのか。まあ、美味いなら何でもいいだろ。金はとらんから心配するな。精力がつくぞ」

 ​そう言うや否やガブリと、銀貨数枚分の価値がある果実を、リンゴのように頬張った。
 ​腹が満たされると、疲労と緊張がどっと押し寄せる。

 リリアがディノッゾに続いて食べ始め、そして皆を促した。
 すると一人、また一人と、恐る恐る(高価だから)口に入れ、言葉にならない絶叫をする者、うめぇーと唸る者様々だが、腹を満たすには十分だ。

 ​ディノッゾとリリア、そして子供たちは、交代で見張りをすることに決め、まずはディノッゾ以外の全員が、壁に寄りかかって眠りについた。
 ……はずだった。

 ​しかし、カミラは、眠れずにいた。
 漆黒の扉の向こうにいるであろう、最強の敵、ドラゴン。その威圧感が、肌をピリピリとさせる。
 ​だが、それ以上に、彼女の安眠を妨害しているものがあった。
 ゴゴゴ……グガアアアァァ………。
 ズゴゴゴゴゴ………。
 音の発生源は、一番最初に眠りについたはずの、彼らのリーダー。
 そう、今の子供たちにとって、最大の敵はこの【騒音】だったのだ。

 そうディノッゾのいびきだった。
 彼は、大の字になって、まるで大地を揺るがすかのような、豪快ないびきをかいて寝ている。
 ​(……この、緊張感の欠片もない……!)
 ​カミラは、額に青筋を浮かべた。

 やがて、彼女と見張りを交代したリオも、そのいびきに眉をひそめた。
 あの音はこれかよ!と。
 次に交代したサラも、ピートも、リックも……。
 ​その夜、見張りに立った皆が、全く同じ想いを、心の中で叫んでいた。

 ​(((((オッサン、いびきうるせぇ……!)))))

 ​最強の敵との決戦を前に、九人の生存者たちの心を支配していたのは、ドラゴンへの恐怖ではなく、自分たちの先生の、あまりにも無防備な騒音だったのである。
 ​しかし、程なくして、そのいびきがぴたりと止んだ。
 ​次に異変に気づいたカミラが目を覚ますと、ディノッゾが起き上がり、静かに見張り台(通路の角)へと向かう後ろ姿が見えた。

 ​そして、夜が明けるまでの大半の時間、彼が一人で見張りを続けた。それによりもたらされた静寂の中で、子供たちは、誰もが悪夢にうなされることなく、泥のように穏やかに眠ることができたのだった。

 ​そして夕方。十分な睡眠により体力を取り戻した一行は、漆黒の扉の前に、再び集結していた。
 その顔には、もう恐怖の色はない。あるのは、この理不尽な試練を乗り越え、必ず生きて帰るという、強い決意だけだった。
 ​「……さて、と」
 ​ディノッゾは、腕を組んで、目の前の荘厳な扉を睨みつけた。
 ​「この先にいるのが、ここの大将だ。これまでみてえな雑魚とは訳が違う。ありったけの準備をしていくぞ」
 ​彼は、リリアに頷きかけた。
 ​「リリア、これまでアイテムボックスに入れるだけだったドロップ品を、全部ここに並べてくれ」
「はい、ディノ!」
 ​リリアがアイテムボックスを開くと、これまで倒してきた数多の魔物たちが残した、武具や素材が、目の前に小山のように積み上げられた。
 ディノッゾは、鑑定の虫眼鏡を手に、その山を一つ一つ検分していく。
 ​「リオ、お前の盾はBランクだが、こっちの【ゴーレムの鉄盾】の方が物理防御は上だ。持ち替えろ」
「カミラ、その両手剣より、こっちの【オーガバーサーカーの魔剣】の方が、お前のスキルと相性がいい」
「マヤ、矢筒をこっちの【ハーピーの矢筒】に替えろ。矢の補充速度が上がる魔法が付与されてる」
 ​ディノッゾの的確な指示で、子供たちの装備が次々と更新をされていく。
 その中で、リオが不思議そうに尋ねた。
 ​「先生……そういえば、あれから一体も、スキル玉がドロップしませんね」
 ​その言葉に、他の子供たちも頷く。
 何故か、スキル玉は、最初の九つの魔物を倒した時にしかドロップしなかったのだ。
 ディノッゾも、その謎には気づいていた。
 ​「……さあな。このダンジョンの気まぐれか、あるいは、何か別の理由があるのか。だが、今は目の前の敵に集中しろ。謎解きは戦の後でってな」
 ​全員の装備更新が終わったのを確認すると、ディノッゾは、初めて自分自身の装備に手をかけた。彼は、これまで背負っていた槍とは別に、アイテムの山の中から、黒曜石のように黒く、禍々しいオーラを放つ、別の槍を手に取った。

 ​「ディノ……その槍は?」
「オークキングが落とした業物だ。俺の槍より、少しだけ重いが、威力はこっちの方が上だろう」

 ​彼は、子供たちに向き直った。その目は、もはやただのオッサンではない。幾多の修羅場を乗り越えてきた、一人の戦士の目だった。

 ​「いいか、お前ら。リリアの言った手前、本当はてめえらだけでやらせてやりてえが、こいつばかりはそうもいかねえ」

 ​ディノッゾは槍の石突で扉をコン、と叩いた。
 ​「―――こいつは、俺も全力でいく。お前ら、死んでも俺についてこい!」
 ​「「「おおおおっ!!」」」
 ​九人の、即席で、しかし最強のパーティーが、最後の円陣を組んだ。
 ディノッゾ先生率いる、地獄の初心者ダンジョン攻略。
 その、最終決戦の火蓋が、今、切って落とされようとしていた。



​後書き失礼します。

​いつも『ラストアタック!』を読んでくださり、ありがとうございます! 作者よりお知らせです。
​本日は、皆様に二つの大変嬉しいご報告がございます!
​アルファポリス様主催の第18回ファンタジー小説大賞にて、この『ラストアタック!』が【奨励賞】を受賞いたしました! 応募総数3,248作品の中から選んでいただけたのは、ひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます!

​そして、もう一つ。現在、小説投稿サイト「カクヨム」様にて開催中の【カドカワBOOKS10周年記念長編コンテスト】という大きな舞台で、2作品同時に中間選考を突破いたしました!

​『ギフト【鑑定】だけの俺が、実は最強だったなんて聞いてない!』

​『異世界召喚された俺は余分な子でした~エラーから始まる異世界物語~』

​この勢いを、次のステップへと繋げていきたいと思っております。

​ディノッゾという、面倒くさがりなオッサンの物語も、他の作品たちも、引き続き応援よろしくお願いいたします!


2025/11/1
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