今さら嘘とは言いにくい

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO

文字の大きさ
8 / 33

八話 デート・初心者マーク付き

しおりを挟む


「旨かった……。高いだけあるわ」

「あの肉っ! って感じなのにジューシーさもあるの、家庭じゃ難しいかね」

 ボリュームもあったし、腹も一杯だ。晃は再現に意識が向いているようだ。実は料理好きなんだろうか。ピザも蕎麦もノリノリで作ってたし。

「この後どーすんの? まさかバーガー食って帰るだけじゃないだろ?」

 オレの問いかけに、晃は「まさか」と肩を竦める。

「買い物しても良いけど、どこか行きたいところある? 映画でもゲーセンでも」

「んー。まあ、取り敢えずぶらぶらする?」

 用事も無いため、フラフラと腹ごなしもかねて歩き始める。路面に面した靴屋で、スニーカーを眺め見たり、街頭広告を見ながら感想を言い合ったりと、本当に何でもない感じで歩くだけだ。

(とは言え……)

 何となく、晃の距離が今までよりも半歩近い。肩が触れそうなほどの距離感で並ぶのは、『恋人』の距離なのだろう。

 いったい何が、晃にそうまでさせるのか。もし本当にヤっていたら、オレはどんな気持ちになっていたのだろう。

(っていうか、晃のヤツ……。もしオレじゃなくて他のヤツでも、同じ様に『責任取る』ってなったのかな……)

 うわ、それ何か微妙だ。もし、航平とか宮脇と、晃が付き合いだしたら? 微妙すぎて引く。そんなの聞いたら「別に良くない?」って言っちゃいそう。

 それに、女の子だったら? そんな馴れ初めで付き合いだした親友を、オレは素直に祝福出来ないと思う。

 考えごとをしていたら、晃がトンと肩をぶつけて来た。

「あん? なんだよ」

「何考えてんの?」

「べっ、別に」

 誤魔化そうとしたが、晃はむぅと唇を曲げ、オレの手をぎゅっと握ってきた。

「お、おい」

「良いだろ」

「変だろっ」

「変じゃないよ」

 変じゃない。の後に「恋人だから」と声が聞こえた気がした。そうするともう、手を振り払うことも出来ずに、黙って握り返すしかなくなる。

(ま、まあ、地元じゃないし……)

 ここは都心だし、色々なヤツが居る。男同士で手を繋ぐヤツだって、多分居るはずだ。

 ただ手を握っているだけなのに、なぜだか落ち着かない。ザワザワと胸がざさめく。顔が熱い。

 いつも澄ました顔をして居る晃は、きっと今日もお澄まし顔なんだろうな。と思って、晃の顔を見上げる。

「――」

 晃の耳が赤いのに気づいてしまって、オレはそれきり黙ってしまった。



   ◆   ◆   ◆



 何だかんだと時間は過ぎて、晩飯を食って外に出たら、すっかり辺りは暗くなっていた。夜の街は雰囲気が変わって、なんとなくムーディーだ。

「おお、何かオシャレな居酒屋ある。あそこ良かったな」

 明るいうちは気づかなかったが、ちらほらと店が開き始めていた。雰囲気の良いバルや、レトロを意識してつくられた居酒屋。興味をひかれる店が多い。

 もう少しはやく気づいていれば、そっちに入ったのだが、残念ながら既に腹具合に余裕がない。

「今度は夜デートしようか」

「おう――あ、あのなっ」

 素直に返事しかけて、慌てて首を振る。オレはデートのつもりはなくて。そもそも、アレはイタズラで。

 言い訳しようと顔を上げると、晃が「ん?」と穏やかな笑みを浮かべていた。

 オレは押し黙って、「そう言うこと言うな」と視線を逸らす。

 やっぱり、言いづらい。

 そっぽをむいたオレの肩を引き寄せ、晃が身体を寄せる。

「お、おい」

「もう薄暗いから。それに、誰も俺たちのことなんか気にしないよ」

「そ、そうかもしれないけどっ……」

 どちらかと言うと、距離の近さに戸惑う。服越しのはずなのに、体温が熱く思えて、速くなる鼓動が聞こえそうで。

 晃が髪にキスしたのが解った。

 ビクッ、身体が震えるのを、薄く笑う声がする。

 文句を言おうと顔を上げた。唇を、何かが掠める。

「―――」

 晃は真っ赤になって顔を逸らし、そ知らぬ顔で歩き出す。

「お、前っ……、恥ずかしくなるなら、やるなよっ!?」

 こっちまで恥ずかしいじゃないか。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

気づいたらスパダリの部屋で繭になってた話

米山のら
BL
鎌倉で静かにリモート生活を送る俺は、極度のあがり症。 子どものころ高い声をからかわれたトラウマが原因で、人と話すのが苦手だ。 そんな俺が、月に一度の出社日に出会ったのは、仕事も見た目も完璧なのに、なぜか異常に距離が近い謎のスパダリ。 気づけば荷物ごとドナドナされて、たどり着いたのは最上階の部屋。 「おいで」 ……その優しさ、むしろ怖いんですけど!? これは、殻に閉じこもっていた俺が、“繭”という名の執着にじわじわと絡め取られていく話。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 ※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

欲しがり男はこの世のすべてを所望する!

相沢蒼依
BL
 幼い頃、近所で仲の良かった女の子と結婚の約束をした葩御(はなお) 稜(りょう)はモデルを経て、俳優として自分を使ってもらうべく、仕事の関係者と闇の交渉で役をもらい、徐々に人気をあげた。  幼馴染の事を探偵に調べてもらい、自分のCMが放映されるタイミングでふたりの前に現れた陵。圧倒的な存在感を放ちながら幼馴染鈴木理子の許婚と称して意表を突き、彼女の手首を強引に掴み寄せ、痛みを感じさせるキスをしてその場を去る。  計画的に彼女に近づきつつ、すべてを手に入れようと画策する陵の思惑を超えたなにかが、彼を翻弄することになる。

処理中です...