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二十八話 友人からのリークでは
しおりを挟む嘘は身を滅ぼす。とは誰が言い出したことか。ことわざではないにせよ、共感出来たからこそここまで浸透しているのだと思えば、嘘で身を滅ぼしたヤツは多いのかも知れない。
オレは食堂でカレーを食いながら、入り口の方を見ては来ないだろう人物のことを想う。食堂のカレーは美味いのに、なんだか気分が上がらない。
牛丼を送り付けあった日々も。ピザを大量に届けたあの頃も、一緒に蕎麦屋をやった日々も、帰ってこない。
ため息を吐きながらカレーをかき混ぜていたオレの目の前に、同じくカレーライスの乗ったトレイを置いて、航平と宮脇が座った。
「なにかき混ぜてんだ。さっさと食えよ気持ち悪い」
「混ぜ派のみなさんも居るんだぞ久我。納豆とか生卵派もいるんだ」
「うへ」
嫌そうに顔をしかめ、航平はスプーンを手に取り、大口を開けてカレーを口に運ぶ。
「なんか暗いぞ?」
「あー、うん」
もう一度ため息を吐こうとして、ぐっと飲み込む。また暗いと言われそうだ。
(……宮脇は、オレと晃のこと、解ってるんだよな)
何故かバレてしまった、二人の関係。宮脇なら、相談に乗ってくれるだろうか。間に立ってくれるだろうか。
「……あのさ、宮脇。ちょっと、相談が」
「相談? お前が?」
「お前には言ってねえし」
口を挟んでくる航平を睨み、宮脇を見る。宮脇は目を瞬かせ、首を捻った。
「ん? どした?」
「いや、ここじゃちょっと……。晃のことでさ。地雷踏んで」
「はぁ? アイツ地雷なんかあるかよ」
「とにかく、相談」
気の乗らなさそうな宮脇に、必死で頼み込む。
「今度なんか奢るから!」
「うーん。そういや、当の本人はどうしたよ? 交えた方が早くね?」
「いや、それは……。それに、晃のヤツ忙しいっぽくて。今週は残業とか」
だからまずは相談に乗って欲しい。そう言い掛けたオレに、再び航平がしゃしゃり出てきた。
「ん? 残業なわけねえだろ。今あそこ閑散期だぞ。トラブルもねえし」
「え?」
なんとなく、思っていたことを口に出され、言葉を詰まらせた。宮脇も眉を寄せる。
「は? じゃあ、なにやってんのアイツ。今週見てないぞ?」
「ネカフェに行ってるっぽいぞ。律が見かけたって言ってたから」
航平の言葉に、思考が停止する。
(は? 忙しくない? 残業だって嘘ついて、ネカフェに居る?)
つまり。
――つまり晃は、オレの話を聞く気がないのだ。
オレとの話し合いを避けて、ネカフェで毎日時間を潰していたのだ。
メッセージも無視して。
「―――」
ぐっと拳を握ったオレに、宮脇が心配そうに顔を歪めた。
「一緒に行くか?」
「……一人で行く」
宮脇が付いてこようとしたが、断って立ち上がる。
今の自分の感情を、どう表現していいか自分でも解らない。モヤモヤして、イライラして、哀しくて、苦しくて。
色を混ぜすぎて汚くなった絵の具みたいに、どろどろでぐちゃぐちゃしたものだった。
「深呼吸しとけ」
「……」
航平の言葉に、息を浅く吸い込む。深呼吸しようと思ったが、うまく出来ない。航平は苦笑いして「ちょっと待っとけ」と言うと、ラウンジに置かれた自販機からビールを買って戻ってきた。
無言で受け取り、一気に飲み干す。空いた缶を宮脇に押し付けて、オレは食堂を飛び出した。
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