30 / 33
三十一話 繋がる想い
しおりを挟む結論から言うと、晃はオレがやったイタズラに気づいていたらしい。それに乗っかっていたわけである。
完全にやってるなあ?
「いや、朝イチでは寝ぼけてて、マジでやらかしたと思ったんだよ。俺、毎晩葛藤してたし」
「葛藤?」
「だって好きな子が横で寝てるんだぞ」
「あ、はい」
その『好きな子』ってオレっすか。恥ずかし。
顔を赤くして照れているオレに対し、晃は既に開き直っている。
「で、後から『いや、なんかおかしいぞ』と気づいたんだけど。まあ、チャンスかと思って」
「なんのチャンスだよ」
「そりゃあ、お前と付き合うチャンスだろ。実際、無防備だから、キスし放題だったし、触らせてくれるし」
「お前、ヤバイぞ。マジで」
「ごめんて」
ごめんで済ませるな? 済ませるけど。オレだから許すわけで。
あれ。いつの間にかオレが謝る方から謝られる方に変わってんな。まあ良いか。晃が悪い。
「いよいよエッチ出来るかと思ったけど、拒否られたから……。やっぱ、無理なのかと思って……。でも、別れたくない」
「あれは――」
言い掛けて、オレをじっと見る晃に気づく。晃からは『絶対に別れてやるものか』という、強い意思を感じる。
その分、オレが好きなのだと実感するが、やってることは結構ヤバイ。
「お前な……。オレは、お前に真摯に向き合うのに、嘘吐いたままじゃまずいと思って拒否ったのに……」
「嘘から始まる真という言葉があってな」
「晃、お前……」
「ごめんて」
本当に反省しているんだろうか。口だけじゃないだろうな?
晃がオレの髪に触れた。くすぐったくて、ぴくんと肩を震わせる。
「ごめん陽介……。入社してすぐに、お前のこと、好きになったんだ。一緒にバカやれれば、それで良かったのに。親友になれて、満足してたのに」
「あ、晃……」
顔が熱い。思っていたよりずっと、オレのことを好きだったらしい。
「あんなイタズラされて、つい、責任取るって言っちゃって……。お前が、触れさせてくれるから、止まんなくて……」
「っ、お、お前な……」
「お前が嫌なことは、しないから。お願いします。好きなんだ。好きなんです。なんでもするから。別れるなんて言わないで。陽介がいないと、俺っ」
ああ。
コイツ、馬鹿なんだな。
端から見ていると、随分と滑稽で、勝手なヤツだ。だけどさ。それがオレを好きだってことが理由だって。そのくらい、オレを好きだって、解ってしまったから。
本当は、文句を言いたかったけど。一発殴ってやりたかったけど。
(オレも、コイツのこと、好きなんだなあ)
自分でも呆れるくらい、晃が好きすぎて。怒るよりも嬉しいの方が先に立ってしまう。
まあ、しょうがない。
惚れた弱みってやつだ。
「晃」
「はい」
「取り敢えず、目閉じて、歯ァ食いしばれ」
「っ」
晃は青い顔で、目蓋をギュッと閉じた。肩に力を入れ、踏ん張っているように見える。
オレは助走をつけるため、やや後ろに下がった。そのまま、全速力でダッシュする。
「おりゃあああ」
「っ……!」
晃が身構える。オレは地面を蹴って晃に飛び掛かり――。
「え?」
晃が間抜けな声を出すと同時に、オレは触れただけの唇を離した。
「え?」
晃がもう一度、目を瞬かせる。
「お前、ほんっと、馬鹿な」
「っ……。あの、その……」
「馬鹿で、ズルくて、スケベ野郎が」
「よ、陽介……?」
「でも、オレ、真面目に悩むぐらい、お前のこと、好きなんだよ」
端から見ていて、じわりと熱が上がったのが解るくらいに、晃の頬に赤味が射した。瞳が、期待と不安に揺れている。
「それは、友達として、っていう……?」
「ダチとしては100点満点あげたいけど。恋人としては赤点かな、お前」
クッと笑ってやれば、晃は感極まったようにグッと唇を結んで、オレを全力で抱き締めてきた。
「満点取れるように、頑張る」
「ん」
晃の唇が、キスを求めて近づく。ちょっとだけ、調子良いぞ、と思わなくはなかったが、オレもしたかったから、素直に受け入れた。
軽く触れあった唇を離し、じっと見つめ合う。もう一度キスしようとしてきたので、ぎゅっと足を踏みつけた。
「いっ……! 陽介?」
「いや、ここ一応公道だし、店の前だから」
「あ、はい」
先程から、ネカフェの前である。なんなら少し、人通りもある。揉めている様子をチラチラ見ていった人もいるし、イチャつく場所ではないのだ。
「……帰ろうか?」
晃の提案に、オレは一瞬悩んでスマートフォンを確認する。時刻は門限間近。通知に、宮脇からのメッセージが入っていた。
『遅くなるかも知れんから、二人分外泊申請出しとくぞ』
ナイス友情。すっかり門限のことなど頭から抜けていたが、宮脇が処理してくれたらしい。
晃の襟を掴み、顔を寄せて耳元に囁く。
「――この前の、続き、しよ」
自分で言っておいて、盛大に顔を赤らめる。晃はビクッと肩を揺らして、オレを見つめた。不安に揺れる瞳の奥に、微かに期待が色づいている。
「いい、の?」
「何度も言わせんな」
照れ隠しで晃の腹を肘で打ったら、思ったより入ってしまったらしく、晃は「ぐえ」と呻いてしばらく蹲ってしまった。
72
あなたにおすすめの小説
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
気づいたらスパダリの部屋で繭になってた話
米山のら
BL
鎌倉で静かにリモート生活を送る俺は、極度のあがり症。
子どものころ高い声をからかわれたトラウマが原因で、人と話すのが苦手だ。
そんな俺が、月に一度の出社日に出会ったのは、仕事も見た目も完璧なのに、なぜか異常に距離が近い謎のスパダリ。
気づけば荷物ごとドナドナされて、たどり着いたのは最上階の部屋。
「おいで」
……その優しさ、むしろ怖いんですけど!?
これは、殻に閉じこもっていた俺が、“繭”という名の執着にじわじわと絡め取られていく話。
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
欲しがり男はこの世のすべてを所望する!
相沢蒼依
BL
幼い頃、近所で仲の良かった女の子と結婚の約束をした葩御(はなお) 稜(りょう)はモデルを経て、俳優として自分を使ってもらうべく、仕事の関係者と闇の交渉で役をもらい、徐々に人気をあげた。
幼馴染の事を探偵に調べてもらい、自分のCMが放映されるタイミングでふたりの前に現れた陵。圧倒的な存在感を放ちながら幼馴染鈴木理子の許婚と称して意表を突き、彼女の手首を強引に掴み寄せ、痛みを感じさせるキスをしてその場を去る。
計画的に彼女に近づきつつ、すべてを手に入れようと画策する陵の思惑を超えたなにかが、彼を翻弄することになる。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる