脚だけでイく変態に愛され契約中~週一回、俺の脚は売られる~

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO

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二話 トラブルは突然に

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「雨下とは大学が一緒なんだ。店を出すとき、随分相談に乗ってもらってね」

 今日の仕込みをしながら、斎藤さんがそう言う。俺はその話を聞き流しながら、仕込みの手伝いをしている。仕事内容としてはホールスタッフなのだが、手が空いている時は他の雑用も進んでやっていた。斎藤さんは色々便宜を図ってくれるし、余った食材なんかをくれたりもするので、そのお礼だったりする。

 雨下、という男は、週に二、三度『セレンディピア』を訪れるようになった。今ではすっかり常連で、俺をはじめ、スタッフの顔も覚えられているようだ。大抵は軽いツマミと一緒に、ワインを二杯だけ飲んで帰っていく。雨下が来店した時は、斎藤さんに声をかけるという暗黙のルールは出来上がったが、俺自身は雨下という男と喋ったのは、最初のあの日だけだ。

 よく来る、オーナーの友人。それだけだった。



 ◆   ◆   ◆



「ハウスワインでよろしかったでしょうか?」

 と、いつも通りの会話をした俺に、雨下はワインリストを眺めながら「うーん」と唸る。

「いや、今日は少しゆっくりしようと思うから、ボトルでもらおうかな」

「あ、はい。かしこまりました」

 どうやらいつもとは違う注文をするつもりらしい。なんとなく、斎藤さんの友人という理由だけでなく、この店が気に入ったのかもしれないな、と思った。斎藤さんが「雨下は良いもの食べ慣れてるから、緊張するんだよ~」と笑っていたのを思い出し、思わず唇を緩める。

(しかし、今日は混んでるな。せっかく、ゆっくりしてくれるっていうのに……)

 金曜日とあって、今日は店内が騒がしかった。合コンで利用しているらしいグループが、少々盛り上がってしまっているらしく、声が大きい。ちらちらとそのグループを見て眉をひそめるお客さんもいるので、あまり目に余るようだったら、声をかけなければいけないかもしれない。

(ちょっと、憂鬱だなあ……)

 そういう損な役回りは、大体俺に回ってくる。女性スタッフがいうよりも俺の方が良いということもあるし、そういうクレームの処理はキッチンではなくホールがやる。それで済まない時は斎藤さんが出てくるだろうが――。

 ホールスタッフは女性が多いので、俺がやることになるだろう。今日は他の男子メンバーはシフトに入っていないようだ。

 幸い、今のところ合コンの男子たちが声が大きくなると、向かいに座っている女子たちが抑えるように言ってくれているようなので、トラブルにまではなっていない。女子たちは迷惑そうだったが。

 ホールの様子を見ながら接客をしていると、不意に雨下が声をかけてきた。

「あ、ちょっと良いかな」

「はい、なんでしょう?」

 追加注文だろうと近づくと、雨下は斜め向かいのテーブル席の女性を見ながら口を開いた。

「あそこの、グレーのパンプスのお嬢さんが食べてる料理、何かな。美味しそうで」

「えっと……。スペッツァティーノですね。牛肉ときのこを赤ワインで煮込んだ煮込み料理です」

 そう答えながら、内心(パンプス?)と首をひねる。雨下が指した女性は、真っ赤なワンピースに黒いボレロを羽織っていた。なんとなく、違和感を抱く。

「おっ。牛肉か。美味しそうだ。それ、貰える?」

「かしこまりました」

 席を離れようとした時だった。

「良いって良いって! 俺らが奢るからさ!」

 と、大声がすると同時に、後ろからドン! と背中を押される。青年は酔った足取りで、背後に俺がいるとは考えないまま、後ろ向きに歩いていたらしい――。

 雨下のテーブルに置かれたボトルが倒れ、ワインをまき散らしながら床に落下した。

 ガシャン! ガラスが飛散する音に、青年はようやく我に返ったような顔をして、顔を青ざめさせた。

「あ――」

 一瞬、思考が停止してしまった。雨下が驚いた顔でハンカチを差し出したので、ようやく意識を取り戻す。

「大丈夫?」

「あ、大丈夫……すみません。すぐ片付けます」

「あ、あのっ、ごめんなさい、俺っ……」

 青い顔をして謝罪する青年に、俺は「大丈夫です。濡れませんでしたか?」と言いながらガラスを拾う。騒ぎに気付いた他のスタッフが、雑巾とチリトリを手に近づいてくる。

「すみません、雨下さん。すぐに代わりのワインを――」

 そう言いながら顔を上げた俺は、あまりの惨状に絶句した。

 雨下は穏やかに笑っていたが、グレーのスーツがワインに濡れて赤く染まっていた。

「ヒェッ……」

 思わず息を呑んだ俺に、雨下がククと笑い声をあげた。

「あっ、スーツ! クリーニングっ……!」

「いやあ、困ったね」

 そのうち、騒ぎに気付いて斎藤さんも顔を出す。謝り倒す青年に雨下が「大丈夫ですから」と宥めてそのまま会計を済ませて帰って貰う。斎藤さんも、被害があったのが雨下だけだったので少しホッとしていたようだった。

「取り敢えず、そのナリじゃ困るだろ。俺の予備のズボンあるから」

「悪いな」

「神足くん、ロッカー分かる? 案内してあげて。君も濡れちゃったね。着替えはある?」

「あ、はい。ジーンズなんですけど……」

「それで良いよ。着替えておいで」

 店では黒いズボンと決まっているので、普段は出勤してから着替えている。今日はジーンズで来ていた。

(……スニーカー……これ、落ちるかな……)

 チラリ、おんぼろのスニーカーを見る。ワインが跳ねて、シミになっていた。

「えっと……雨下さん、こちらに」

「ありがとう」

 雨下を促し、バックヤードに向かう。なんとなく、靴の中まで濡れている気がした。





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